若手時計師を支援する「ヤング・タレント・コンペティション」、2022年はポーランド出身のマチェイ・ミシュニックが受賞

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2022.12.29

世界の若手時計師の育成と独立を支援する「ヤング・タレント・コンペティション」。2022年は、ポーランド出身のマチェイ・ミシュニックがこのコンクールにおいて勝利を収めた。彼の言葉を引用しながら、受賞作品について紹介する。

マチェイ・ミシュニック、フランソワ-ポール・ジュルヌ、マイケル・テイ

証書を手にする2022年の受賞者マチェイ・ミシュニック(左)とフランソワ-ポール・ジュルヌ(中央)、マイケル・テイ(右)。
Originally published on Montres De Luxe
2022年12月29日掲載記事


受賞作はトゥールビヨンとデテント式脱進機を搭載した懐中時計

マチェイ・ミシュニックの懐中時計

ヤング・タレント・コンペティションで優勝に輝いた、マチェイ・ミシュニックの懐中時計。

 2015年より開催されている「ヤング・タレント・コンペティション」は、世界で最も才能のある若い時計師に賞を授与し、独立への道を支援するために行われるコンクールだ。ラグジュアリーウォッチのリテーラー、アワーグラスの協力のもと、F.P.ジュルヌがこのコンクールを率いてきた。F.P.ジュルヌのフランソワ-ポール・ジュルヌとアワーグラスのマイケル・テイは、高級時計製造の技術を伝え、職人の技を広めるという同じ目標を有している。

 選考基準は技術力、再現の複雑性、デザインセンス、美的感覚、そして職人技の質だ。

 優勝者には証書に加え、時計製作ツールの購入や自身の時計プロジェクトの財源となる2万スイスフランの賞金が授与される。

 2022年のヤング・タレント・コンペティションの審査員は、フィリップ・デュフォー、アンドレアス・ストレール、ジュリオ・パピ、マーク・ジェニ、マイケル・テイ、エリザベス・ドーア、フランソワ-ポール・ジュルヌという、国際的な時計業界の主要人物で構成されている。

 2022年の優勝者となったマチェイ・ミシュニックの作品を紹介する前に、彼自身について紹介しよう。ポーランド出身のマチェイ・ミシュニックは、独学で時計製造について学び、2018年6月にワルシャワで時計製造の職人資格を取得した。2021年9月には、ポーランドのグダニスク工科大学で物理の学士を取得している。

 受賞作は、トゥールビヨンとデテント式脱進機を搭載した懐中時計だ。以下、マチェイの言葉を引用しながら作品を紹介しよう。

マリンクロノメーターを発想源とする懐中時計

マチェイ・ミシュニックの懐中時計

ケースは真鍮、チェーンと吊り具は銀で製作するなど、美的観点も追及。

「マリンクロノメーターが私の懐中時計の着想の源です。そのためケースは真鍮製となっていますが、コントラストを強くするために、チェーンと吊り具は銀で製作しました。

 パーツのほとんどは、数値を入力する機械を使わずに私の工房で考案されています。ベーシックなろくろ、フライス旋盤、手動の機械を使用して時計を製作しました。

 視認性の為に、ステンレススティール製の針は加熱による酸化処理を施しブルーにしました。私の考えでは、青焼きの針はシルバーダイアルのブラックインデックスとの相性がいいと思います。より複雑なのは、時針が一般的な時計と異なり、1時間に1回ジャンプするジャンピングアワーとなっている点です」

ムーブメントの技術的特徴

マチェイ・ミシュニックの懐中時計

直径約5cmのケースにトゥールビヨンとデテント式脱進機を搭載。

「設置型のマリンクロノメーターのように、脱進機はピボット採用のデテント式を取り入れました。テンプの振動数は2ヘルツとなっています。デテント式脱進機は摩擦に強い特性を持っていますが、耐衝撃性は持ち合わせていません。

 このため、私は腕時計より懐中時計を選択し、それに加えてトゥールビヨンを搭載し、テンプのバランスの問題を軽減しています。

 またツインバレルを採用し、十分なトルクを確保しました。トゥールビヨンを搭載する時計の主要な問題はケージの慣性モーメントであり、その軽減のためにトゥールビヨンケージのパーツは非常に繊細でデリケートなものとなっています。

 ケージはとても重く、約2gありますが、慣性モーメントの問題は軽減されています。テンプ、ピニオン、歯車は切り離され、ブロンズ製のゼンマイで繋がれています。脱進機の歯車はふたつのルビーを備えたチューブでピニオンのステンレススティール軸の周りを回転しています。ゼンマイはピニオン上に歯車を維持する形をしており、歯車は脱落しません」

「ケージが停止すると、脱進機が開放されます。脱進機が動き、ケージが回転を始めます。脱進機がルビー上で停止すると、ケージは動き続け、運動エネルギーを消耗し、わずかに戻ります。ケージの戻りは、ケージの慣性モーメントの力とゼンマイの反力によるものです。

 トゥールビヨンを搭載する多くの時計では、ケージは脱進機と一緒に停止し、脱進機の構成要素に一時的に大きな負荷がかかり、不要な振動が発生します。今回の解決法では、デレク・プラットやカロル・ロマンなどが提唱した解決法と同様に、ゼンマイが振動を吸収するようになっています。

 テンプにはブレゲ式ヒゲゼンマイを採用しています。テンプ上の2本のネジで振動速度を調整します。その他のネジはテンプのバランスを取る役割を果たし、トゥールビヨンケージもまた銀の錘でバランスを取っています。銀を採用した理由は、密度が高いからです」

パーツのほとんどは手作業で作成

「今回の時計は、金属の素材をそのまま使用しています。塗装やメッキはしておらず、針と3本のネジだけ酸化処理でブルーにしました。銀製パーツには硫化処理を施し、文字盤と小さなプレートに暗めの色調を与えています。

 パーツのほとんどを自分で作り、すべて手作業で仕上げました。ただ時計のチェーン、風防、18点のルビー、ヒゲゼンマイ、2本の主ゼンマイ、40本のネジのうち28本は、私の工房で作られたものではありません。サインのエングレービングも私ではなく、プロのエングレーバーにお願いしました」

数値情報:
直径:蝶番と錠を除いて4.9cm、蝶番と錠を含むと5.2cm
高さ:7.1cm、厚さ:ネジ無し1.55cm、ネジ有り1.67cm
重量:鍵と鎖付き112.2g、鍵と鎖なし100.2g

マチェイ・ミシュニック

2022年のヤング・タレント・コンペティション優勝者、ポーランド出身のマチェイ・ミシュニック。



Contact info: F.P.ジュルヌ東京ブティック Tel.03-5468-0931


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https://www.webchronos.net/news/54893/
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