最大の特徴、通称〝雪白〟ダイアル
このモデルのデザインの最大の特徴は「雪白」と呼ばれるダイアルパターンだ。2005年登場のSBGA011から採用されており、モチーフは穂高連峰の雪だという。
SBGA211が組み立てられているのは長野県にある「信州 時の匠工房」。モチーフとなった穂高連峰に囲まれた場所にあり、高所のひんやりとした乾いた空気のもとで、雪は風によって風紋という豊かな表情をつくる。その雪面を写し取ったのが「雪白」なのである。
一見すると和紙を使っているように見えるが、金属に渡銀(銀メッキ)を施しているそうだ。
その技術等々、詳細はグランドセイコーのホームページをご覧いただくことにして。
銀色なのに、なぜ白なのか。その理由を怒られるほどざっくり言うと、銀の光の反射の特性を利用して白に見せている、ということになる。しかも微細な凹凸によりフラットな状態よりも表面積が大きくなり、さまざまな方向からより多くの光を受けられる。
これによりもう一段、白色が際立つ。そして塗装と違い、凹凸にエッジが立っていることも見目をシャープに見せるほか、まったく光を反射しないスーパーマットという特徴も生み出している。
光が作り上げる白ゆえにただの白色ではないのだが、不思議なことに「雪白」の白色からは“湿気”が感じられるのだ。多くの人が和紙と見紛うのもそのためではないだろうか。これは写真では伝わらない、実機でのみ感じられるポイントだ。
友人へのアドバイスとして「試着せずに買うな」ということをつねづね言い続けてきた立場として、「装着しないと分からない良さ」を見出せたのは良かった。
ダイアルの微細な模様と、そこはかとなく漂う“しっとり感”とが相まって、独特の魅力をつくり出した「雪白」。日本人は湿気に対してなじみ深い。発酵まで進むと行き過ぎだが、湿気の有無が国内外の製品の違いになって現れているように思う。
このモデルが前身のSBGA011から15年以上にわたって不動の人気を誇っているのは、この“湿気”が理由のひとつと言ったら、さすがに言い過ぎですかね。
ただこの湿度が何パーセントか、判定には個人差がありますので、ぜひ実機でチェックくださいませ。
そんな湿気たっぷり、無反射ダイアルと硬質感バリバリの針とインデックスの組み合わせは、視認性抜群という効果をもたらした。太陽光や蛍光灯、LEDはもちろん、飲み屋の落とした光の下もOKである。
そしてファーストインプレッションに戻るが、箱から出したときに感じたもうひとつの驚き、それが「軽さ」だろう。ステンレススティール顔をしていたので、てっきり重いと思い込んでいたが、ブライトチタンを使っているためにわずか100g。ブレスレットのコマひとつずつの動きも滑らかで、手首周17㎝、完璧な楕円を構築している私の腕にもぴったりである。
多少、緩みはあっても、位置がずれないのもラグ形状が考え抜かれているからだろう。時計の資料では“ミクロン単位の調整”という単語をよく聞くが、ここにもそうした調整が繰り返されてきたに違いない。
雪白ダイアルの“表情”と軽量なケースで女性にもお勧め
振り返れば、1996年に時計雑誌に異動になり、それがご縁で、当時開発中だったスプリングドライブについて広報の方から話を聞いた記憶がある。ほんとうに丁寧に説明をいただいたが、当時の私の知識レベルは機械式とクォーツの違いがうっすら分かる程度。
そのため聞いてもちんぷんかんぷんで、曲がりなりにも専門誌の編集者として伺ったはずなのに、説明してくださった方もさぞや困惑されたことだろう。しかもスプリングドライブに機構という認識がなかったため、スプリングを春と脳内変換し、「時計なのに、なんで春のドライブ?」と一瞬だけ、一瞬だけ頭をよぎったことをお詫びします。
そのとき、完成に至らない理由のひとつとして「組み立てに非常に高度な技術が必要」と説明されていた。その後、再び異動になり時計から離れてしまったが、駅のポスターで「スプリングドライブ」の文字を見たときは、「ついに完成したのか」と思ったことを、この原稿を書くにあたって思い出した。
78年には機構の特許を出願し、99年に完成という時間軸を思えば、アイデアと実機の間にある隔たりを20年かけて埋めた、その努力に敬意を表したい。全く新しい駆動システムは時計史に残る偉業だ。しかもその後も進化を続けているし、今後も発展していくことだろう。
冒頭で女性のインプレッションを言い訳にしたが、残念ながらその視点では目新しいことを言えず……。ただ感じたのは、これまでグランドセイコーのラインナップから“男性のため”というシグナルが出ているように思っていたが、SBGA211と10日間付き合ってみて、「このモデルなら女性にもいい」ということ。
その理由が「雪白」の優しい表情と軽さ。なんか、見ているとホッとするのである。メンズモデルの力強さや重さと向き合うときの気合が不要なのだ。また室内の水仕事もけっこうジャブジャブいけるし(防水性能確認済み)、どんな光の下でも視認性を確保しているので、安心できる。
あとパワーリザーブ72時間はかなりの重宝ポイント。やはり土日着けずにいてもOKというのは便利です!
グランドセイコーに対してこんな感情を抱くとは自分でも驚きだったが、10日間で得た感想のダイジェストは「ホッとする」だった。
確かに女性にとって直径41mmは大きいし、ケースもブレスレットも男顔をしているが、最近の時計好き女子は大型でも男顔でもなんなく着けこなすし、シェアウォッチとして提案してもいいモデル。私の周りの妙齢の女子たちにも高評価だったことを付け加えておきます。
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