2019年からベル&ロスのBRシリーズに加わった新コレクション「BR 05」は、立体的なベゼルとブレスレット一体型ケースを備え、より都会的な装いにも調和するモダンなスポーツウォッチだ。今回は、そんな「BR 05」にGMTを搭載した日本限定モデル「BR 05 GMT AMBER」を、外装フェチならではの目線でレビューしてみたい。使い込むほどに、ベル&ロス創業メンバーであるブルーノ・ベラミッシュの巧みさが感じられる時計であった。
Text & Photographs & Illustration by Naoto Watanabe
2023年2月28日掲載記事
自動巻き(Cal.BA325)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径41mm、厚さ11.07mm)。100m防水。日本限定99本。68万2000円(税込み)。
BRシリーズの変わったもの、変わらないもの
「ポルシェ911」というワードを聞いた時、頭に何を思い浮かべるだろうか。
車好きなら「水平対向6気筒エンジンを後方配置した後輪駆動スポーツカー」と答えるかもしれないが、さほど車に興味がなくとも、低く抑えられたボンネットと高く張り出した丸形ヘッドランプによる独特なシルエットだけは、頭に浮かぶという人も多いだろう。
これこそ、ポルシェ911が約60年間守り続けてきたデザイン・アイデンティティであり、ブランドロゴなど見えなくとも、ポルシェをポルシェとして認識させている要因でもある。
時計の世界にもこの様な例はいくつか存在するが、ベル&ロスのBRシリーズもまた、比較的短い歴史であるにもかかわらず、4隅ビス留めのスクエアケースに、12時・3時・6時・9時のみアラビア数字のラウンド文字盤という基本デザインが、広く認知されたプロダクトのひとつだ。
2005年に登場した同シリーズは、航空計器をモチーフとした特徴的なスクエアケースに、前述のミリタリーテイストあふれる文字盤を与えた個性的なデザインで、数多くの時計愛好家達を虜にしている。
しかし、このデザイン・アイデンティティと言うのは非常に難儀な代物であり、制約が緩すぎるとイメージの継承につながらず、逆に制約が強すぎるとプロダクトの発展性を阻害してしまう。
前述のポルシェ911もシルエットを規定しているため、歴代デザイナー陣はリニューアルのたびに苦心してきたであろうことは想像に難くないが、ベル&ロスのBRシリーズも、その特徴的すぎる造形ゆえに、イメージを継承しながらの大規模デザイン改変は難しい時計だと感じていた。
しかし、ブランドの共同創業者にしてクリエイティブ・ディレクターのブルーノ・ベラミッシュは「BR 05」コレクションを生み出すに当たり、元来BRシリーズの持っていたデザイン要素を生かしながら、まったく新しい造形を与えてみせたのである。
アイデンティティを損なうことなく、モダンに進化したデザイン
まず、4隅がビス留めされたベゼルは、ビス位置を文字盤側へ移動し、角R(丸みの半径)を広げることで、柔らかな印象の造形に変化。加えて外周には幅広のC面取りを施すことで、全体に立体感を与えている。
また、文字盤上の夜光塗料のみで描かれていたアラビア数字とバーは、角のない丸みを帯びた造形でアプライド化。それまでのBRシリーズが醸し出していたミリタリーな雰囲気が緩和され、都会的なイメージの文字盤に変貌を遂げた。
筆者の好みを言うなら、3時位置にはアラビア数字を残し、「BR 03」同様4時半位置に控えめな日付窓を開けてもらいたかったが、デイリーウォッチとしての使用を想定するなら、日付の視認性は犠牲にできないポイントだろう。
さらに本作では、「BR 05」で若干間延びしていた文字盤外周の広く垂直な見返し部分に、斜面状の24時間リングが配置されたことで、見返し幅が目立たなくなり、より高級感が増している。
スポーツウォッチといえど、広すぎる見返しはどうしてもチープに見えてしまうため、これは非常に好感の持てるアレンジだ。
ケースも従来の正方形から、ベゼルの角Rが広がった分だけ削り込まれた8角形寄りな形状に変化し、ブレスレット一体型ラグともシームレスにつながっているため、全体的なシルエットはいわゆるラグジュアリースポーツ(以下ラグスポ)テイストな印象となっている。
もっとも、この印象の変化はデザインだけに起因するものではないが、シリーズ初作である「BR 01」のデザイン要素の大部分を引き継ぎながら、完全に違う時計に作り変えてしまったベラミッシュの手腕は、見事としか言いようがない。
デザインを際立たせる高度な外装仕上げ
本作のラグスポテイストを際立たせているもうひとつの要因は、その高度な外装仕上げだ。とくに驚いたのはブレスレットのクオリティである。ヘアライン&鏡面のすべてのコマが完全な平面を実現しているため、平面光下で確認しても、光沢に全く歪みが見られない。
また、各コマのヘアラインは途切れることなく真っ直ぐにつながっており、方向性の不均一さも見当たらなかった。ヘアラインの深さゆえ、指先の引っかかるような感触は好き嫌いの分かれる部分だが、筆者は許容範囲内だと感じた。
昨今、ラグスポテイストの時計は数多くあれど、これほどまでにフラットで高精度な仕上げのブレスレットは、なかなかお目にかかれないだろう。
唯一残念なのは、ヘアラインの質感がブレスレットとケースラグで違うことか。サプライヤーが別なのかもしれないが、ブレスレット側が良すぎるだけに、仕上げをそろえて欲しかった部分だ。
日本限定モデルのユニークポイントである文字盤に目を向けてみても、細部が非常に丁寧に仕上げられていることが分かる。
アンバー(琥珀)カラーの文字盤に合わせ、同色で作られた日付ディスクは、表面に梨地仕上げが施され、その上から肉厚で立体的な数字がブラックで印字されている。
また、「BR 05」では、時・分針の形状がインデックスのデザインに合うよう、それまでの特大ロザンジュ針から鏡面ジェンタ針にあらためられた。
昔のBRシリーズでは粗さの目立っていた部分だが、バリなども見当たらず、確実に品質を高めている。
「BR 05 GMT」のグローバルモデルで先端だけレッドに塗装されていたGMT針は、本作ではオールブラックにリニューアルされた。よりシックな印象になっているが、ブラック塗装が肉厚なため、光の当て方次第ではぷっくりとした可愛らしい見え方になる。
裏蓋に目を向けると、シースルーバックから自動巻きキャリバーBR-CAL.325が見られる。
ベースムーブメントはセリタのCal.SW330だが、独自設計の360度スケルトンローターを搭載し、ダークトーンでメッキされているため、汎用エボーシュと言えどもユニークな外観に仕上がっている。