2016年にリリースされた限定モデルをフックに、翌年にはフルコレクション化して完全復活を果たしたジラール・ペルゴの名作「ロレアート」。ケースとブレスレットに一体感を持たせたロレアートは、ラグジュアリースポーツウォッチの世界的ブームともシンクロして瞬く間に人気を獲得したが、その真価はルックスだけにとどまらない。
高い時計製造技術や革新性を追求する姿勢といった、ジラール・ペルゴが230年を超える歴史のなかで育んできたフィロソフィーを今に伝えるコレクションでもあるのだ。
竹石祐三:文 Edited & Text by Yuzo Takeishi
2023年3月10日掲載記事
アイコニックな意匠と軽快な表情が際立つ「ロレアート 42mm」
2017年に復活し、瞬く間にジラール・ペルゴを代表するコレクションへと成長を遂げた「ロレアート」。そのファーストモデルが誕生したのは1975年のことだ。同時期には数々のラグジュアリースポーツウォッチが登場し、ロレアートもそうしたモデルと同様、ケースとブレスレットが一体化したデザインを備えてはいた。しかし、その一方で大きく異なっていたのが、クォーツムーブメントを搭載していたことだった。
1950年代から60年代にかけて、スイスの時計メーカーはクォーツウォッチの製品化を実現すべく、共同での研究を開始。しかし、これには加わらず、独自で研究開発を進めたのがジラール・ペルゴだった。結果的に、世界初のクォーツウォッチ市販化という偉業は他社に譲るかたちとなったものの、1970年にはブランド初となるクォーツモデルを発表。さらにその翌年には、現在のクォーツムーブメントの国際基準である3万2768Hzの振動数も確立させるなど、着実にクォーツウォッチを普及、発展させていった。
そんな中で誕生したのが初代ロレアートだ。八角形のベゼルやケース一体型ブレスレットといったデザインエレメントを取り入れて同時代性を強く打ち出しただけではなく、当時、先進的であったクォーツムーブメントを搭載してケースの薄型化を実現し、高精度化もアピール。時計製造の伝統的な技術を大切にしつつ、一方では革新的な技術も追求する、ジラール・ペルゴのアイデンティティーを体現する時計となった。
クォーツウォッチの台頭を経て、機械式時計が再び脚光を浴びるようになった1990年代半ばには自動巻きムーブメントを搭載したモデルを発表。続く2000年以降にはコンプリケーションモデルも展開するなど、ロレアートは着実に進化を続けていくが、その後、コレクションはフェードアウト。それから10年以上の沈黙を破って再び姿を現したのが、現在のロレアートだ。
八角形ベゼルや、ケース一体型ブレスレット、ダイアルに施されたクル・ド・パリ装飾といった初代モデルのデザインに加えて、1980年代のロレアートに見られたH型のブレスレットを採用。こうした往時のエレメントを踏襲しつつも、よりモダンなルックスへとブラッシュアップさせたことで、ロレアートは2017年の復活直後から注目を集めるタイムピースとなった。
2017年に復活して以来、コレクションを象徴しているケース直径42mmの3針モデル。中でもブルーダイアルは、ラグジュアリースポーツウォッチらしい軽快感と洗練された雰囲気を携え、高い人気を誇る。自動巻き(Cal.GP01800)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SS(直径42mm、厚さ10.68mm)。100m防水。188万1000円(税込み)。
第1弾のラインナップでは、ケースサイズ42mm、38mm、34mmの3針モデルに加え、トゥールビヨンを搭載したモデルも発表。その中でもコレクションを象徴するモデルとして、2017年のリリース直後から高い支持を得ているのが、ブルーダイアルを備えた「ロレアート 42mm」だ。
ステンレススティール製のケースとベゼルにはポリッシュとサテン仕上げが組み合わされ、八角形とラウンドで構成された立体的な造形を強調。ケースから流麗なラインでつながるブレスレットもひとつひとつのパーツがしっかりと面取りされ、さらには十分な可動域も確保されているため、滑らかに手首に沿う快適な装着感を生み出している。ケースフォルムは確かな存在感があるものの、その厚みは10.68mm。ジャケットやシャツの袖口にも収まりやすい、スリムなプロポーションになっているのも魅力的だ。
こうしたケースに組み合わせられているのが、スポーティーモデルらしさを引き立てるブルーダイアルである。その色調は、深みのある落ち着いたトーンを採用しているものの、伝統技法であるクル・ド・パリ装飾を施すことよって微かな煌めきも放つ。軽快な表情のみならず、繊細な技術によって品格も与えたデザインは、今日のラグジュアリースポーツウォッチに求められる要素を十分に満たした1本と言えるだろう。
スポーティー&モダンな雰囲気を放つ「ロレアート 42mm クロノグラフ」
ロレアートが復活を果たした翌年の2018年、ジラール・ペルゴはコレクションのさらなる充実を図るべく、新たなモデルを投入した。それが「ロレアート クロノグラフ」。ケースは42mmと38mmの2サイズ展開で、ダイアルカラーはシルバー、ブラック、ダークブルーの3種類。ロレアートのデザインコードは踏襲しつつも、3インダイアルをレイアウトしたことによって、スポーティーな雰囲気が一層強まっている。
シルバーダイアルにブラックの3インダイアルをレイアウトしたクロノグラフモデル。アイコニックなクル・ド・パリ装飾はもちろん、インデックスと針にブルーのアクセントカラーを用いたことで、より軽快な表情に。自動巻き(Cal.GP03300)。63石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(直径42mm、厚さ12.01mm)。100m防水。244万2000円(税込み)。
中でも目を引くのが「ロレアート 42mm クロノグラフ」のシルバーダイアルモデルだ。ブラックのインダイアルを組み合わせた、いわゆる“パンダダイアル”だが、ロレアートの特徴でもあるクル・ド・パリ装飾に加え、インダイアルにはスパイラルのパターンを採用。さらに、蓄光塗料が塗布されたインデックスと針にはブルーのトリミングを施してアクセントを添えるなど、クロノグラフモデルにふさわしい躍動感のあるデザインに仕上がっている。
そして、ロレアート 42mm クロノグラフにおけるもうひとつの特徴がケース素材で、3針モデルとは異なり、904Lスティールが採用されている。多くの高級時計に用いられている316Lスティールは錆びにくく、金属アレルギーを引き起こしにくいことで知られるが、対する904Lスティールはクロムの含有量を増やしたことで316Lを上回る特性を持つ。もっとも、加工が困難であることから、この素材を使用しているブランドはごく一部のみ。ロレアートでもクロノグラフモデルのみが904Lスティールを採用しているが、ケースとブレスレットにはより優れた耐腐食性と上質な輝きが備わり、時計にプレミアム感を与えている。
また、クロノグラフモデルでありながら、すっきりとしたデザインにまとめられているのも特筆すべき点だ。ケース厚は12.01mmだが、ロレアートの共通エレメントである滑らかなブレスレットが
備わっているため、こちらの装着感も実に快適。その高い完成度は、必ずや満足感を与えてくれることだろう。
代表作をクールな色調で仕上げた日本限定の「ヴィンテージ1945」
ロレアートと並び、ジラール・ペルゴの旗艦コレクションに位置付けられているのが「ヴィンテージ1945」だ。モダンな雰囲気を放つロレアートとは対照的に、クラシカルな造形が堪能できるタイムピースで、ベースとなったのは1945年に発表された手巻きの角型腕時計。何より特徴的なのが直線と曲線の融合によって構成された優美なプロポーションで、これは1910年代から30年代にかけて流行したアールデコの装飾様式に着想を得たものである。
ヴィンテージ1945は、この角型腕時計の復刻モデルとして1995年にデビュー。スモールセコンドとデイト表示を設けたスタンダードなモデルを筆頭に、その後はムーンフェイズを搭載したモデルやスケルトンダイアルを採用したモデルなど、数々のバリエーションを生み出していった。
このコレクションに2022年、新しく加わったのが「ヴィンテージ1945 グレー 日本限定モデル」。アールデコ様式にインスパイアされたケースデザインはそのままに、シルバーダイアルと鮮やかなブルーの針、そしてケースのクラシカルな意匠を引き立たせるグレーのローマンインデックスと同色のアリゲーターストラップを組み合わせた、200本の限定モデルだ。
デザインのテーマとなったのは“Every cloud has a silver lining(どんな雲も裏側は銀色に輝いている)”という英国の諺。「困難や悲しい状況にも希望や喜びは必ずある」という意味を持っており、グレーのインデックスは“雲”を、ブルーの針は“雲間から見られる青空”、グレーのストラップに施されたシルバーのステッチは“銀色の輝き”をそれぞれ表現することで、厳しい状況が続く現代でサヴァイヴする私たちの心に、希望をもたらすデザインに仕上げている。
人気の高いグレートーンでまとめ上げただけではなく、ケースも縦33.3×横32.46mmとトレンド感のあるスモールサイズとなっており、シェアウォッチとして男女を問わずに着用できるのも魅力。しかし何より、じっくりと堪能したいのはクリエイションの素晴らしさだ。緩やかなカーブを描くケースが手首に馴染むのはもちろんのこと、湾曲したダイアルの形状に合うよう、ドーフィン型の針も手作業によってカーブが付けられている。ロレアートがジラール・ペルゴの革新性を表すコレクションであるならば、ヴィンテージ1945は、時計の造形美を追求し続けるブランドのアイデンティティーを全面に打ち出したタイムピースと言えるだろう。
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