発表直後から、時計マニアに限らず多くの人々の注目を集めたムーンスウォッチ。手にした人々に、それぞれの気付きを与えたであろうこのコレクションから、「MISSION TO URANUS」を実際に使用し、その本質を探ってみたい。
Text & Photographs by Tsubasa Nojima
2022年12月27日公開記事
2022年最大の話題作を振り返る
2022年も、いくつかのニュースが時計界を賑わせたが、その中でも特に印象深かったのは、「ムーンスウォッチ」の登場ではないだろうか。
時計マニアだけではなく、ファッションに敏感な人々をも熱狂させたムーンスウォッチ。発売日の3月26日には、大勢の購入希望者が店舗に殺到し、混乱の末に販売中止になるという、近年稀に見る事態に陥った。
それから半年以上が過ぎた今、一部のスウォッチストアでは店頭販売が行われているものの、品薄であることには変わりなく、入手難易度は依然として高い。あるいは、世界各地を走る“ムーンスウォッチツアー”のフィアットを見つけることができれば購入のチャンスを得られるが、やはり巡り合うことは容易ではない。
一体、ムーンスウォッチの何が人々を熱狂させるのか。そして、スウォッチグループはこのコレクションにどんな想いを託したのか。実機を基に考えていきたい。
オメガ「スピードマスター」のデザインコードを盛り込んだカジュアルウォッチ
レビューに移る前に、ムーンスウォッチについて簡単に説明しておきたい。このコレクションは、スウォッチ グループ傘下のブランド、オメガとスウォッチのコラボレーションが生んだものである。
スウォッチ グループは、その傘下のブランドを4つのレンジに分けている。最も高級なものから順に、プレステージ&ラグジュアリーレンジ、ハイレンジ、ミドルレンジ、ベーシックレンジだ。この中で、オメガはプレステージ&ラグジュアリーレンジ、スウォッチはベーシックレンジに属している。
このセグメントからも分かるように、両ブランドは、製品の性質も主な購買層も異なる。一見、スウォッチに対する起爆剤とも思えるコラボレーションは、同グループにおいても英断だったことだろう。
ムーンスウォッチを平たく言うならば、“オメガの代表作「スピードマスター」の形をしたスウォッチ”である。スピードマスターは、1969年の人類初の月面着陸から、現在までに行われた、6回に上るNASAの月面着陸プロジェクトに公式装備品として認められた、伝説的な時計だ。
対してスウォッチは、主に樹脂製ケースを採用したカラフルなコレクションを展開するカジュアルウォッチブランドだ。機械式時計の復権と共に影を潜めつつあるが、実はクォーツ革命によって窮地に追い込まれたスイス時計界が生んだ、起死回生の切り札でもあった。
スピードマスターの異名である“ムーンウォッチ”と“スウォッチ”を掛け合わせたのが、ムーンスウォッチの由来である。
スピードマスターの特徴を良く捉えた外装は、スウォッチの独自素材、バイオセラミック製である。これは、ヒマシ油を原料にしたバイオソースマテリアルとセラミックスを組み合わせた素材だ。さまざまな発色が可能であり、ムーンスウォッチには惑星をテーマとした11種類のバリエーションが用意されている。
中には、スピードマスターの「アラスカプロジェクト」や通称「ウルトラマン」等のコレクターズアイテムの特徴を取り入れたモデルも存在し、オメガファンにとっても無視できないラインナップとなっている。ムーブメントはクォーツだが、3万円代のプライスタグを考えると、魅力的に感じる人は多いはずだ。
エアリーブルーとホワイトに彩られた“スピードマスター”、「MISSION TO URANUS」
今回レビューを行うのは、11種類用意されているラインナップのうち、天王星をモチーフにした「MISSION TO URANUS」だ。エアリーブルーとホワイトによるパステル調のカラーリングは、本家のスピードマスターが持つ硬派さとは180度異なる、ポップな印象を受ける。
太陽系第7惑星の天王星は、同じ太陽系の惑星の中でも比較的体積が大きく、かつ重量のある星として知られている。その鮮やかな青色は、大気の上層を覆うメタンによるものだ。
子細に見ていかずとも、その外観にはスピードマスターの特徴が多く盛り込まれていることが分かる。ケースサイズは直径42mm、厚さ13.25mmとほぼ同じ。ケースの形状は、3時側を厚くすることでリュウズやプッシャーを保護する、いわゆる竪琴型。先端に連れて内側に流れるツイストラグも健在だ。
下部がくびれたベゼルには、タキメータースケールがプリントされている。初代ムーンウォッチである第4世代のスピードマスターと同じ、“ドットオーバー90”としていることも芸が細かい。こんもりとした風防はアクリル製だ。
随所には、ムーンスウォッチとしてアレンジが生きている。まず、バイオセラミック製ケース特有の質感だ。セラミックスのような高密度を感じさせながら、しっとりとした手触りは心地良さを感じさせる。表面は僅かにザラついているが、バリのようなものはなく、エッジはビシッと立っている。
ダイアルは、搭載するムーブメント故に特徴的なレイアウトを持つ。2時位置には1/10秒を計るためのインダイアル、6時位置にスモールセコンド、10時位置に60分積算計を配している。
12時位置にはオメガとスウォッチのロゴ、左右にはそれぞれスピードマスターとムーンスウォッチのロゴがプリントされており、それらがインダイアル同士の隙間を埋めている。
このロゴは、専用のベルクロストラップにはもちろん、リュウズにも“Ω×S”として取り入れられている。
スウォッチはケースバックに電池蓋を設け、簡単に電池交換ができる構造を持つが、ムーンスウォッチでは、この電池蓋に惑星のデザインを取り入れている。普段は目にすることのない部分だが、スウォッチらしい遊び心を感じさせる。
ケースバックには、“DREAM BIG・FLY HIGHER・EXPLORE THE UNIVERSE・REACH FOR THE PLANETS・ENJOY THE MISSION”(大きな夢を抱き、空高く飛び、宇宙を探索、惑星へ旅をしよう)の文字が刻まれている。