「根も葉もない噂」というわけでも、ない
そして、世界的な経済メディア「ブルームバーグ」において、英「フィナンシャル・タイムズ」出身のコラムニスト、アンドレア・フェルステッドが2月24日に公開されたオピニオン・コラムで、この噂についての独自の見解を述べている。ブルームバーグをご購読の方はその記事をお読みいただきたい。ここからは、こうした海外記事を読んだ筆者の独自の解説だ。
さて、本題に入ろう。これはまったくの「根も葉もない噂」なのかというと、そうでもない。これはひとことで言えば、ファミリーが支配するラグジュアリーグループの後継者問題、世代交代問題から出てきた噂だ。
間近に迫るファミリービジネスの世代交代
世界最大のラグジュアリーグループである「モエ・ヘネシー ルイ・ヴィトン」(LVMH)。LVMHグループを率いるベルナール・アルノーは1949年生まれで現在70代の彼はここ数年、子供たちを着々とグループ傘下企業のCEOに就任させ、また取締役に任命して、この「世界最大のラグジュアリーの帝国」を継承させる準備を進めている。
長女デルフィーヌ、長男アントワーヌ、次男アレクサンドル、三男フレデリック、そして四男ジャン。ベルナール・アルノーには2度の結婚で生まれた一女四男がいる。そしてこの1月、長女デルフィーヌ・アルノーはグループでNo.2のブランドである「クリスチャン ディオール」の経営トップに指名された。また長男アントワーヌ・アルノーは、昨年12月、LVMHグループ全体の持株会社であるクリスチャン ディオールSEの最高経営責任者兼副会長に就任。そして次男アレクサンドルは「ティファニー」でプロダクト&コミュニケーション部門上級副社長を務めている。また三男フレデリック・アルノーは時計業界関係者ならご存じのように現在「タグ・ホイヤー」の最高経営責任者を、四男のジャン・アルノーはルイ・ヴィトンのウォッチ部門のディレクターを務めている。
2023年1月17日、LVMHグループの時価総額はヨーロッパ企業として初めて4000億ユーロを超え、ファッションやレザーグッズなどの分野で不動のNo.1のボジションにある。ただ、時計宝飾の分野では、ブルガリを傘下にし、ティファニーも傘下で再編中だ。
しかし、この時計宝飾の分野において絶対的に優位というわけではない。そこで「帝国継承の最後の盤石の地固めには何が最善の策か」ということで、この噂が囁かれるようになったと筆者は推測する。LVMHグループが最も渇望しているのはハイエンドな宝飾時計ブランドだと言われる。LVMHグループとリシュモン グループの時価総額を比較すればそれは不可能ではない。何しろベルナール・アルノーの凄さは、実現不可能だと誰もが考えていたLVMH買収を可能にしたその辣腕さにあるのだから。
だが「実現までのハードル」は……
とはいえ、この噂を現実にするハードルは非常に高い。実現すればラグジュアリービジネスのLVMH支配率がさらに高まるわけで、対抗する他のグループがそれを黙って容認するとは思えない。もしLVMHグループがこの実現に乗り出したら、別のグループが間違いなく阻止しようとするだろう。また、両グループ傘下のブランドの両方でマネージャークラスを経験した人は「グループの文化があまりにも違い過ぎる」と指摘している。
ただ、リシュモン グループを率いるヨハン・ルパートも1950年生まれで、すでに70代。彼もまた誰を後継者に据えるかという問題に直面している。
ラグジュアリービジネス、特に時計宝飾ビジネスの業績好調。そして、ふたつのグループの後継者問題。この噂は間違いなく、こうした現状を踏まえて生まれてきたものだ。
筆者はこの噂については「実現可能性は低い」と考える。だが、この噂がラグジュアリーグループの再編、宝飾時計ビジネスの再編につながる可能性は少なくない。スイス在住の知人の話では、信頼できるジャーナリストが、この噂の可能性を完全には否定していないという。
この噂を報じた海外メディアの中には「この件については、数カ月後にまたニュースになるだろう」と意味深な書き方をしている媒体もある。まずは冷静に、あくまで噂として冷静に見守りたい。
https://www.webchronos.net/features/30168
https://www.webchronos.net/features/61589/
https://www.webchronos.net/features/76534/