2007年にブランドとして最初のモデルを発表した直後、偶然に遭遇したローマン・ゴティエ氏本人にインタビューを行い、おそらく日本で最初の紹介記事を書いてから15年。その後に発表された「インサイト・マイクロローター」とは一体、どんな時計であり、かつての初期モデルとはどう違い、どう進化したのか?
そんな謎を解き明かすべく、興味津々でインプレッションを開始した。
Photographs by Msanori Yoshie
名畑政治:取材・文
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]
「インサイト・ マイクロローター ナチュラルチタン」インプレッション項目
グランフー エナメルのオフセンターダイアルと、テンプをダイアル側に露出したデザインが独自性をアピールするローマン・ゴティエならではのモデル。ケースは丹念にポリッシュされたナチュラルチタン。自動巻き。33 石。2万8800振動/ 時。パワーリザーブ約80時間。Ti(直径39.5mm)。5気圧防水。1188万円。
1、ケース
リュウズは引きやすく、回しやすいか? : ◎
リュウズを引き出した際、左右のガタはないか? : ◎
2、ブレスレット&ストラップ
バックルは外しやすいか? : 〇
ブレスレットの遊びやストラップの曲がり・穴のピッチは適切か? : ◎
3、文字盤、針、風防
強い光源にさらされた際、インデックスと針が文字盤に埋没しないか? : ◎
文字盤と針のクリアランスは過大ではないか? : ◎
4、ムーブメント
針合わせは滑らかか? : ◎
ローターの回転音は耳障りではないか? : ◎
歩度測定器による精度テスト(静態精度)
T0時 | T0時 | T0時 | T24時 | T24時 | T24時 | T48時 | T48時 | T48時 | |
歩度 | 振り角 | 片振り角 | 歩度 | 振り角 | 片振り角 | 歩度 | 振り角 | 片振り角 | |
文字盤上 | -2秒/日 | 250° | 0.0ms | -2秒/日 | 250° | 0.0ms | -6秒/日< | 214° | 0.0ms |
12時上 | +4秒/日 | 254° | 0.0ms | +3秒/日 | 200° | 0.0ms | +4秒/日< | 175° | 0.0ms |
3時上 | 0秒/日 | 257° | 0.2ms | -2秒/日 | 203° | 0.2ms | +1秒/日< | 182° | 0.3ms |
6時上 | -1秒/日 | 256° | 0.0ms | -2秒/日 | 198° | 0.0ms | +2秒/日 | 181° | 0.0ms |
9時上 | +3秒/日 | 251° | 0.1ms | +6秒/日 | 205° | 0.2ms | +8秒/日 | 181° | 0.2ms |
文字盤下 | +5秒/日 | 298° | 0.1ms | +3秒/日 | 248° | 0.1ms | +4秒/日 | 215° | 0.1ms |
平均 | +2秒/日 | 269.5° | 0.06ms | +1秒/日 | 217.3° | 0.08ms | +2.1秒/日 | 19.3° | 0.1ms |
古典とアバンギャルドが融合したローマン・ゴティエの意欲作
私が最初にローマン・ゴティエの時計を紹介したのは2007年8月に発行された時計専門誌だったが、そのきっかけは非常にラッキー。なぜならヨーロッパの時計雑誌で目にしたゴティエ氏の時計を、いつか紹介したいと思っていたところ、バーゼルワールドでフィリップ・デュフォー氏のブースを訪ねたら、なんとゴティエ氏本人がいたのだ! そこで早速、デュフォー氏に紹介していただき、その場で簡単なインタビューが実現。それをもとに紹介記事を作成した。
この時、紹介したモデルは「プレスティージHM」で、ゴティエ氏独自のアイデアとデザインで構成された個性豊かなモデルだった。その特徴を私は当時、こう表現した。「彼の時計の特徴は、まず時刻表示が中心軸からズレたオフセンター・デザインであること。次にゼンマイ巻き上げと針合わせをケース背面の大きなリュウズで行うこと。脱進機は緩急針を持たないフリースプラング式で、歩度の調整にはテンプに付けられた4つのマスロット(錘)で行うこと。また、歯車の専門家らしく、歯車のデザインが自転車のギア・ホイールのように肉抜き加工された美しいスタイルを持つこと。さらにムーブメントに用いられる小ビスのスロットが波形になっており、力が均等にかかり、スリップしにくいように考慮されていること」と。
さて今回、私が担当する「インサイト・マイクロローター ナチュラルチタン」を当時のモデルと比べてみよう。すると15年を経過した今も、その特徴は驚くほど共通だ。つまり、「オフセンター・デザインのダイアル」「フリースプラング式」「フォルムが美しい歯車」「小ねじのスロットが波形」などである。
逆に初期モデルと異なるのは、「ゼンマイ巻き上げと針合わせをケース2時位置のリュウズで行う」「マイクロローター式自動巻き」などだ。
もちろん初期モデルを継承する現行モデルの「プレスティージHMS」などは、手巻きと背面大型リュウズなどの特徴を受け継いでいる。とはいえ最初のモデルから現在まで機械的特徴とイメージが一貫していることは、ローマン・ゴティエの方向性の正しさとメカニズムの信頼性の証しといえる。
では実際に着用するとどうか? クロノス日本版編集部からチェック項目として提示されたリュウズのガタや操作感に特に問題は感じない。また、ローター作動音も耳に障るような雑音は発生せず、ほぼ無音。その滑らかな作動がダイアル面から眺められるのは楽しい体験だ。
ケースやブレスレットの仕上げもガサツな感じはまったくなく、ケース自体が古典的デザインの薄型なので、シャツの袖口に干渉することなく、軽快な着け心地が楽しめる。当然、細部の仕上げも美しく、持つ喜びを感じられるモデルだ。
ただ、視認性は、それほど良好とはいえないだろう。だが、そもそもオフセンターのインダイアルで時刻を表示するので「あらゆる条件下で最高の視認性を確保する」といった機能は最初から求めていないことは明白。もちろん、深いブルーのグランフー エナメルダイアルにくっきりとしたクローム仕上げのローマ数字インデックスと18Kホワイトゴールドの針の組み合わせなので、強く光が当たる場面でも時刻はちゃんと読み取れる。
さらにいえばダイアル面に配置されたテンプは個人的にはあまり好みではなく、もしも表に出すなら、もっと大きなテンプにしてほしい。
また、リュウズがケース2時位置にあるが、操作性だけなら4時位置ぐらいがベストだろう。そして私が思うローマン・ゴティエの最大の魅力は歯車のデザインと仕上げの美しさ。できればこの美しい歯車をダイアル側から確認できるような構造にしたほうが、より一層、ゴティエの魅力を訴求できるのではないかと思う。
特に背面に配置された小さな丸いリングを連結したデザインの歯車は、かつてフランス製ハンドメイドサイクル(自転車)の雄と呼ばれたパリのルネ・エルス( RenéHerse)のチェーンホイールに共通する美しさがある。だから私は、インサイト・マイクロローターをケースバック側から眺めるのが好きだ。
実は以前からローマン・ゴティエの時計に持ち続けている謎がこれ。この個性的な歯車は、一体、何にインスピレーションを得たものなのか? もしかすると古い自転車のチェーンホイールがモチーフではないのか? これを一度、直接本人に聞いてみたいと思うのである。
https://www.webchronos.net/comic/25774/
https://www.webchronos.net/features/83243/
https://www.webchronos.net/features/47577/