世界のセレブたちがどんな時計を着けているのか、ワンシーンを切り取り紹介する連載コラム「セレブウォッチ・ハンティング」。今回は2023年3月28日に現役引退会見を開いた元プロボクサーの村田諒太が着用している腕時計を紹介しよう。
Text by Yukaco Numamoto
2023年4月2日掲載記事
ロンドン五輪の金メダリストであり、元WBA世界同級スーパー王者である村田諒太
2023年3月28日に正式に現役引退を発表した村田諒太は、オリンピック金メダルとプロ世界チャンピオンの両方を達成した初の日本人ボクサーである。華々しい経歴を持つ村田だが、そのボクシング人生は順風満帆というわけではなかった。
2007年の全日本選手権では2度目の優勝をするも、2008年の北京オリンピック・アジア1次予選では準決勝敗退、2次予選でも初戦敗退し、オリンピックへの出場権を獲得することができなかったため、現役生活からの引退を決めたこともある。
東洋大学卒業後はそのまま同大学に就職し、大学職員兼ボクシング部コーチとして勤務していたが、東洋大学のボクシング部元部員の不祥事をきっかけに1年半ぶりの現役復帰を決意する。
2012年のロンドンオリンピック出場権を獲得した後は、英国のボクシング専門誌『ボクシング・マンスリー』で「英国にとってミドル級最大の強敵は日本の村田」という高評価を得た。戦い方の手の内を見せないという目的で国際試合からはあえて離れ、準備を積んだ。ロンドンオリンピックではミドル級日本人選手として16年ぶりに出場し、ブラジルのエスキバ・ファルカオを14-13で破り、金メダルを獲得した。
オリンピック終了後はプロへの転向か、完全引退、もしくはアマチュア続行の間で迷っていたようだ。迷いがある中、NHKの番組「課外授業 ようこそ先輩」の収録で転機があった。母校の小学校6年生たちと2日間を過ごしているうちに、自分の夢が「五輪で金メダルを取り、プロ転向して聖地ラスベガスで戦う」ことだったと思い出したそうだ。2015年にはラスベガスでアメリカデビュー戦を果たし、判定勝ちを収めた。
村田諒太はウブロの「クラシック・フュージョン クロノグラフ」を愛用
2020年11月26日に村田諒太のインスタグラムに投稿された写真は、ウブロの創業40周年を記念した「HUBLOT 40th Anniversary Exhibition -革新への挑戦-」で撮影されたものだ。その際に着用されたモデルは、ウブロの「クラシック・フュージョン クロノグラフ チタニウム ディープブルー」だと思われる。
ウブロはスポーツ界との関係が深い。サッカーだけではなく、F1などのモータースポーツ、バスケットボール、そしてボクシングにも関わっている。2019年には、村田が履いていたトランクスの正面のウエスト部分に「HUBLOT」のブランドロゴが入っていたこともある。日本人ボクサーとして初めて村田がウブロのスポンサーに就いたのだ。日本人ボクサー史上最高額を稼いできたとされる村田に強力な応援がついたことになる。
先ほど紹介したInstagramの投稿は2020年11月のものであり、ブランドアンバサダーの活動の一環として投稿されたものと考えられるが、村田のコメントや写真で見られる表情からは時計愛が感じられる。「創業当時のモデルや、スイスの工房で開発された複雑な時計の機械などもあって非常に興味深かったです!」と語る笑顔と真剣に展示を観察する横顔は、時計愛好家そのものだ。
「クラシック・フュージョン」というコレクション名は、ウブロの"クラシック"を融合するという意味が込められたものだ。「ビッグ・バン」に比べると控えめな存在ではあるが、ウブロが培ってきた伝統的なデザインコードを踏襲し、現代的なエレガンスを表現した人気シリーズである。
ウブロは1980年にETA製のクォーツムーブメントを搭載した「クラシック」を発表し、ゴールドやステンレススティールのケースにラバーストラップを組み合わせるという、それまでにはなかったアイデアで一躍注目を浴びた。2004年にジャン-クロード・ビバーが就任し、翌年に発表したコンセプトが“アート・オブ・フュージョン”だった。異なる素材やアイデアを融合させることの面白さや独創性のもとに「ビッグ・バン」が誕生し、ブランドを代表するコレクションとなった。2008年には、1980年の「クラシック」のビスを半分に減らし、HUBLOTの頭文字をデザイン化したH型ビスを採用する「クラシック・フュージョン」を発表。部品そのもののデザインに加え、ケース素材はチタン、キングゴールド、セラミックスと多彩に展開し、それらのコンビネーションモデルも存在する。また、超高耐久性を誇るSAXEMなどをはじめ革新的な素材を採用することでもウブロは存在感を放っている。
斬新なアイデアは留まることなく、2018年からは現代芸術家のリチャード・オーリンスキーとのコラボレーションモデルなどを発表し、アートの世界とのコラボレーションも果たした。
クラシック・フュージョンのケースはサイズのバリエーションが豊富なことも特徴のひとつである。3針モデルは直径33mm、38mm、40mm、42mm、48mmの5サイズが展開され、クロノグラフモデルは直径42mm、45mmの2サイズが展開されている。この幅広いサイズが、広い層の顧客を呼び寄せたことも事実だろう。村田諒太が着用しているモデルはおそらく手首のバランスから45mmであると思われる。
引退会見では、記者から「悔いはないか」と尋ねられ、「もっとこうしていれば、これが必要だったのではというのはいっぱいある。部分で言うなら数え切れないぐらいある。それが悔いというなら悔いだが、それも含めてロングショットで見て、全体像の総括と考えるのであれば悔いはない」と爽やかに答えた。現在は海外とのビジネスも視野に入れながら、1日3~4時間ほど英語の勉強をしているそうだ。ボクシングだけでないさまざまなシーンで村田諒太の姿が見られるようになるかもしれない。新たな山を目指す村田諒太が、これからどんな時計を選ぶのかも楽しみだ。
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