1865年に創業したスイスの時計ブランド、ゼニス。1969年には世界最初期の自動巻きクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」を発表、時計史に名を残した。現在もさまざまなバージョンを展開し、さらなる高精度を追求している。今回は、ゼニスについて知っておきたい5つのポイントを紹介する。
革新を続ける名門マニュファクチュール、ゼニス
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1865年にジョルジュ・ファーブル=ジャコによって設立されたスイスのマニュファクチュール、ゼニス。1969年に発表した3万6000振動/時の高振動自動巻きクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」はブランドの知名度を高め、腕時計の歴史における偉大なアイコンのひとつとなった。
1994年に登場した自動巻きムーブメント「エリート」もまた、ブランドのアイデンティティの一部となっている。2017年には、36万振動/時の新しいクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ 9004」を発表。また同年には、古典的な脱進機に代わるシリシウム製の「ゼニス オシレーター」を発表している。
2021年、ゼニスは新たなアイコンとなるモデルを発表した。エル・プリメロ 3600を搭載した「クロノマスター スポーツ」と、チタンケースの「デファイ エクストリーム」だ。2022年には「デファイ スカイライン」が発表され、市場から好反応を得た。2023年には、シースルー仕様の「デファイ スカイライン スケルトン」が発表されている。
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自動巻きクロノグラフムーブメント「エル・プリメロ」
1969年1月10日、ゼニスは世界最初期の自動巻きクロノグラフムーブメントを発表した。後に「エル・プリメロ」という愛称が与えられたこのムーブメントと搭載モデルの開発は、1962年にすでに始まっていた。
最初の「エル・プリメロ」は、約280個の部品で構成されたキャリバー3019 PHCだ。このムーブメントを搭載したステンレススティール製モデルのRef.A384と、ゴールド製モデルのRef.GH 381とRef.GH 383、合計3本が展開された。その後、フルカレンダーとムーンフェイズ表示を備えたより複雑な「エスパーダ」シリーズが追加されている。エスパーダには354個のパーツで構成されるキャリバー3019 PHFが搭載された。
エル・プリメロ誕生50周年を記念して、2019年にはRef.A384の忠実な復刻モデル「クロノマスター リバイバル エル・プリメロ A384」が発表されている。
創業者のジョルジュ・ファーブル=ジャコ
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職人や製造者が別々に作業して時計を作っていた時代に、ゼニスを創業したジョルジュ・ファーブル=ジャコ。彼は自身の会社に、当時スイスではあまり知られていなかった、ひとつ屋根の下にあらゆる工程を集約させる「アメリカ式」の製造体系を取り入れた。
また、彼は新しい機械の導入や生産技術の開発に努め、交換可能な部品と自動化された量産体制も整えた。
4つのコレクションの展開
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自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径38mm)。5気圧防水。125万4000円(税込み)。
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自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径40.5mm)。5気圧防水。75万9000円(税込み)。
現在のゼニスは「デファイ」「クロノマスター」「エリート」「パイロット」の4つのコレクションで構成されている。
デファイには、新しい調速機構を備えた「デファイ インベンター」や、100分の1秒が計測できるクロノグラフムーブメントを搭載した「エル・プリメロ 21」、調速脱進機をジンバルの上に乗せ、時計の向きにかかわらず地面に対して常に水平を保つようにする「デファイ ゼロG」などのモデルが展開されている。
クロノマスターは、伝統的なクロノグラフキャリバー「エル・プリメロ 400」や、「クロノマスター スポーツ」などに搭載される1/10秒精度の自動巻クロノグラフムーブメント「エル・プリメロ 3600」など革新的なムーブメントが採用されている。エリートには同名を冠した自社製ムーブメントが搭載され、パイロットではその名の通りパイロットウォッチが展開される。
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自動巻き(Cal.エリート 670)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径45mm)。20気圧防水。301万4000円(税込み)。
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自動巻き(Cal.エル・プリメロ 9004)。53石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径45mm)。10気圧防水。世界限定250本。完売。
数々の賞を受賞した天文台クロノメーター、キャリバー135-O
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ゼニスが1945年から開発を始め、1949年より製造したキャリバー135は、大きなチラネジ付きのテンワ、大型の香箱などを備えた、当時世界で最も精度の高いムーブメントのひとつであった。このムーブメントにはふたつの仕様があり、ひとつはクラシックな腕時計に採用された市販用のキャリバー135、もうひとつは天文台でのクロノメーターコンクールに出品するために作られたキャリバー135-Oである。
精度に特化したキャリバー135-Oは、腕時計や懐中時計のケースに収められることはなかった。温度変化や衝撃、6姿勢差の変化など、徹底した作動テストにおいて常にその性能を発揮し、合計で230以上の賞を受賞している。
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2022年、この歴史的なキャリバー135-Oを搭載した「キャリバー 135 オプセルヴァトワール」が、オークションハウスのフィリップスより発表された。歴史的なムーブメントの修復と装飾を担ったのは、独立時計師のカリ・ヴティライネンである。13万2900スイスフラン(約1834万円)で10本が出品され、まもなく完売を記録した。2023年末には再び11本目がオークションに出品される予定である。
アーティストとのコラボレーション
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ゼニスは1/100秒計測の高振動クロノグラフウォッチ「デファイ エル・プリメロ 21」から、大胆な色彩の特別モデルをいくつも発表してきた。2021年には、アルゼンチンとスペインにルーツを持つ現代アーティスト、フェリペ・パントンとコラボレーションし、約1年の歳月をかけて「デファイ21 フェリペ・パントン」を完成させた。その反響は大きく、翌年には第2弾となる「デファイ エクストリーム フェリペ・パントン」を発表している。
1986年生まれのパントンのトレードマークは、グラデーションを伴うダイナミックな色の構成だ。彼の作品には稲妻のモチーフが多く描かれており、光のスペクトルの変化がテーマになっている。パントンの生み出す世界観を、サイズや素材の限られた腕時計で再現することは簡単ではなかった。
デファイ エクストリーム フェリペ・パントンでは、文字盤のベースに透明なサファイアクリスタル製のディスクを使用。100ナノメートルの深さに極めて小さな刻印を施すことで、サファイアクリスタルのディスクは虹色に輝く。光の角度によって色が変化し、模様を浮かび上がってくるのだ。
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時針と分針、そしてムーブメントには、デファイ21 フェリペ・パントンのムーブメントに採用されたものと同様、メタリックなレインボーカラーのPVDコーティングが施されている。ベゼルとリュウズプロテクターに採用されているのは、ブルーのYAS(イットリウムアルミノケイ酸塩)ガラス。ストラップは半透明のシリコン製で、YASガラスとマッチする色合いだ。
こうしてパントンの作品世界を時計に落とし込んだデファイ エクストリーム フェリペ・パントンを、ゼニスは「キネティック・アート」と呼ぶ。エル・プリメロ9004を搭載したこの時計は、世界限定100本で販売されている。
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