ジェイコブ「アストロノミア」遊び心と超絶技巧が生んだ腕上のアート

2023.02.06

これまで本誌でも絶賛してきたジェイコブのスーパーコンプリケーション。長らく日本で見る機会がなかったが、2022年10月の銀座ブティックオープンにより、ようやく日本でコレクションを見ることが可能になった。唯一無二の魅力をたたえるジェイコブのモデルたち。その歩みと、ユニークさの理由を改めて振り返りたい。

アストロノミア スカイ イエローサファイア

アストロノミア スカイ イエローサファイア
4本アームが20分で1周する野心作。時分、3軸トゥールビヨン、オービタルセコンド、そしてイエローサファイア製のムーンが同時に回る様は壮観。重い構造物を動かす点では、2014年のファーストモデル以降、本作を超えたものは他ブランドにも存在しない。ブランドのアイコンにして、現代コンプリケーションの金字塔。手巻き(Cal.JCAM11)。42石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径47mm、厚さ25mm)。30m防水。世界限定18本。時価。
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Kouki Doi
[クロノス日本版 2023年3月号掲載記事]


スーパーコンプリ、ついに日本へ

 1986年に創業されたジェイコブは、豪奢かつ奇抜なジュエリーで、たちまちセレブリティたちの心をつかんだ。同社は2002年発表の「ファイブタイムゾーン」で時計のジャンルにも進出し、06年には世界初となる31日間のパワーリザーブを持つ、トゥールビヨン搭載のモデル「クエンティン」を完成させた。

アストロノミア スカイ イエローサファイア

20分で1回転する中心軸には、6つの機構が備わる。60秒で1回転する3軸トゥールビヨンのキャリッジは、水平方向にも5分間で1回転する。また、ムーブメントを覆うように、1恒星年で1回転するセレスティアルダイアルも設けられている。
アストロノミア スカイ イエローサファイア

立体構造のディスクで時間を示すオービタルセコンド。60秒で1回転する。

 創業者のジェイコブ・アラボは、際立った目と造形センスを持つジュエラーだ。しかし、時計職人の見習いからキャリアを始めた彼は、強く時計に魅せられていた。クォーツムーブメントを5つ載せたファイブタイムゾーンは同社に名声をもたらしたが、ジェイコブは満足していなかったらしい。31日巻きのクエンティンで機械式時計製造に足を踏み入れた彼は、無名の時計師であったルカ・ソプラナと、彼の率いる工房「7h38」に出資し、かつてない高級時計作りを加速させた。

アストロノミア スカイ イエローサファイア

24時間で1回転するチタン製の地球儀。その下には、北半球の星空を示す星座盤がある。
アストロノミア スカイ イエローサファイア

時分表示。

 そして14年に完成したのが、20分で1回転する中心軸から飛び出した4本アームに、時分針、ダイヤモンド製の月、マグネシウム製の地球、3軸トゥールビヨンが付いた「アストロノミア」だった。10年代以降多くのメーカーが、腕時計という制約の中で、いかに重い構造物を回すかに取り組んだが、今もって本作を超えるものはない。このモデルは、そう言って差し支えないほど、機械式時計の可能性を大きく変えたのである。

 それを可能にしたのが「リスクを取る」というジェイコブのモットーだ。革新性をうたうメーカーは多いが、リスクを明言するメーカーはほとんどない。事実、4つの要素を回転させるアストロノミアは、「堅物なスイス人曰く、当初は『不可能』と思われていたもの」であり、ジェイコブは周囲からの猛反対を受けた。しかし、アストロノミアを成功させた同社は、機械式時計では不可能とされることに、いっそう傾倒するようになった。

ブガッティ シロン サファイアクリスタル

ブガッティ シロン サファイアクリスタル
2019年にブガッティとパートナーシップを結んだジェイコブ。翌年に発表されたのがW型16気筒エンジンのオートマトンを持つ本作だ。写真のモデルは、サファイアケースを持つ限定仕様。ピストンが動く様や、ムーブメントを支える4つのサスぺンションなどの構造を、さまざまな角度から楽しめる。手巻き(Cal.JCAM37)。51石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。サファイアクリスタル(縦55×横44mm、厚さ20mm)。30m防水。世界限定7本。時価。

 その帰結が、20年発表の「ブガッティ シロン」だ。文字盤側の6時位置に格納されたのは、シロンを駆動するW型16気筒エンジンのミニチュア。6時位置側面にある右のボタンを押すと、16のシリンダーが約20秒間稼働する。今までにさまざまなオートマトンが存在したが、複雑なエンジンを見立てたものは本作が初だ。加えてトゥールビヨンとオートマトンを載せたムーブメントそのものはサスペンションでケース内に固定される。アストロノミアで重い構造物を動かすことに挑んだジェイコブは、ついにオートマトンにまで手を広げたのである。しかも、腕時計のサイズで、だ。

ブガッティ シロン サファイアクリスタル

12時位置に備わるトゥールビヨンは、垂直方向のスペースを詰めるために30°傾けて搭載される。サスペンションで支えられるムーブメントからのショックをカットするため、ジョイント式のリュウズチューブが採用されている。

 しかし、これほどのモデルを作りながらも、ジェイコブの時計を日本で見る機会はほぼなかった。少量生産の上、極め付きに高価で、顧客は一部の超富裕層に限られたためだ。もっとも、ジェイコブは長年、日本への本格進出を念願していた。果たせるかな、22年の10月にジェイコブは念願のブティックを銀座にオープンした。並ぶ時計は、アストロノミア、ブガッティ、ゴッドファーザーにツインターボ。本誌でも再三にわたって魅力を伝えてきたつもりだが、実物を持つ凄みには、きっと圧倒されるに違いない。


JACOB & CO GINZA

JACOB & CO GINZA

2022年10月13日にオープンしたジェイコブの銀座ブティック。室内は、NY本店に倣った、幾何学的なラインで統一されている。超複雑時計が常時置かれるほか、ジェイコブならではのオーダーメイドも受け付けている。

〒104-0061 東京都中央区銀座8-5-1 プラザG8 1階C
問い合わせ/03-6281-4777
営業時間/11:00-20:00



Contact info: ジェイコブ 銀座 Tel.03-6281-4777
公式HP:https://jacobandco.jp/
日本公式Instagram:https://www.instagram.com/jacobandco_japan/


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