2023年は、タグ・ホイヤーのカレラが発表されて60年になる。記念すべき年に一新された「タグ・ホイヤー カレラ」は、見た目よし、中身よし、価格よしの傑作となった。これは今年の大きな台風の目だ。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2023年4月6日掲載記事
トレンドを押さえて、大きく改善されたニュー・カレラ
2023年のウォッチズ&ワンダーズでの意外な驚きは、新しいタグ・ホイヤーの「タグ・ホイヤー カレラ キャリバーTH20-00 クロノグラフ」だった。筆者は全く期待していなかったが、実物にはかなり驚かされた。
風防が大きくなり、全く別物と言っていい見た目になったのである。しかも搭載するムーブメントも改良版のCal.TH20-00。タグ・ホイヤーは正直どうなっちゃったのって感じだ。
ここ数年の時計デザインにおけるひとつのトレンドは、ドーム風防と、短いラグだ。風防を盛り上げることでケースを薄く見せ、時計の全長を短くすることで装着感を改善する。
自動巻き(Cal.TH20-00)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径39mm)。100m防水。80万8500円(税込み)。
グランドセイコーの“白樺”にオメガの「デ・ヴィル」、ちょっと違うが、オーデマ ピゲの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」もこういった試みの代表作だ。
この風防へのアプローチを極限まで推し進めたのが、新しいカレラになる。なんと、このモデルは風防を固定するベゼルがなく、そのままケースに直付けになっている。技術責任者のキャロル・カザピは「特徴のある文字盤の外周リングを生かすためにこういう設計を選んだ」と語る。
1963年に発表されたカレラは、文字盤外周の「見返し」を大きく取り、そこにインデックスを加えるという「新しい」デザインを持っていた。文字盤をすっきりさせ、視認性を改善するためだ。
このアイデアを強調したのが2023年のカレラとなる。見返しを山のように成形し、ベゼルを省くことで、オリジナルのデザインを受け継ぎながらも、アイコンである見返しを強調したのである。
感心させられたのは、風防の処理だ。カザピの説明によると、「風防はUV接着剤ではなく、パッキンで固定している」とのこと。一昔前のタグ・ホイヤーにはパッキンが目立ちすぎるものもあったが、本作はほぼ目立たない。
ドーム風防が大きくても、パッキンが目立つと興ざめだが、キャロル・カザピのチームは上手く処理してみせた。本作がすっきりした印象を持つのは、ケースと風防に一体感があるためだ。
文字盤の構成も面白い。外周の見返しと中心を別部品にすることで、無理なく立体感を加えることに成功した。また、インデックスにもダイヤカット処理を施すことで、高級感を加えた。
あえて山形にするのではなく、表面をフラットにしたのは、外側に向けて湾曲させたため。新作の立体感は、こういう細かい処理の積み重ねでもたらされたものだ。