2022年に誕生50周年を迎え、刷新された「ロイヤル オーク」。人気の沸騰により入手困難を極める同シリーズだが、幸運なことに実機を借りてのインプレッションが実現した。着用した「ロイヤル オーク クロノグラフ」は、卓越した仕上げと置き周りの少ないムーブメントが高評価な1本だった。
Text by Masayuki Hirota
2023年1月17日掲載記事
毎年質を高めるロイヤル オーク
筆者はオーデマ ピゲのビデオに出演しているが、基本的にはロイヤル オークとは無縁の生活を送っている。かつては昔のモデルも所有していたが、完成度を高めた最新版は十分に触っていない。
たまたまコレクター私物の「ロイヤル オーク クロノグラフ」を借りられたので、腕上でテストした。気分が盛り上がるという意味では群を抜いている。
2000年以降、オーデマ ピゲは着々とマニュファクチュール化を進めてきた。まずは手巻きと自動巻きを自社製に置き換え、続いてはケースとブレスレットの内製化に取り組んだ。
もちろん、かつてのロイヤル オークも完成度は高かったが、手が切れそうなぐらいのエッジは、近年のモデルの特徴だ。しかも、一部の鋭敏なコレクターたちが指摘するとおり、ロイヤル オークは毎年質を高めている。同じように見えて、技術の進化を反映しているわけだ。
手触りに見るオーデマ ピゲの巧みさ
ブレスレット時計の感触で言うと、ノーチラスとロイヤル オークは今なお二巨頭と思っている。もちろんこれより優れている時計はあるが、明快な個性がある点でちょっと比類ない。ノーチラスはウネウネ、ロイヤル オークはカチカチである。
もっとも、ロイヤル オークの「硬い」感触はエッジが立ち、ブレスレットが硬いからではない。エッジだけを比較すると、今のロイヤル オークよりも尖ったモデルは少なくないし、ロイヤル オークよりも硬いブレスレットも多い。意外かもしれないが、エッジもブレスレットも、想像よりも「柔らかい」。
硬さを感じさせる理由は、外装全面に施された深いサテン仕上げである。触ると明確な引っかかりを感じさせるサテン仕上げは、現行品では珍しい。少なくとも、日本のメーカーでは考えられない深さだ。
しかし、強い凹凸は感じさせるものの手触りは均一で、つまりこの仕上げは、一見ラフだが、高度に調整されたものである、と分かる。ちなみに筆者は昔のロイヤル オークをいくつか所有していたが、これほどまで深くなかったと記憶している。
外装仕上げの巧みさは、エッジに明らかだ。ケースのほぼ全面にサテン仕上げを施してあるにもかかわらず、角はきちんと残っている。普通は角がだれるため、サテンとサテンの接する線には、広く鏡面仕上げを施す。これはロイヤル オークも同じだが、角をごまかすためではなく、造形を引き立てるために施している。
また、外装の角も立っているようで、わずかに落とされている。慣れない人にとっては立ちすぎている、という印象がありそうだが、筆者は全く気にならなかった。
エッジと面はトレードオフの関係にある(例えばロレックスはエッジを諦めて、面に特化している)が、このふたつを高度に両立した点で、現在のロイヤル オークは傑出している。