グランドセイコーの「エレガンスコレクション」SBGW259をレビューする。本作は、初代グランドセイコーのデザインを踏襲した、手巻き式のレギュラーモデルだ。ブリリアントハードチタン製ケースと堅牢なムーブメントを採用し、実用性に優れたパッケージングがされている。
2023年4月3日掲載記事
現代によみがえった、日本の時計史を飾る記念碑的モデル
2020年、誕生から60周年を迎えたグランドセイコーは、「初代グランドセイコーデザイン復刻モデル」3種をレギュラーモデルとして発表した。
これまでにも同社は、セイコー創業120周年を迎えた2001年の「SBGW004」をはじめ、度々初代グランドセイコーを復刻してきた。ただ、そのどれもが数量限定であり、容易に入手できるものではなかった。
そんな中発表されたレギュラーモデルは、これまで悔しい思いをしてきたファンにとって、まさに福音だったことだろう。
手巻き(Cal.9S64)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブリリアントハードチタンケース(直径38mm、厚さ10.9mm)。日常生活用防水。108万9000円(税込み)。
数量限定モデルを確実に入手するためには、早期に購入を決断する必要がある。時には現物を見ることすら叶わない。レギュラーモデルであれば、じっくりと悩み憧れる時間までも楽しむことができるのだ。
これまで復刻されてきた初代グランドセイコーは、単純なバリエーション展開ではなく、復刻の度に細かなアップデートを加えて登場してきた。SBGW004と最新作でありレギュラーモデルのエレガンスコレクション SBGW259を比較すると、ケース径は36mmから38mmに拡大され、裏蓋は、スナップ式のソリッドバックからネジ留めのシースルーバックに変更された。
サファイアクリスタルの形状は、ボックスからデュアルカーブに改められ、モダンなテイストを与えられた。ムーブメントも刷新され、約72時間に延長されたパワーリザーブは、スイスの著名なブランドが製造する自社製ムーブメントと比較しても遜色のない長さを備えている。
今回のインプレッションは、そんなSBGW259をテーマとする。復刻デザインを持つモデルには、変えるべきところと変えずに残すべきところを切り分け、現代の時計として再構築することが求められる。グランドセイコーは、日本の時計史に輝く記念碑的モデルをどのようによみがえらせたのだろうか。
初代グランドセイコーを象徴するミニマルなダイアル
外装は、初代グランドセイコーの特徴をほぼ忠実に再現している。ダイアルは外周に向かって緩やかにカーブするボンベ型を採用する。
本作の深いブルーは、ブティックの専用什器やボックスでもお馴染みの“グランドセイコーブルー”だ。このカラーはブランドを象徴するものでありながら、主に限定モデルで採用されてきた。この特別なカラーリングが、レギュラーモデルとして入手可能なのは喜ばしい。
ロゴとミニッツマーカーは、シルバーカラーのプリントによる。12時位置にはフルスペルの“Grand Seiko”が、6時位置には“Diashock 24jewels”が入っている。今や、耐震装置や石数をダイアルに表示する必要はないだろう。しかし、あえて記載したことにオリジナルへのリスペクトが感じられるのだ。
余談であるが、プラチナケース仕様の「SBGW257」と、18Kイエローゴールドケース仕様の「SBGW258」は、“Diashock 24jewels”の下に小さな星のようなマークが入る。これはSD(Special Dial)マークと呼ばれ、インデックスに貴金属を使用していることを表すものだ。
インデックスは、カーブしたダイアルに沿うように取り付けられ、山をふたつ作るようにダイヤカットが施されている。この山が陰影を生み、グランドセイコーらしい視認性をもたらしているのだ。12,3,6,9時位置のインデックスは、他に比べ太くなっており、あらゆる角度から見ても正確に時刻を読み取ることができる。
太いドーフィン型の時分針も同様にダイヤカットが施され、その輪郭をはっきりと浮かび上がらせている。先端までシャープに研ぎ澄まされ、どこを指しているのかがひと目で分かる。秒針にもバリはなく、上面を磨き上げることで立体感を与えられている。分針と秒針は、ダイアルに沿ってカーブが入っている。
ダイアルを覆うのは、デュアルカーブサファイアクリスタルだ。ボックスサファイアクリスタルのような立ち上がりはなく、なだらかなカーブを描くため、風防自体が薄く、すっきりとした印象になっている。
まるでステンレススティールのような輝きを放つ、ブリリアントハードチタン
ケースは一見してステンレススティール製のように見えるが、実はチタン製である。それもただのチタンではなく、グランドセイコーのために開発された“ブリリアントハードチタン”だ。
“ブリリアント”という言葉の通り、純チタンに比べて白く、かつ磨き上げることで輝きを与えることができる。“ハード”が示すのは、その硬さだ。ビッカース硬度は、通常のステンレススティールの約2倍を誇り、傷が付きにくい。もちろん、チタン合金のため、軽量さに加えて耐アレルギー性と耐食性を備える。腕時計にとって、うってつけの素材と言えるだろう。
ザラツ研磨を与えられたケースには、歪みの無い平面が与えられ、まるで鏡のように周囲を映し出す。ケースの直径は、オリジナルから拡大され38mmとなったが、大きいという印象はない。インデックスと針の存在感が大きく、それによってダイアルに不必要な余白が無いためだろう。
本作は、ローターを持たない手巻きムーブメントを搭載するため、ケースも薄く抑えられている。数字にして10.9mm。機械式のグランドセイコーは、少々厚みがあることがネックだったが、ここまで抑えられていれば、取り回しには何の不自由もないだろう。
粗めの溝が刻まれたリュウズは、トップに小さなS字が浮き彫りされている。これもオリジナルと同様のデザインだ。
シースルーの裏蓋は、6本のネジで留められている。グランドセイコーの定番モデルのひとつ、「エレガンスコレクション」SBGW231も同様にネジ留め仕様だが、それよりも細いネジが使用されており、よりエレガントな印象である。
裏蓋外周には防水や素材に関する文字が入っているが、レーザー刻印のために薄い。個人的な好みを言えば、しっかりと深く刻み込んでほしいところだ。
レザーストラップは、ダイアルと同じブルーカラーのクロコダイル製が装着されている。大きな竹斑でステッチが無いため、すっきりとしたドレッシーな印象だ。三つ折れ式のDバックルが組み合わされ、プッシュボタンを押下するだけで簡単に外すことができる。バックルは厚みのある堂々としたデザインで、“GS”の文字がレーザー刻印されている。