2022年版スイス時計産業調査結果から予測する、高級時計市場の二次市場やEコマース、投資などの行方

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2023.01.12

デロイトから、2022年のスイス時計産業に関する調査結果が発表された。成長し続ける二次市場や地域、世代、性別で異なる需要の実態など、時計に関する現状が詳細に浮き彫りになったこの調査結果から、市場の未来を垣間見ることができる。二次市場やEコマース、投資などについて、結果の一部を紹介しよう。

デロイト

デロイトの最新調査結果より、スイス時計産業の可能性が示された。
Originally published on Montres De Luxe
2023年1月12日掲載記事


デロイトがスイス時計産業調査の2022年版を発表

 今回で9回目となるスイス時計産業についての調査結果を発表するにあたり、デロイトは「スイス時計産業は複雑なエコシステムを構築・維持しており、その将来性は伝統と新しい機会を尊重することにかかっている。そして長い歴史と革新的精神、飛躍と情熱により、未来への希望を実現する必要な要素をすべて備えている」と述べている。

 なお今回の調査結果は、スイス時計のスイス国内および主要輸出市場である中国、フランス、ドイツ、香港、イタリア、日本、シンガポール、スイス、アラブ首長国連邦、英国、アメリカ合衆国において、経営幹部70名へのオンラインアンケート、業界の専門家からの聞き取り、5579名の消費者へのオンライン調査に基づいて作成されたものである。

成長し続ける二次市場

 レポートによると、デロイトは2030年までに認定中古による二次市場(CPO:Certified Pre-Owned)は、約3500億スイスフラン、つまり一次市場の半分以上の規模になると推測している。

 この成長を支えるのは、ブランド自身による提供や、既存流通網の拡大、生産中止モデルや値下げされた時計を求める消費者だ。近年、時計の二次市場はブランド、小売店ともに時計業界の大手が直営するケースが増えている。

Eコマースの重要性

 オンラインで購入される時計の割合は、現在の約15%から2030年には30%に上昇する可能性がある。

 業界関係者の3分の2に近い63%が、今後5年間は店舗での販売が主流であると見ているが、オンライン販売は成長し続け、ミレニアル世代やZ世代の約半数が店舗よりもオンラインでの購入を好むと回答している。

 つまり、インターネットでの販売の場を持たない高級時計店は、これからの時代、困難に直面する可能性が高いということだ。

アメリカでのポテンシャル

 アメリカはスイス時計産業にとって最も重要な市場であり、2年連続で時計輸出の最大シェアを占めている。

 デロイトによると、この成長の背景にはEコマースの大きな需要やオンラインと実店舗での販売網の拡大、そして高級時計への親近感の高まりがあるとのことだ。

世代で異なる購入ポイント

 消費者が時計を選ぶ際に最も重視するのはブランドイメージか、それとも耐久性か? これを問われた消費者の約3分の1である32%が、ブランドイメージよりも耐久性を重視していると答えた。そしてその逆はわずか21%である。一方、3人に1人はデザイン性を重視すると答えている。

 意外なことに、Y世代やZ世代では耐久性を重視する傾向が見られた。機械式時計は故障しても修理してまた使えるため、本質的には「耐久性が高い」ということを理解しているようだ。

投機目的の割合

 投資や転売のために時計を購入する消費者は、全体の約4分の1にあたる23%であった。特にアジアの消費者は、時計の潜在的な収益性を認識しており、より高額な転売や自身のコレクションの充実に魅力を感じている。時計を家族内で受け継ぐことよりも、投機目的で所有することに重要性があると考えているのだ。

仮想空間への関心

 過半数にあたる57%のブランドが、2023年中にメタバースにおける認証や着用目的でNFTを導入する予定だと答えた。

 また、約40%の消費者が投資対象としてのNFTに関心を持っていることが分かった。一方で、31%はこの仮想資産についてまだ理解していない。実際のところ、この分野はエンドユーザーにはあまり興味がなく、ブランドがコミュニケーションツールとして魅力的に感じているのが現状である。

成長の余地あるレディスウォッチ

 時計は性別ではなく、好みで選ばれるべきものだ。その観点がトレンドになっているのは良いことである。

 しかし今回の調査によると、44%の女性が依然としてデザイン面でレディスウォッチを好み、ユニセックスという選択肢を好むのは約4分の1の26%に過ぎないことが分かった。ここでも、専門家側の認識と、実際の市場との間に乖離があることに気付かされる。

 半数近くのブランドがレディスモデルの品揃えを充実させ、約3分の1のブランドがより女性に好まれる時計サイズを模索し続けている。この分野の成長には、確かに明るい未来がある。


腕時計の流行はまだまだ続く

 ミレニアル世代とZ世代の約3分の1にとって、時計を所持する重要性は増している。それはスマートウォッチやコネクテッドウォッチに限らない。この傾向は数年前から確認されており、若い世代が機械式時計に興味を失うことを懸念していた時計ブランドにとって安心材料となっている。

 しかし若い消費者はオンラインでの購入を好み、価格や耐久性に対する観点から中古品を注目する傾倒が顕著である。

 今回の調査によると、世界の市場の成長予想は地域によって大きく異なる。数年前まで世界最大級の市場のひとつだった香港は、引き続き減速または停滞すると予想されている。中国では57%が成長し、31%が停滞するというまちまちな予測だ。

 アジアの他の地域と中東の見通しは堅調であり、ヨーロッパでは停滞が予想されている。インフレとウクライナの戦争が今後の課題となりそうだ。

 北米への見通しは楽観的で、回答者の26%が大きな成長を、51%が中規模の成長を予想している。


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