神秘的な魅力を持つムーンフェイズ搭載時計。手元でロマンを感じよう

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2024.10.28

時計の文字盤に月相を示すムーンフェイズ。航海に必要とされた発明当時とは異なり、ムーンフェイズの機構は、今でこそ実用的なニーズはないものの、時間とともに表情を変える文字盤上のロマンティシズムこそがこの上ない魅力だ。科学の発展とともに歩んだムーンフェイズの歴史をたどりながら、今おすすめのムーンフェイズ搭載モデルを見ていこう。

オメガ「スピードマスター ムーンフェイズ」の表示。月や夜空を思わせる背景のディスクの意匠を楽しむのも、ムーンフェイズ搭載時計の味わいのひとつだ。


時計に佇む小宇宙「ムーンフェイズ」

ムーンフェイズは、文字盤上で月の満ち欠けを示す機能である。どのようにして月の形を変えているのか、まずはその仕組みを理解しよう。

月の形が変わる仕組み

一般的なムーンフェイズは、小窓から月をのぞかせるデザインである。ディスクの全面に夜空を描いた上に満月をふたつ配置し、ディスク1周で月の周期が2回見えるようになっている。

ディスクを回転させる歯車の歯数は、モデルにもよるが、59だ。月の満ち欠けの周期を平均29.5日とすれば、歯数を59にすることで、ディスクが1周する間に満ち欠けを2回見せられるためである。

実際の満ち欠けの周期は29.5日より少し長いため、一般的なムーンフェイズでは2~3年に1日の誤差が生じる。もっとも、一生使い続けても調整の必要がない超高精度モデルも存在する。

ムーンフェイズの歴史

ムーンフェイズは元来、暦の確認や、航海術などにおいて実用性を求められて開発されたメカニズムだ。たとえば曇りの日が何日も続き、月の位置や満ち欠けが視認できない時でも、ムーンフェイズさえあれば、月の存在を手にとるように把握できた。

今でこそ月の満ち欠けに関する情報はインターネットで簡単に入手できる。しかし、月相の把握は天候の良し悪しに委ねられていた時代、常時正確な情報を入手することはいかに困難なことであっただろう。月の満ち欠けや、その位置が重要な人々にとって、ムーンフェイズは非常に貴重な情報源だったのだ。

16世紀頃の置き時計に、ムーンフェイズはすでに見られている。18世紀に入って懐中時計に取り入れられ、腕時計に組み込まれ始めたのは1940年代に入ってからである。


知っておきたい。ムーンフェイズで愛好家を魅了するブランド

現在は多くの高級時計ブランドがムーンフェイズを採用している。そんな中でもムーンフェイズの作り手として代表的なブランドを3つ紹介しよう。

ムーンフェイズの先駆者ブレゲ

ブレゲ No.5

アブラアン-ルイ・ブレゲが製作した懐中時計「No.5」。ムーンディスクの月には顔が描かれており、以来、ブレゲでは同作を踏襲している。

ブレゲは1775年にアブラアン-ルイ・ブレゲが構えた時計工房から歴史をスタートさせたブランドだ。ブレゲは数々の画期的な機構を発明して時計史にその名を残しており、この天才時計師の名を受け継いでいる。

懐中時計にムーンフェイズを先駆けて取り入れたのもブレゲだ。1794年の名作「No.5」には、現代と同じスタイルのムーンフェイズがすでに実装されている。

ブレゲは月の満ち欠けの周期に端数が出る問題と向き合い、ディスクに月を2個描いて歯車の歯数を59とすることで、実際の月相を文字盤上に組み込んでみせたのである。

永久ムーンフェイズを開発したIWC

ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー

1985年に発表された「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー」。約122年に1日の誤差という、精密なムーンフェイズを備えていた。

IWCは1868年に創業した、マニュファクチュールブランドだ。「ポートフィノ」、「ポルトギーゼ」、「アクアタイマー」といった代表コレクションで人気を集めている。

IWCが2015年に発表したムーブメントCal.50000には、従来型のムーンフェイズ搭載モデルより歯数の多い歯車が組み込まれた。このメカニズムによってムーンフェイズの表示誤差が大幅に減少され、理論上は約577.5年に1日の誤差しか生じないという精度を実現させた。

IWCが誇る永久ムーンフェイズ搭載モデルなら、人生の数倍にも及ぶ壮大な時と暦のカウウントを、はるか未来の子孫に委ねてみるというロマンに浸るのも悪くない。

コンテンポラリーエレガンスの神髄ゼニス

「エリート」コレクションのドローイング画。リュウズ、ローターなどにゼニスのシンボルの意匠が各所にちりばめられている。

1865年にその歴史をスタートさせたゼニスは、1969年に発表された世界初の自動巻き一体型クロノグラフムーブメント、名機「エル・プリメロ」で知られるブランドである。

もっとも、ゼニスはもうひとつ、代表的なムーブメントを持つ。1950年代に開発された自社ムーブメント名に由来する「エリート」だ。このエリートを搭載させたコレクションは、20世紀中頃の時計のデザインコードを現代にマッチさせたミニマルで流線的なデザインが特徴だ。まさにゼニスのコンテンポラリーエレガンスを表現している。

ムーンフェイズモデルにはCal.エリート692が搭載され、超薄型にもかかわらず、約50時間のパワーリザーブと自動巻き上げ機構を備えている。