モダンダイバーズの祖、「フィフティ ファゾムス」の登場から70年。技術進化が目覚ましいダイビングに対応すべく、ブランパンが投入したのが「フィフティ ファゾムス テック ゴンベッサ」だ。同作は “モダンダイバーズ” と “モダンダイビング” の乖離を埋める、革新的なプロダクトである。
現代のダイビングに対応すべく、潜水時間の計測方法を改めた“モダンダイバーズ”最新版。ケースはブランパンが近年採用を始めたグレード23チタン製で、熱間鍛造によって強度を増したのち、切削によって成形する。自動巻き(Cal.13P8)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径47mm、厚さ14.81mm)。300m防水。387万2000円(税込み)。
細田雄人(本誌):取材・文 Text & Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]
“モダンダイバーズウォッチ”を刷新したフィフティ ファゾムス最新作
1953年のブランパン「フィフティ ファゾムス」が後世のダイバーズウォッチに与えた影響は計り知れない。確かにこの時代、既に防水時計はいくつか存在した。しかし、潜水時間を計測するための誤作動防止機能付き回転ベゼルを持った時計となると、ごく一部まで絞られる。加えて耐磁性能を持つ、つまり、当時の潜水機器が発する磁気の影響までを考慮し、明確にプロフェッショナル向けとして開発された時計となると、同作のみだったのだから。
ところが、フィフティ ファゾムスという規範が誕生して以降のダイバーズウォッチの進化は、誤解を恐れずに言うならば、実に保守的だった。確かにケースの加工技術やパッキン素材の進化によって防水性能は大幅に向上し、シリコン製ヒゲゼンマイの普及が、かつては想像もつかないような高耐磁性能を実現させた。
しかしそれらは結局、既存のブラッシュアップに過ぎず、対してダイビング自体の技術は、ダイビングウォッチを取り残すように大きく進化していった。特に目覚ましいのがリブリーザーを用いた潜水である。タンクから供給される呼吸ガスを水中へ吐き出さず、再度タンクに循環させるリブリーザーは、これまで最長1時間程度だったスクーバダイビングの潜水時間を約3時間まで延ばしたのだ。
この“モダンダイビング”と“モダンダイバーズウォッチ”に生じた乖離を埋めるのが「フィフティ ファゾムス テック ゴンベッサ」である。同作は社長兼CEOのマーク・A・ハイエックと、ブランパンが支援する海洋調査「ゴンベッサ」プロジェクト創立者のローラン・バレスタが共同開発した、現代のプロフェッショナルダイバーズだ。
ゴンベッサの「タマタロア」ミッションではハンマーヘッドシャークを観察・調査するため、前述のリブリーザーを用いて1回あたり約3時間の潜水を行う。この調査に対応すべく、ベゼルのスケールを3時間に変更し、3時間で1周する副時針と組み合わせて潜水時間を計測する、というのが本作のポイントだ。
テック ゴンベッサは技術的に高度なことをしているわけではない。ベゼルの目盛りを変更し、副時針用に減速車を追加しただけである。それなのに本作はどのダイバーズウォッチよりも革新的だ。それは70年前に自身が切り開いた“モダンダイバーズ”のスタイルを更新したこと、そして着用者がごく一部に限定されるプロ向けながら、通常モデルとして販売されたことに尽きる。
通常版であり、かつ「近代化を続けるためにも1回で終わってしまってはいけない時計」というブランパンのコメントから、本作の開発が今後もモダンダイバーズのアップデートを続けていく決意表明だと分かる。「革新こそが伝統」を標榜する同社において、フィフティ ファゾムス テック ゴンベッサは現在、最も“らしい”プロダクトなのだ。
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