1932年から始まったオメガのダイバーズウォッチの歴史。技術の進歩とともに防水性能を高めていき、6000m防水という驚異的な防水性能を持つモデルも製作されるようになる。現行の「シーマスター ダイバー 300M」の元となったモデルが登場した1993年から、2022年までに発表されたモデルを紹介しよう。
1993年に「シーマスター プロフェッショナル300」が誕生
1993年、オメガは300mの防水性能を持つ「シーマスター プロフェッショナル 300 クロノグラフ」を発表した。同時に3針モデルの「シーマスター プロフェッショナル 300」も登場している。このふたつの時計は、オメガで初めてヘリウムエスケープバルブを搭載したモデルだ。そのためには、10時位置のリュウズを緩めてバルブを開けなければならなかった。
また、これらの時計には初めてケース素材にチタンが使用された。ムーブメントは、バルジュー7750をベースにしたクロノグラフムーブメントのCal.1154と、ETA2829を改良したCal.1109が採用された。
文字盤に施された波状の装飾やシースルー加工された針など、デザイン面でも新しい時代が幕を開けた。その後、幾度かのリニューアルを経て、このコレクションは現在も「シーマスター ダイバー300M」の名前で展開されている。
シーマスター プロフェッショナル 300の特徴は、文字盤の波模様、シースルー加工が施された剣型の針、回転ベゼルの波型のシルエット、10時位置の手動ヘリウムエスケープバルブ、複雑な9連のメタルブレスレットだ。現在、文字盤とベゼルの目盛りはセラミックス製で、波模様はレーザーで施されている。
シーマスター プロフェッショナル 300が誕生した1993年には、チタン、ローズゴールド、タンタルという珍しい組み合わせのクロノグラフモデルが発表されたこともある。タンタルはグレーカラーの希少な金属で、インプラントなどにも使用されている。2020年、オメガはこのクロノグラフを「シーマスター ダイバー300M クロノグラフ チタン タンタリウム」として復活させた。ベゼルとブレスレットの中間リンクはタンタル、ケースとブレスレット部分はチタンとなっており、ダイビングスケールとその他のブレスレットのコマにはオメガ独自の18Kセドナ™ゴールドが採用されている。
1995年からシーマスターが「ボンドウォッチ」に
シーマスター プロフェッショナル 300は、同じ年に淡水フリーダイビングで80mの新記録を樹立したダイバー、ローランド・スペッカーが着用していたことでも有名になった。だが、この時計をさらに有名にしたのは、1995年公開の映画『007/ゴールデンアイ』だ。この映画のなかで、ピアース・ブロスナン演じる主人公ジェームズ・ボンドが「シーマスター プロフェッショナル 300(Ref.2541.80)」を着用した。
その後、1997年の『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』、1999年の『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』、2002年の『007/ダイ・アナザー・デイ』と、3作続けてジェームズ・ボンドは「シーマスター プロフェッショナル 300(Ref.2531.80)」を着用している。
劇中では、シーマスター プロフェッショナル 300はジェームズ・ボンド仕様に改造されており、さまざまな場面で装備品として力を発揮する。『ゴールデンアイ』では搭載されたレーザーを使って閉じ込められていた車の底を焼き切り、『トゥモロー・ネバー・ダイ』では内蔵されていた爆弾のリモコンが活躍した。
世界的に有名な“ジェームズ・ボンド”というキャラクターと映画の広告キャンペーンによって、シーマスター プロフェッショナル 300のブルーダイアルモデルは「ボンドウォッチ」として有名になった。そして、販売面でも大きな成功を収めたのだ。1996年だけで、オメガは前年度に対し売上を10倍以上伸ばしている。ジェームズ・ボンドの映画が公開される時には、007のロゴを配した限定モデルを展開した。
ジェームズ・ボンドの俳優がダニエル・クレイグに交代した後も、オメガと007のパートナー関係は続いた。ダニエル・クレイグ演じる6代目ボンドのデビュー作となった2006年の『007/カジノ・ロワイヤル』では、「シーマスター プロダイバーズ 300M コーアクシャル」と「シーマスター プラネットオーシャン 600M コーアクシャル」の2本の時計をボンドが着用した。
続く2008年の『007/慰めの報酬』では「シーマスター プラネットオーシャン 600M」を着用。2012年の『007/スカイフォール』では、「シーマスター プラネットオーシャン600M コーアクシャル」とよりドレッシーな「シーマスター アクアテラ 150M」の2本を着用している。2015年の『007/スペクター』では、“スペクター”限定モデルの「シーマスター 300」と、「シーマスター アクアテラ 150M」を着用した。
そして2021年の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』では、チタン製の「シーマスター ダイバー300M 007エディション」を着用。このモデルは、ミラネーゼブレスレットを備え、ベゼルとダイアルにヴィンテージ調の蓄光塗料を採用したレトロな外観が特徴だ。
2003年、フリーダイバーのための特別な時計「シーマスター アプネア」が登場
2003年に登場した「シーマスター アプネア」は、フリーダイバーのために特別に開発された時計である。「アプネア」とは、“潜水”という意味のイタリア語だ。潜水時間は文字盤の7つの丸い窓で表示される。クロノグラフを起動すると、9時位置の窓が赤色に変わっていく。ひとつの窓が赤くなるのに1分かかるため、すべての窓が赤色になると7分の経過を意味する。その後、また9時位置の窓から白に戻っていくのである。
7分は人間が息を止めていられる限界の時間といわれいる。また、海面へ浮上する際も時間を掛ける必要があるため、14分のカウントが重要なのだ。それを分かりやすく表示することが、シーマスター アプネアの目的である。視認性を高めるためにサブダイアルは省かれ、クロノグラフ駆動時にはセンターに配されたセコンドカウンターだけが動く。
2005年、新シリーズ「シーマスター プラネットオーシャン」が誕生
オメガは、2005年に「シーマスター プラネットオーシャン」を発表した。このシーマスターの新しいシリーズは1957年の「シーマスター 300」のデザインを踏襲しているが、より現代的で、ブルーやオレンジなど鮮やかな色を採用している。技術面では、600mという高い防水性能を保持し、コーアクシャルムーブメントを搭載している。これまでには、部分的に彩色が施されたセラミックケースのモデルなども展開されてきた。
2019年4月、オメガは「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」というコンセプトウォッチを、冒険家のヴィクター・ヴェスコヴォと共に太平洋のマリアナ海溝へと送り込んだ。潜水深度は1万935m。人間、そして時計が到達した最も深い記録となった。直径52mmのチタン製腕時計のうち、2本は潜水艇のロボットアームに、3本目はランダーと呼ばれるデータ収集ユニットに取り付けられた。こうしてオメガは、ロレックスと潜水艇トリエステが保持していた水深1万916mという記録を塗り替えた。
2022年にはこのコンセプトウォッチを市販化し、「ロレックス ディープシー」の3900mを大きく上回る6000mの防水性能を保持する「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」を発表した。コンセプトウォッチと同じチタン製ケースを備える1モデルと、耐腐食性と抗アレルギー性の高い「O-MEGAスティール」と呼ばれるステンレススティール合金を採用した3モデルを展開。いずれも直径45.5mm、厚さ18.12mmで、約60時間のパワーリザーブを保持するマスター クロノメーター認定の自動巻きキャリバー8912を搭載している。
オメガは長年にわたって、多彩なダイバーズウォッチを展開してきた。復刻モデルを数多く製造する一方で、ムーブメントとケースには新しい技術を取り込みながら常に進化させてきた。また、007シリーズはオメガのダイバーズウォッチの歴史に大きく貢献している。まだ見ぬ“7代目ジェームズ・ボンド”とともに、オメガのダイバーズウォッチがスクリーンに登場するのが楽しみだ。
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