今秋誕生した、クラシックフレンチが愉しめるビストロ「Nʼonaka」。国内外の名店で研鑽を積んだ野中靖幸氏が、ゲストに寄り添った料理でもてなす。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]
フランスから空輸した青首鴨を使った冬の訪れを感じさせるジビエ料理。身をさばいたら、タイムやローリエなどの香りをまとわせるようにフライパンで火を入れる。ソースは、内臓に白ワインやコニャックなどを加え、レバーで濃度をつけ、さらに砕いた骨を加えて濾す。素材を余すところなく食すクラシックフレンチならではの手を掛けたレシピだ。半身6500円~。
対話から生まれる人在りきの料理
1987年、福岡県八女市生まれ。専門学校卒業後、代官山「Restaurant PACHON」にて研鑽を積み、副料理長に就任。渡仏し、「MichelGuérard」「Paul Bocuse」などで腕を磨く。帰国後、代官山「LE COMPTOIR OCCITAN」の料理長などを経て、2022年に「Nʼonaka」を独立開業。
クラシックフレンチと聞くと、畏まったレストランを想像するだろう。だが「N’onaka」は、自由の塊のような一軒だ。
「現地のビストロのように使い勝手がいいことで、幸せなひと時を過ごしていただければ……」と語るのは、オーナーシェフの野中靖幸氏。「N’onaka」では、用意されたアラカルトのほか、ゲストとの会話によってメニューを決定する。まず肉や魚など食材を選び、調理法、ソースを組み合わせていく。その日の気分や好みを伝えたり、飲みたいワインに合わせたり、お腹の具合によってサイズを相談したり。
例えば「フランスの○○地方で食べた○○が忘れられない」と思い出話をすれば、その日の食材次第で目の前に運ばれてくるかもしれない。
今の季節を味わいたいなら「青首鴨のサルミソース」はどうだろうか。カウンター席に座れば、出来上がるまでの鮮やかな一部始終を眺めることができ、漂ってくる匂いにワインが進む。口に運べば、食材の火入れもさることながら、ソースの秀逸さに感銘を受けるだろう。実に優しい。だが、優しいからといって薄いわけではなく、しっかりと滋味深く、またワインが進む。「自分自身が根っからのお酒好きだから」と野中氏は笑う。彼の人柄も料理同様に人を惹きつける。
「人間関係が何より大切。会話をすることで、その方の人となりが伝わり、食の好みが分かります」。そんな想いを抱いたシェフゆえ、初めて訪れても不思議なほど居心地のよさを感じ、もう何度も通っているレストランかと錯覚してしまう。野中氏は、料理以上に人を見ている。そして、その想いが皿の上に投影されていく。
昨今、東京のレストランは、おまかせコースのみを定刻にスタートするというスタイルも少なくない。もちろん、それも食の素晴らしいかたちのひとつである。しかしながら、自分が食べたいものをオーダーできる自由さや、メニューにないリクエストに応えてもらえる関係性を築く愉しさを忘れてはいけない。食への“わがまま”は、作り手にとっても食べ手にとっても、さらなる美味しさを探求する原動力となるのだから。
Nʼonaka
東京都港区西麻布2-8-11
西麻布ビル1F Tel.03-6421-0825
不定休 16:00~23:00(L.O.22:00)
前菜1200円~、スープ1000円~、魚料理2000円~、肉料理2100円~(サービス料込)
席料1名につき1000円(ミネラルウォーター付き)
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