クラシックなラウンドケース、端正なライン、シンプルな文字盤、そして特徴的なクル・ド・パリ装飾のベゼル。2018年以来カタログ掲載がなかったクル・ド・パリ装飾を備えたカラトラバを、パテック フィリップは2021年に復活させ、再び光を当てている。正統の歴史を受け継ぎながら、現代的な手巻きムーブメントを備えることとなった「カラトラバ 6119」を詳しく紹介する。
より男性的な再解釈が加えられた「カラトラバ 6119」
カラトラバというと、私的な感情が混ざってくる。それはこのモデルが私にとって特別なモデルであるからだ。21年前のバーゼル・フェアで、パテック フィリップとアポイントを取ったときのことを思い出す。私はスターキャリバー2000を見たい、そしてカラトラバを試着してみたいと希望を伝えていた。
手巻き(Cal.30‑255 PS)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KWGケース(直径39mm、厚さ8.08mm)。30m防水。430万1000円(税込み)。
ベゼルにクル・ド・パリが施されたカラトラバのRef.5120を手首に乗せる時、私の鼓動は高まった。それ以来、私にとってこの時計は、純粋な時計製造のクラフツマンシップを最も強く表現するものとなっている。ブランドの歴史の中で、カラトラバは決定的な役割を担っており、今やブランドの真髄の一部となっている。
1932年にスターン一族が経営権を握った時、パテック フィリップはまだ腕時計に注力してはいなかったが、この一族は未来がどこにかかっているのか、そして懐中時計における経験と知識を腕時計に生かす必要があることを理解していた。同年、現在は伝説となっているRef.96が発表され、これがリファレンスナンバーを伴う最初のモデルとなった。
今日まで、カラトラバはクラシックなラウンド型腕時計の真髄としての地位を確立してきた。そのデザインは、「機能がフォルムを決定する」というバウハウス運動のミニマリズムの原則を反映している。以後、フラットなベゼル、わずかに丸みを帯びたベゼル、ポリッシュ仕上げ、ダイヤモンド付き、ギヨシェ装飾を施したケースなど、多数のバージョンが生み出された。フォルムは超薄型、迫力あるサイズのモデル、オフィサータイプなど多岐にわたり、文字盤も時、分表示のみのものから秒表示、さらにより高度な機能を含むものも作られてきた。
パテック フィリップによると、「カラトラバ 6119」は1985年の伝説の時計Ref.3919へのオマージュであるという。3919は20年以上生産され、2006年からは更新版がRef.5119として世に送り出されている。ケースサイズは直径33.5mm(Ref.3919)から36mm(Ref.5119)、そして現代的な39mm(Ref.6119)へと変更されている。「Ref.6119はより男性的なデザインを目指した。当初は40mmを予定していたが大き過ぎた。1mmが大きな違いを生み出すのである」と社長のティエリー・スターンは説明している。
新鮮かつ間違いのない再解釈を重ねるカラトラバ
カラトラバのディテールは他にも多くのアーカイブから影響を受けている。例えば、12時位置のダブルインデックスを含む、多面的なオベリスク型のアプライドインデックスは、カラトラバのデザインのルーツである1932年のRef.96と1934年のRef.96Dまでさかのぼることができる。ドーフィン型の時針と分針もRef.96を彷彿とさせ、さらに一度廃止されたカーブしたラグも、その復活を見ることができる。初代カラトラバの例に倣い、ケースからブレスレットへの人間工学的に完璧な流れを実現し、高い着用性が担保されている。18KホワイトゴールドのRef.6119G-001は、ホワイトゴールドのピンバックルが付いた光沢のあるブラック・アリゲーターストラップが装着されている。その特徴的な形状は、現社長ティエリー・スターンの祖父であるアンリ・スターン元社長がアメリカ市場向けにデザインしたものだ。
Ref.6119G-001の文字盤は、縦サテン仕上げが施されたチャコールグレーカラーを採用している。アプライドインデックスとドーフィン針はケースと同素材のホワイトゴールド製だ。多くのファセットが施された針は採光に応じて変化を見せると共に、十分なコントラストと最高の視認性を確保している。
インデックスの外周には新デザインのミニッツレイルスケールがあり、12の小さな半球がアワーインデックスとして配されている。6時位置には髪の毛のように繊細な針をあしらったスモールセコンドを備えている。スモールセコンドは5秒単位のインデックスに加え、十字によって4分割されている。文字盤をボックスシェイプのサファイアクリスタル製ケースバックが覆い、クル・ド・パリが施されたベゼルに取り囲まれている。
クル・ド・パリとはギヨシェまたはエンボス加工の一種で、底辺が正方形の小さなピラミッド型を浮かび上がらせたものだ。クル・ド・パリは直訳すると「パリの爪」であり、クル・ド・パリは「蹄模様」ともいわれる。ピラミッドは旋盤で素材から削りだされ、職人がこの技法のプロセスにのっとってポリッシュ仕上げを施す。ギヨシェは尖筆を片手で水平に動かし、もうひとつの手は垂直方向に動かす。結果、ふたつの同心円が生み出され、側面が削られることにより小さなピラミッドが出来上がる。光によって変化する効果が生み出され、文字盤に深みが出る。カラトラバのベゼルはクル・ド・パリ技法の最も代表的な一例である。オーデマ ピゲやブレゲもこれを採用するが、ベゼルよりも文字盤に採用している。
カラトラバは1932年に発表され、1934年からクル・ド・パリのベゼルを搭載し始めた。遅くとも1985年のRef.3919の発表以来、パテック フィリップのスタイルを決定付けるエレガンスを特に表現するものとなっている。
水平式ダブルバレル搭載の薄型キャリバー30-255 PSを搭載
長い間、パテック フィリップはカラトラバに手巻きキャリバー215 PSを搭載してきた。"PS"はフランス語でスモールセコンド(Petite Seconde)を表す。Ref.6119のために、同じくスモールセコンド付きの新しい手巻きキャリバー30-255 PSを開発したのは、スリムなケースを実現するために、より大きな直径を持つムーブメントへの要望に基づいていたのである。このムーブメントはパテック フィリップにとって画期的なものであり、自社製ムーブメントを搭載したコレクションをさらに充実させるものである。
旧型キャリバー215 PSの直径が21.9mmであるのに対し、新型キャリバー30-255 PSの直径は31mmである。厚さは2.55mmで変更はない。この厚さを維持しながら、約65時間のパワーリザーブやストップセコンド機能など現代求められる要件を満たすためには、新たな解決策を見出す必要があった。例えば歯車を持たない2番カナが2番車と中間車を介して噛み合う構造や、角穴車と丸穴車を香箱受けの上ではなく下に配置するといった独創的な設計が採用されている。
キャリバー30-255 PSはまた、並列に配置された2個の香箱がいずれも2番カナに噛み合い、同時に動力を輪列に伝える珍しい構造をしている。並列の配置はゼンマイのトルク(回転モーメント)を増すことを目的としており、2個の香箱のトルクが合算される。この解決法により、限られた厚さにおいて最大の出力を生み出すことができたのである。その結果、テンプの慣性モーメントが倍増(パテック フィリップのテンプ振動数が毎時2万8800振動のムーブメント中、最も高い10mg/cm2)し、歩度の安定性が向上し、精度調整も容易となった。
この新しいムーブメントの構造では、「各歯車または機能は個別のブリッジを持たなければならない」という歴史的に受け継がれた原則に従って注意深く再検討された。その結果、サファイヤクリスタル製ケースバックを通して、コート・ド・ジュネーブ、面取り、ポリッシュ仕上げなど、時計製作の伝統に準拠して仕上げられた6枚のブリッジを鑑賞することができる。
カラトラバの長い歴史を更新する「カラトラバ 6119」
カラトラバの伝統は1932年のRef.96までさかのぼるが、その名称が使われるようになったのは1982年からである。1985年に発表されたRef.3919も、パテック フィリップのエレガントなスタイルを決定付けたとして今もマイルストーンに輝いており、Ref.6119はその歴史を正統に継ぐ存在だ。
しかし、パテック フィリップにとってカラトラバの物語はさらに古くまでさかのぼる。およそ100年前の1887年4月27日、パテック フィリップは、カラトラバの十字架を法的に保護された商標として正式に登録したのである。12世紀末のスペイン騎士団のシンボルであるこの美しい十字架は、パテック フィリップのトレードマークとして、流行に左右されることなく今なお受け継がれているのだ。
2001年のバーゼル・フェアで発表されたRef.5120と同様、私はこのRef.6119で、まれに見る完璧なタイムピースに出会ったのだと実感している。
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