「山」と関わりの深い腕時計4選。それぞれのルーツや関係性を知ろう

FEATUREその他
2023.04.02

時計ブランドおよび、それらが手掛ける時計というのは何かしらのルーツを持っていたり、ある思想が反映されているものだ。今回は「山」と深い関わりを持つ4モデルについて、各モデルのコンセプトをブランドの歴史も交えて紹介する。

山と時計

佐藤しんいち:文
Text by Shin-ichi Sato
2023年4月2日掲載記事


山と深い関わりを持つ4モデルを、コンセプトやブランドの歴史と共に紹介

 時計ブランド各社および、それらモデルは、それぞれに異なるルーツを持っている。デザインやスペックに引かれて時計を選ぶのも良い。そのモデルが誕生した背景を知ることは、新たな魅力を発見したり、自分との共通点を見つけて親近感を覚えることにつながる。

 そこでこのシリーズでは、それぞれのモデルをより深く楽しむために、あるいは興味の対象を広げてもらうことを目的に、各テーマと関わりの深いブランドやモデルを取り上げる。今回は「山」に注目しよう。


デザインだけでなく、保護活動の観点でもアルプスと関わる ショパール「アルパイン イーグル」

「アルパイン イーグル」は、ショパール共同社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレの息子であるカール-フリッツ・ショイフレが、過去の名作を再解釈した新たなコレクションを企画したことにより生まれたモデルだ。

 その名作とは、1980年初登場でショパール初のスポーツウォッチ「サンモリッツ」である。サンモリッツは、シックでありながらもスポーティーなスタイリングで人気を博したモデルで、その名はハイキングやウインタースポーツが盛んな街(つまり山と関わりが深い街)の名前に由来している。

サンモリッツ

1980年、ショパール初のスポーツウォッチ「サンモリッツ」は誕生した。ケースからブレスレットへ流れるラインや特徴的なブレスレットは、現在のアルパイン イーグルへ通じる意匠である。

 アルパイン イーグルには、サンモリッツの特徴的なベゼルやブレスレット、ケースサイドからブレスレットに繋がるライン等の影響が見られる。ここに、壮大なアルプスと、そこに生息するイヌワシ(ゴールデンイーグルとも呼ばれる)を、デザインと名前に取り込んで生み出された。

 例えば、ダイアルのテクスチャーはイヌワシの虹彩を、秒針のカウンターウェイトは羽を表現している。また、緩やかにテーパーが施されたブレスレットは、センターにイヌワシのビオトープであるアルプスの山を思わせる立体的な造形を備えている。

アルパイン イーグル ラージ

ショパール「アルパイン イーグル ラージ」
カール-フリッツ・ショイフレが、サンモリッツの着用感の良さに感銘を覚えたことが、アルパイン イーグルを企画するきっかけのひとつとなった。それを引き継ぎ、本作の着用感も評価が高い。弧を描きながら放射状に広がるダイアルの装飾は、視認性を確保しながら表情を生み、本作のアイコンとなっている。自動巻き(Cal.01.01-C)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。ルーセントスティール A223(直径41mm)。100m防水。199万1000円(税込み)。

 アルパイン イーグルと、アルプスに生息するイヌワシとの関わりは、名前とデザインだけではない。ショパールは「サステナブル・ラグジュアリーへの旅」を掲げており、持続可能性に対する取り組みを積極的に行っている。

 その中のひとつが、「アルパインイーグル財団」の創設である。その活動は、絶滅の危険性が高いとされるイヌワシの保護活動を始めとして、イヌワシの生息地であるアルプス山脈全体と、そこに生息する生物や植物の保護活動を行うこと、およびその活動を通じて注目度を高め、支援を集めることである。

 アルパイン イーグルは、そのデザイン性と完成度の高さから一躍人気モデルとなった。そのことによって、アルプスから遠く離れた地域、例えば日本においても、"アルプスのイヌワシ"というキーワードと、ダイアルやケースデザインから感じ取れるイヌワシの神秘性をアルパイン イーグルは広く知らしめることとなった。

アルパイン イーグル

これは、アルパインイーグル財団の活動を大きく推進するものであるのと同時に、この時計のオーナーが自分の時計とアルプスの壮大な自然、そこに生きる神秘的なイヌワシの関係性を思い起こし、そのモデルを所有することの意味を深めることに寄与している。


「精霊の山」の名を持ち、その山の特徴を取り込んだ カシオ プロ トレック マナスル PRX-8001YT

 登山用のツールウォッチとして地位を確立しているのがカシオのプロ トレックである。プロ トレックの前身となる「ATC-1100」(1994年発表)および、プロ トレック初代モデル「DPX-500」(95年発表)から継承される特徴がトリプルセンサーである。

 これは、方位を検知する磁気センサー、天候変化や高度と関係する圧力センサー、気温を検出する温度センサーを指しており、この3つのセンサーによって登山をはじめとしたアウトドアでの活動をサポートする機能を実現している。

マナスル PRX-8001YT

カシオ「マナスル PRX-8001YT」
大型のモデルであるがチタン製であるので136gに抑えられている。ソーラー発電や電波受信機能、多数のセンサーを搭載し、時計としてまとめ上げている点、それを統合した機能を提供する点は、カシオの技術が光る。筆者の知る範囲で恐縮であるが、プロ トレックは登山愛好家の支持が厚い。評判を聞く限り、高度計の精度が高くて信頼できるそうだ。
ソーラー電波。機能使用時 最長約6ヵ月。Ti(縦59.7mm、横52.5mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。19万8000円(税込み)。

 プロ トレックシリーズの最高峰モデルが「マナスル PRX-8001YT」だ。ペットネームの「マナスル」とは、ヒマラヤ山脈に属する標高8163mの山の名称であり、その名の由来はサンスクリット語の「精霊の山」である。雪崩が多くて危険な山であることが知られるほか、ナイフリッジと呼ばれる切り立った細い尾根が、頂上手前に待ち構えていることが特徴である。

 マナスル PRX-8001YTは、マナスルを含む8000m峰14座完全登頂に日本人として初めて成功したプロ登山家の竹内洋岳が監修したモデルだ。本作には、マナスルのナイフリッジをデザインコンセプトとして取り込み、シャープで立体的なインデックスと時分針を備える。また、機械彫刻されたベゼルには、降り積もった雪の上に強い風が吹くことで生み出される雪紋が象られている。

 機能の面でも最高峰モデルにふさわしい内容だ。トリプルセンサー搭載のほか、高度変化の積算と、変化傾向をグラフ化する機能や、最高および最低高度の自動記録、天候急変と関係する急激な気圧変化の警告表示を備える。

マナスル PRX-8001YT

 外装はチタン製で、活動を邪魔しない軽量な着け心地を実現し、熱伝達率が低く低温環境下でも冷たさを感じにくいことが期待できる。ブレスレットのロック部にはスライド機構が備わっており、インナーグローブの上から着用する際にもワンタッチで調整可能である。

 プロ トレックは、ツールウォッチを極めて高いレベルで作り上げるカシオのブランドであるので、その完成度の高さには安心感がある。しかし、筆者が今回取り上げた理由はそれだけではない。シリーズのボトムラインのひとつとなる「PRG-240」(税込み2万9700円)においてもトリプルセンサーが採用されているのだ。

 安価なモデルであっても、登山中に必要とされる機能を惜しみなく搭載するカシオの真摯な姿勢が現れている。