「マリーン」コレクションが、旧来のユリス・ナルダンを象徴するクラシカルな意匠であるのに対し、モダンな作風を魅せる新鋭が「ダイバー X スケルトン」だ。その新色となるホワイトバージョンは、単に純白の外観を特徴としたモデルではない。海との深いつながりや革新性を追求する姿勢といった、ユリス・ナルダンが創業当時から掲げるフィロソフィーを、より現代的な感性で表現した意欲作である。
カーボニウム®製ベゼルを採用し、見た目にもスポーティーな雰囲気を漂わせていた前2作から一転、ホワイトラバーのベゼルとストラップを組み合わせて、爽やかなルックスに仕上げた2023年の新作。ケースはチタン製で着用感も実に軽快だ。自動巻き(Cal.UN-372)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約96時間。Tiケース(直径44mm)。200m防水。356万4000円(税込み)。
竹石祐三:文 Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]
白い脈動
ユリス・ナルダン「ダイバー X スケルトン」
「フリーク X」と「スケルトン X」の誕生を嚆矢として、2019年以降のユリス・ナルダンは「未知なるもの」を表す “X” をコンセプトとしたタイムピースを積極的に展開し続けてきた。
そもそもユリス・ナルダンは、1878年のパリ万国博覧会において、自社で開発した航海用の精密時計(マリンクロノメーター)が高く評価されたことで、世界にその名を轟かせたブランドである。1980年代以降はこの偉業を顕彰し、往時のマリンクロノメーターをモチーフとしたクラシカルデザインのモデルをフラッグシップとして展開する一方、 “天文時計三部作” (「アストロラビウム・ガリレオガリレイ」「プラネタリウム・コペルニクス」「テリリウム・ヨハネスケプラー」)に象徴されるような、複雑機構の時計にも注力してきた。
ゆえに、時計愛好家には革新性を追求するブランドとして知られてはいたものの、それでも、このXコンセプトが提示するモダンでアバンギャルドなデザインはインパクトを与え、それは同時に、ユリス・ナルダンのクリエイションが新たなフェーズに突入したことを、広くアピールすることにもつながったはずだ。
このユニークなコンセプトを取り入れたタイムピースのひとつが、ブランドの代表作である「ダイバー」と「エグゼクティブ スケルトン」のデザインを融合し、2021年に誕生した「ダイバー X スケルトン」である。Xをかたどった大胆なモチーフが目を引くスケルトンダイアルを採用し、脱進機や輪列構造はもとより、リュウズの切り替え機構や香箱のテクスチャーまでをも可視化。そればかりか、ベゼルには、航空宇宙分野で使われる有機的なパターンが印象的な先進素材カーボニウム®を用いるなど、 “魅せる” デザインを追求。フューチャリスティックなルックスでありながら、ダイバーズモデルに必要十分な性能も備えたユリス・ナルダンの新世代モデルとして、大きな注目を集めたことは記憶に新しい。
その第3弾モデルが「ダイバー X スケルトン ホワイト」。特徴的なスケルトンダイアルは踏襲しながらも、新たにラバーを組み込んだベゼルとストラップのカラーにはホワイトを採用し、ケースやムーブメントがまとうシルバー色と組み合わせることで軽快感と洗練された雰囲気を強めた新バージョンだ。
過去2作も含め、「ダイバー X スケルトン」に搭載されているのは自社製の自動巻きムーブメントUN-372。6時位置には淡いブルーのシリコン製オシレーターが確認できるが、このパーツにシンクロさせるかのように、秒針とX字型ダイアルの一部はブルーに彩られ、ホワイト×シルバーの外装に控えめなアクセントを添えている。さらにはXのモチーフを大胆にかたどったローターを搭載し、表裏のルックスに統一感を持たせたデザインワークも実に見事だ。
爽やかなホワイトカラーを取り入れたダイバーズウォッチは、春夏シーズンにこそ着用したくなる1本だ。「ダイバーX スケルトン ホワイト」はこのようなファッション性を感じさせる一方、先鋭的なスケルトンデザインを採用することで常に革新的であろうとするブランドの姿勢もアピール。そのうえで、マリンクロノメーターの開発に端を発する〝海洋とのつながり〞を、デッキを想起させるホワイトカラーによって匂わせる、まさにブランドのアイデンティティーが凝縮された時計でもあるのだ。
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