今年、発売から40周年を迎えたG-SHOCK。今やこの腕時計は日本を代表するアイコンのひとつにまで成長を遂げた。生みの親にその歩みを語ってもらおう。
広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年3月号掲載記事]
大切なことは、支持するファンを裏切らないこと
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1952年生まれ。大学卒業後、カシオ計算機に入社し、時計設計部でデジタル時計の構造開発を担当する。83年に「落としても壊れない時計」としてG-SHOCKを商品化。アメリカの人気が逆輸入されるかたちで日本でも人気を得た。カシオ コレクションで商品企画を担当しながら初代「MR-G」や初代「OCEANUS」の商品企画などに携わる。G-SHOCKの生みの親にして伝道師。
「G-SHOCKって、ブームだから買うのではなく、いいから買うという方に支えられてきました。ですから、品質は絶対条件なんです。私たちは時計メーカーとして最後発でしたから、市場に入るには品質しかなかったですしね」。初代G-SHOCKの開発を手掛けた伊部菊雄は、開発後、カシオ コレクション、世間で言う「チプカシ」の商品企画担当に異動した。
「当時、カシオ コレクションは、ディスカウンターやホームセンターで売られていました。初めて九州の店に出向いた時、『カシオの上限は3980円。4980円では売れないから心してください』と言われたんです。でも、これには感謝しています」
以降、伊部はカシオのステージを上げることに腐心するようになった。「メタル外装のオシアナス(当時の定価4万5000円)も発表まで18年かかっているんですよ。ブランドステージを上げるのは大変だなと感じましたね」。しかし、本当の転機になったのは2008年にアメリカで開催されたG-SHOCKのイベント“SHOCK THE WORLD”だったという。
「私はスタッフとして参加し、開発ストーリーを紹介したんです。その後、ファンの方が熱心に語ってくださるんです。G-SHOCKにもファンがいるのは頭では分かっていました。でも、実際にいるとは実感していなかった。この人たちは裏切れないなと」。G-SHOCKブームのときは作ることに追われて、とてもブランディングは考えられなかったと回顧する伊部。
「ブームが終わったときに、私たちは何も伝えてないことに気づいたんです。そこでG-SHOCKは単なるファッション時計ではない、開発ストーリーを持った商品だと話すようになりました」。2008年以降、世界的なブランドに成長を遂げたG-SHOCK。その象徴が、2018年12月に発表された金無垢の35周年モデルだ。
「デジタルの上限っていくらなのかに昔から興味があったんです。それを初めて35周年のときに金無垢のG-SHOCKで知ることができました。もちろん素材の価値はあるけれど、700万円以上って非常識ですよね。もともとG-SHOCKは、誰にでも買っていただける時計から始まっているでしょう。それが、手の届きにくい価格のモデルも出せるようになった」
40周年は始まったばかり。一大ブランドに成長したG-SHOCKは、今年驚くような新製品を見せてくれるに違いない。
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伊部菊雄にとって忘れられないG-SHOCKを3本挙げてもらった。ひとつは初代のDW-5000C(1983年)。ウレタンの成形が大変で、協力会社に朝から晩まで通ったとのこと。もうひとつは、G-SHOCKⅡこと2代目のDW-5500C(1985年)。G-SHOCKよりさらに巨大な腕時計である。そして最後がメタルケース&ブレスレットのMR-G(1996年)。ラウンドケースがMRG-100、スクエアケースがMRG-110。カシオが総合メーカーとなるきっかけとなった腕時計だ。
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