クロノグラフが気になっているのなら、歴史や機能まで深く理解するのがおすすめだ。デザインだけでなく見えない部分にも詳しくなることで、より強い魅力を感じられるようになるだろう。ブランドの哲学を凝縮したクロノグラフを深掘りする。
時計に込められた哲学「クロノグラフ」
クロノグラフとは、通常の時刻表示機能に加え、ストップウォッチ機能も搭載した時計である。まずは、クロノグラフの歴史や魅力、代表的なメーターの種類を見ていこう。
時計史におけるクロノグラフの歩み
最初の商用クロノグラフは、時計師ニコラ・リューセックが1821年に作ったものだとされている。しかし、それより5年も前の1816年にルイ・モネが天文観測用のクロノグラフを作っていたともいわれており、始まりには諸説ある。
近代クロノグラフの祖と呼ばれるアドルフ・ニコルは、1844年にクロノグラフの原型を作り、1862年にはクロノグラフ付き懐中時計を製作している。
1915年に最初の腕時計専用クロノグラフを作ったとされるのは、ブライトリングだ。その後、1969年にはブライトリングとホイヤー(現タグ・ホイヤー)、ハミルトン、デュボア・デプラが共同で、クロノマチックと呼ばれる「Cal.11」を開発し、現代的な形へとつながっていった。
クロノグラフが放つ魅力
クロノグラフの大きな魅力が計測機能。過去には、自動車レースや世界大戦でもクロノグラフが活用されていた。
今でこそ電子機器のストップウォッチが普及しているが、クロノグラフは計測時に時計の一部を切り離して使い、終われば戻すという仕組みの機構だ。パーツの組み立てだけでストップウォッチ機能を時計の内部に仕込んでいるのである。
メカニカルなデザインもクロノグラフの魅力だ。インダイアル、クロノグラフ秒針、メーターの表記などが複雑に絡み合い、男心をくすぐる表情となっている。
代表的なメーターの種類
ベゼルやダイアルに記されたメーター、積算機能の組み合わせにより、クロノグラフではさまざまな計測が可能となっている。
代表的なメーターが「タキメーター」と「テレメーター」である。タキメーターは時速の計測、テレメーターは距離の計測が可能だ。計時を60進法から10進法に置き換えられる「デシマルメーター」もある。
クロノグラフによっては、1分間の脈拍数や呼吸数を計測できるメーターを備えたものもある。脈拍数を計るのが「パルスメーター」、呼吸数を計るのが「アズモメーター」だ。
クロノメーターとの違い
クロノグラフと意味を混同しやすい言葉に「クロノメーター」がある。しかし、クロノメーターは高精度の認証を受けた時計のことを意味し、クロノグラフとは全くの別物だ。
そのため、クロノグラフでありクロノメーターでもある時計が存在するのである。
クロノメーターという場合、現在は一般的に「C.O.S.Cクロノメーター」を指す。C.O.S.C.クロノメーターは機械式時計の精度基準であり、ISO3159の基準に従った規格となっている。
垂直や水平といった5つの姿勢差や3つの温度下に置くなど、多角的な条件で15昼夜にわたって検査を実施し、日差-4秒~+6秒以内に収まるのが条件だ。
クロノグラフの上位機構
クロノグラフはそれ自体が高い技術を要する機構なのだが、さらに発展させた上位機構も存在する。代表的な3つの発展型クロノグラフを紹介しよう。
フライバック
「フライバック」は、ゼロリセットとリスタートを同時に行える機構のことである。通常のクロノグラフでは、停止・リセット・再スタートを分けて操作するが、フライバッククロノグラフでは3アクションが1プッシュで完結する。
量産型フライバック機構が採用された最初のムーブメントは、1939年に発表されたドイツのUROFA製Cal.59とされている。
計測時の中間タイムを読み取りやすくなるため、本来は航空シーンで役立つ機能なのだが、一般ユーザーの場合はスポーツやアウトドアなどのアクティブなシーンで重宝するだろう。
スプリットセコンド
7大複雑機構のひとつにも数えられる「スプリットセコンド」は、2本の針で異なるふたつのタイムを計れるクロノグラフだ。不具合が起こりやすいため、作るのが非常に難しい機構として知られている。
スプリットセコンドで有名なブランドが、A.ランゲ&ゾーネとブライトリングだ。A.ランゲ&ゾーネの「トリプルスプリット」は、3つの積算時間を時間単位で表示できる。
また、自動巻き機構を持つムーブメントの場合、クロノグラフ機構は裏蓋側に収まっているため、ここにスプリットセコンド機構を追加するのは困難なのだが、ブライトリングはこれを文字盤側に設置したことで、製作が難しいスプリットセコンド化を無理なく実現させた。
スプリットセコンドを搭載したクロノグラフは、レースや競技の計測など、正確なタイム計測を必要とするシーンに向くだろう。
エル・プリメロ
「エル・プリメロ」はゼニスが1969年に発表した、一体型自動巻きクロノグラフムーブメントで、この機構を搭載したゼニスのモデルにも、エル・プリメロの名が冠されている。
3万6000振動/時の高速振動による高い精度が、エル・プリメロの大きな特徴だ。発表当時は約50時間のパワーリザーブを備えていたことでも注目を集めた。
エル・プリメロはロレックスのデイトナに搭載されていた時期もある。ロレックス時計の中で唯一の社外製ムーブメントであったことから、エル・プリメロの高い信頼性がうかがえるだろう。
高い精度と信頼性から、計時機能を必要とする航空から自動車競技、宇宙開発まで、さまざまな分野で使用されている。