能ある鷹は爪を隠す。ロレックスの新作「パーペチュアル 1908」はチェリーニに置き換わる“大傑作”だ

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2023.04.06

2023年のロレックスは、デイトナ一辺倒だった。書きたいことがいろいろあるが、むしろ萌えたのはベーシックな「パーペチュアル 1908」だ。オイスターケースでもなく、しかもスモセコというクラシカルな時計。しかし、搭載するムーブメントは、ひょっとして、ロレックスの未来を変えるものかもしれない。

ロレックス 新作

広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2023年4月6日掲載記事


「チェリーニ」に置き換わる存在

 昨年、デザイナーのエマニュエル・ギュエからメッセージをもらった。「(彼のデザインした)ロレックスのチェリーニが廃盤になる」とのことだった。オイスターパーペチュアルほどメジャーではないが、チェリーニは愛好家に好まれる優れたコレクションだ。

 なぜ廃盤にしたのかギュエも筆者も疑問に思っていたが、2023年の新作を見て納得した。今回披露された「パーペチュアル 1908」は、チェリーニに置き換わる、ロレックスの新しいドレスラインだったのである。

パーペチュアル 1908

ロレックス「パーペチュアル 1908」
自動巻き(Cal.7140)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。18KYG(直径39mm、厚さ9.50mm)。50m防水。261万9100円(税込み)。

 パーペチュアル 1908と言う名前は、ロレックスの創業年である1908年にちなんだものらしい。つまりこのモデルは、ロレックスの伝統を強調した新作というわけだ。

 オイスターではないシンプルなケースに、スモールセコンド、そしてアラビア数字とバーを混在させたインデックス。デザイン要素だけを見ると、1940年代から60年代に存在した、ベーシックモデルのリバイバルと言っていい。まさかロレックスが、これほど「ド直球」なモデルを出すとは予想もしていなかった。


シンプルだが野心的なディテール

 改めてデザインを見てみたい。ケースの造形はオイスターパーペチュアルに似ているが、ドレスウォッチ風に仕立て直されている。具体的には、ラグに斜面を設け、ベゼルをフルーテッド(刻み)とドームの混在にすることで、見た目は明らかに細くなった。

パーペチュアル 1908

ロレックス「パーペチュアル 1908」
こちらはグレーダイヤル。素材はやはり18Kホワイトゴールド製だ。強い光源下でも視認性は悪くない。自動巻き(Cal.7140)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。18KWG(直径39mm、厚さ9.50mm)。50m防水。276万8700円(税込み)。

 また、リュウズもねじ込み式のオイスターではなく、標準的なものだ。引きやすく、回しやすい造形はいかにもロレックスである。また、ねじ込み式リュウズではないにもかかわらず、防水性能は50mもある。

 インデックスや針の造形も野心的だ。ロレックスとしては珍しく、インデックスはアラビア数字とバーの混在である。この組み合わせは1940年代によく見られたものであり、まさか2020年代に復活するとは思ってもみなかった。しかし、12時位置のインデックスは今風にやや間隔が広げられた。素材は18Kゴールド製だ。

パーペチュアル 1908

斜めから見たパーペチュアル 1908。写真が示すとおり、インデックスはポリッシュとダイヤモンドカットの混在である。針高をやや高めに取っているのはロレックスらしい。ケース素材は18KWGである。

 2種類のインデックスには、面白いことにふたつの仕上げが混在されている。バーはダイヤモンドカット仕上げで、それ以外はおそらく標準的なバフ仕上げだ。仕上げをそろえなかったのは、おそらくはこの時計のキャラクターを考慮したためか。

 ロレックスはオイスターパーペチュアルにはダイヤモンドカットで仕上げたインデックスを、プロフェッショナルモデルには、標準的なバフ仕上げのインデックスを与えている。仕上げの混在が示すのは、どのコレクションにも属さないという意味の現れだろう。

 針はブレゲ風。しかし2面のバーハンドに、ブレゲ風の穴を開けたユニークなデザインとなっている。こちらもやはり、ダイヤモンドカット仕上げ。これらのディテールが示すのは、古典をモダンに接ぎ木しようとするロレックスの努力だ。見た当初は違和感を感じたが、しばらくすると筆者は慣れた。

パーペチュアル 1908

 目を引くのは、6時位置に設けられたスモールセコンドである。直径39mmというサイズにもかかわらず、スモールセコンドの位置は極めて適切だ。軸位置を考えるとまだ拡大できそうだが、あえて押さえたのはロレックスの美学だろう。大きなスモールセコンドは高精度機らしい見た目をもたらすが、ややもすると、機能的に見えすぎる。

 ロレックスは、ドレスウォッチらしさを損ねないギリギリを目指したように思える。


新型キャリバー7140が持つ可能性

 もっとも、この時計のハイライトは、薄くて細身のケースでも、1940年代風の文字盤でも、スモールセコンドでもない。

搭載するキャリバー7140は、ロレックスの最新作。既存のキャリバー32系に比べて、大きく薄いのが特徴だ。また、ヒゲゼンマイにはシリコン製のシロキシ・ヘアスプリングが採用された。

キャリバー7140

ケースバックからのぞくのが新世代自動巻きのキャリバー7140だ。詳細は不明だが、既存のムーブメントよりも大径でかつ薄い。パワーリザーブは約66時間で振動数は2万8800振動/時。シロキシ・ヘアスプリングを採用し、静態精度は±2秒以内とされている。

 巻き上げたパラクロム・ヘアスプリングを選ばなかったのは、おそらく厚みを嫌ったためだろう。キャリバー7140の設計は、今風の自動巻きに同じく、できるだけ部品を水平に散らして薄さを稼ぐ、という思想が際立っている。

 6時位置にスモールセコンドを持つキャリバー7140の設計は、誤解を恐れずにいえば、クロノグラフのベースには最適だろう。あくまで推測でしかないが、完全にフラットに整えられたムーブメントの上部も、上に部品を載せるには向いている。

 ひょっとしてロレックスは、新しいクロノグラフのベースとして7140を作ったのかもしれず、であれば、このムーブメントは非凡な基礎体力を持っているに違いない。それを示すように、ローターは30個のものベアリングで支えられている。

 普通これほどのベアリングを入れることはないが、ロレックスは巻き上げ効率をさらに改善したかったに違いない。

ロレックス ムーブメント

 一見地味な構成を持つ、パーペチュアル 1908。もちろん、文字盤やケースの仕上げはロレックスらしく申し分ない。しかし、キャリバー7140という(おそらくは)非凡な次世代自動巻きは、ひょっとして、ロレックスのあり方を大きく変えるかもしれない。

能ある鷹は爪隠す。ロレックスを自慢したくない、しかし優れた時計を使いたい、という人にはパーペチュアル 1908は文句なしにお勧めしたい。


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