ロンジンの創業190年にあたる2022年に発表された「ロンジン ウルトラ-クロン」。これは1968年に誕生したダイバーズウォッチを、最新の技術で再現した復刻版である。注目すべきは、3万6000振動/時の高振動ムーブメントを搭載し、魅力的な価格帯を実現したこと。今回は、ロンジン ウルトラ-クロンの着用レビューをお届けする。
自動巻き(Cal.L836.6)。25石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約52時間。SSケース(直径43.0mm)。30気圧防水。55万6600円(税込み)。
1900年代から高振動ムーブメントを手掛けてきたロンジン
ゼニスの伝説的なムーブメント「エル・プリメロ」と、グランドセイコーのいくつかのムーブメント以外で、3万6000振動/時の記録を持つムーブメントはあまりない。例えばオーデマ ピゲやブレゲ、ショパール、タグ・ホイヤーなどが高振動ムーブメントを手掛けて話題を呼んだこともあるが、手頃な価格帯のものを量産したわけではない。
その点において「ロンジン ウルトラ-クロン」は素晴らしい。ロンジンはムーブメント開発においてパイオニア精神を持ち、早い段階から高振動ムーブメントを手掛けていたことについて誇りを持っている。
1914年の時点で、ロンジンは10分の1秒単位で時間を計測できる最初の高振動計測器を開発していた。1959年には腕時計用として初の高振動ムーブメントを開発し、新たな精度記録を打ち立てた天文台クロノメーターとなった。C.O.S.C.認定クロノメーターを超える精度を持つこの時計は、1966年10月に「ウルトラ-クロン」という名称で登録された。1968年には、高振動ムーブメントのCal.431を搭載した初のダイバーズウォッチ「ウルトラ-クロン ダイバー」が発表された。
遅くともこの頃には、ロンジンは高振動ムーブメントのパイオニアとしての地位を確立している。しかしクォーツ技術の台頭に伴う時計業界の大きな変化に伴い、1983年、ロンジンは後にスウォッチ グループとなるSMH(Société de Microélectronique et d'Horlogerie)に加わった。そして1986年には、自社製ムーブメントの製造を完全にやめてしまったのだ。
このことはロンジンの現在のムーブメント開発にとって、必ずしも不利になったわけではない。同じスウォッチ グループにはムーブメント専門会社のETAが所属しており、機械や電子工学から最新のシリコンテクノロジーまで、さまざまな開発能力が結集していた。それらはグループのさまざまなブランドに提供されており、ロンジンでもブランド独自のムーブメント開発につながった。ロンジン ウルトラ-クロンには、ETAのムーブメントをベースとしたCal.L836.6が搭載されている。
シリコン製ヒゲゼンマイを採用した自動巻きムーブメントCal.L836.6
「何世紀にもわたって時計作りのノウハウを蓄積してきたロンジンは、多くの技術開発におけるパイオニアとなり、その革新的な精神を発揮してきました」と、ロンジンはロンジン ウルトラ-クロンの発表に際し自信を持って述べた。また「常に卓越性を求めるロンジンは、すべての自動巻きムーブメントにシリコン製ヒゲゼンマイを採用する」と続けている。
ここがロンジンのセールスポイントである。シリコンは軽量であるだけでなく耐腐食性も高く、気温差や磁気帯びに対しても強い。その特性が時計の精度と寿命を向上させることから、ロンジンはロンジン ウルトラ-クロンに5年間の保証を付与している。
またジュネーブにある独立試験機関「ジュネーブ時計・マイクロエンジニアリング研究所」、通称“タイムラボ”は、ウルトラクロンをクロノメーターとして認めている。認証テストではクロノメーターテストだけでなく、防水性能や耐磁性、パワーリザーブ、装着感などのテストが行われる。ムーブメントだけでなく時計全体が15日間に及ぶテストの対象であり、そのほかにも8℃、23℃、38℃という3つの温度でISO 3159:2009の基準にのっとったテストが行われる。
3万6000振動/時という高い振動数は、ムーブメントに大きなパワーを要求する。これは、ロンジンが1960年代に天文台クロノメーターですでに実現したことだ。そのため、Cal.L836.6は約52時間のパワーリザーブしか持たないが、これは許容範囲だろう。シリコン製ヒゲゼンマイの採用により、ムーブメントの精度と安定性が向上している。
ロンジンの高振動ムーブメントでは、これまでのムーブメント製造の経験を生かして高精度を実現している。今回の着用レビュー実施にあたり、WatchTime編集部で垂直と水平位置における歩度テストを行ったところ、日差はそれぞれ1.8秒、2.8秒と非常に小さく収まった。完全巻き上げ時での日差は1秒にも満たない。また、振り角も落ちにくい。ロンジン ウルトラ-クロンはまさにクロノメーター認定に値する精度を持っているのだ。
オリジナルから引き継いだレトロなデザインと高い視認性
自動巻きムーブメントのCal.L836.6を内蔵するのは、直径43.0mmのレトロなクッション型ケースだ。ケースの形状は、サテン仕上げの側面に向かってポリッシュ仕上げの面を持つ1968年の初代ウルトラ-クロンに似ている。本体は少し細長くなったように見えるが、これはダイビングベゼルがミドルパーツ全体に広がっているからだ。ラチェット式に30秒単位で回る回転ベゼルは、サファイアクリスタルのカバーに覆われており、立体感のある仕上がりになっている。5分、15分単位で強調されている目盛りも、ロンジンの持つノウハウに由来するものだ。
1968年当時、ウルトラ-クロンはすでに200mの防水性能を備えていたが、ロンジン ウルトラ-クロンは30気圧防水となっている。グレイン仕上げのマットブラックダイアルに配された独特のインデックスは、オリジナルとほぼ同じだ。12、3、6、9時位置のアプライドインデックスにはファセット加工が施され、蓄光性のバーで囲まれている。ベゼルも、12時位置の三角形のマーカーと15分ごとのインデックスに蓄光塗料が使用されている。
文字盤上の他の8つのインデックスは長い2重線で描かれ、ざらっとした質感のダイアルに驚くほど綺麗に印刷されている。この2重線には蓄光塗料が塗布されておらず、外側の線だけに塗布されているが、ダイビングを含めたすべての条件下で十分な視認性が確保されている。ダイビングの際に重要となる分針は赤くカラーリングされ、時針と比べて長い蓄光部分が設けられている。ベゼル上の赤い目盛りとともに、この赤い色がダイビング機能に関する統一感を生み出している。
こういった文字盤上の表示は、反射防止加工を施したサファイアクリスタル風防によりはっきりと見ることができる。またサファイアクリスタルの湾曲が、この時計のレトロな個性を引き立てている。ダイビング機能に関する唯一の欠点は、オリジナルには備えられていた、時計の駆動確認に役立つ秒針の先端の蓄光部分がないことだ。
高品質な7連のステンレススティール製ブレスレットは、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げが組み合わされ、片開きのプッシュ式フォールディングクラスプが備わっている。ブレスレットの長さは、4段階ごとに8mm単位で調整することが可能だ。短くする際にはクラスプ周りにあるバネ棒を取り外すため、工具が必要になる。
付属する交換用のテキスタイルストラップは、リサイクル素材を使用したものだ。なおストラップは現代的なクイックチェンジシステムではない。
歴史的なアイデンティティを持ったロンジン ウルトラ-クロンは、スポーティーなダイバーズウォッチという外観と現代的な高振動ムーブメントを組み合わせたモデルだ。それでいて、手の届く魅力的な価格帯を実現している、稀有なタイムピースだといえる。
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