審美性と機能性を兼ね備えた、グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデル」

FEATUREWatchTime
2023.04.13

2021年12月に発表されたグランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデル」は、1967年の44GSをデザインのベースとし、現代的な実用性を兼ね備えた時計だ。独特な質感の文字盤を採用し、操作しやすいGMT機能が備わっている。今回はエレガントな外観と実用的な機能を持つこのモデルの着用レビューをお届けする。

Originally published on watchtime.com
Text by Alexander Krupp
2023年4月13日掲載記事


伝統的なデザイン文法と、現代に有用な機能性の融合

ヘリテージコレクション メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデル

グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデル」SBGJ255
自動巻き(Cal.9S86)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。ブライトチタン製ケース(直径40mm、厚さ14mm)。10気圧防水。世界限定1200本(うち国内500本)。94万6000円(税込み)。

 精緻な作りの文字盤、面取りされた針、アプライドインデックス、そして磨き上げられたケース。これらはエレガントなドレスウォッチに見られる特徴であるが、時計は審美性だけが見どころというわけではない。このようなクラシックな特徴を捉えつつ、機能性を打ち出すとなると、時計メーカーはどうするのだろうか。

 実用的な機能を追加し、堅牢な外装に仕上げたらどうだろう。果たして「日常使いにふさわしい時計」であると、顧客たちを納得させることができるのだろうか?

 グランドセイコーは、2021年12月に発表された「ヘリテージコレクション メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデル」で、クラシックな特徴と実用性を兼ね備えた時計を実現させた。モデル名は1967年に発表された「44GS」に由来し、ケース形状は現在のグランドセイコーのデザイン規範となっている。本モデルはエレガントなだけでなく、日常使いに非常に役立つ機能を備える。3時位置に配されたデイト表示に加え、GMT針と24時間式の外周インデックスが追加されている。

 巧みに内蔵された追加機能の便利さは、言うまでもないだろう。タイムゾーンをまたがる移動時には、リュウズを一段階引き出すると、メインの時針を1時間単位で前後どちらにも調整できる。この修正中に時針が24時を通過すると、日付表示も前日または翌日に自動的にジャンプし、正確に切り替わる。これはトラベルウォッチとして非常に有用だ。

 ブルーのGMT針は正確に元の位置に留まり、旅の間もホームタイムを示してくれる。また、自宅で過ごしている際にも、サマータイムを導入している国の場合は夏時間から冬時間、またはその反対の調整も1時間単位で迅速に行えることに感嘆するだろう。時針のみを動かすことで時刻修正が可能なため、ムーブメントの動きを止めずに正確さを維持することができる。


視認性や装着感に現れるディテールへの注力

 機能面の特徴はそれだけではない。3本の針と11個のインデックスには、グランドセイコー独自の蓄光塗料であるルミブライトが塗布されており、日中はほとんど目立たないが、暗所では発光して視認性を確保してくれる。

 そして、チタン素材の採用はこのモデルにドレスウォッチ以上の価値を与えている。堅牢で軽量なチタンを採用したケースとブレスレットの鏡面仕上げと筋目仕上げを見ると、まるでステンレススティールかと見紛う。だが、それも意図されたものだ。このチタンは、グランドセイコーが独自開発したブライトチタンという素材で、強い輝きを持っている。その硬さは従来のチタンを凌ぎ、均一でひずみのない表面を生み出すグランドセイコーのザラツ仕上げを可能とする。これにより、表面はまるでステンレススティールのように光り輝くのだ。

 チタンの採用による軽量化も見逃せない。時計本体部分の重量はわずか107gである。ブレスレットはしなやかで腕に心地よくなじむ。ケースの厚さは14mmと無理に薄くはされておらず、ケースの形状はセイコーにおいて典型的な、複雑な構造となっている。


現代的なラグジュアリー表現による文字盤の仕上げ

 グランドセイコーのブランド哲学として、日本の伝統文化や自然の要素を取り入れ、新しいデザインに反映させることがある。秋の紅葉の色彩、白樺の樹皮の質感、降り積もった雪面の模様、禅寺の石庭などである。それはいつも直接的に表現されるのではなく、さりげないものだ。これは日本の伝統的な繊細さと抑制に則ったものであり、現代的なラグジュアリー表現の一種と呼べる。これを理解する人に、文字盤の特別な魅力が伝わる。

 ヘリテージコレクション メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデルの文字盤は、2002年に発売されたグランドセイコーGMTモデルの開発段階で検討されていた仕様を再解釈し、具現化したものだ。


3万6000振動/時の自社製ムーブメントCal.9S86

ヘリテージコレクション メカニカルハイビート GMT 44GS 55周年記念限定モデル

グランドセイコーは独自の規格に基づき、工場出荷前にムーブメント単体の状態で測定テストを行う。本モデルの平均日差は、6姿勢差・3温度差の条件下で測定した場合、-3秒から+5秒と公表されている。

 ラグジュアリーという言葉が出たが、このモデルの価格は税込み94万6000円もするため、通りすがりに購入できるようなものではない。この価格は、エレガントなデザインと多様な機能性が調和していることの現れだ。しかし、それだけではない。シースルーバックからは、数々の優れた技術を備えたグランドセイコーの自社製ムーブメントを見ることができる。

 信頼性の高い自動巻きムーブメントCal.9S86は、ふたつの爪を備える「マジックレバー」を採用した両方向巻き上げ式のローターにより、約55時間のパワーリザーブを有する。グランドセイコーによると、その平均日差は-3秒から+5秒である。また、腕時計で一般的な2万8000振動/時ではなく、3万6000振動/時の高い振動数が精度に貢献している。これにより、秒針は1秒間に8ステップではなく10ステップを刻む。理論的には、高振動であるほど偏差が最適値周辺の狭い範囲に留まるため、精度が高くなるのだ。

 今回、本モデルの歩度測定をウィッチ社の「Chronoscope X1」で行ったところ、日差-2.3秒とグランドセイコーが定めた範囲内に収まった。さらに数週間の着用テストにおいて、下限値は-3秒となった。一般的に遅れが出ることはあまり良いものではないとされるが、この程度は許容範囲内だろう。特に6姿勢における最大姿勢差はわずか4秒に収まった。


随所から見えるブランドの独自性

ヘリテージコレクション メカニカルハイビート GMT 44GS 55周年記念限定モデル

酸化処理によりチタン製ローターにはゴールドカラーが施されている。

 グランドセイコーは、ブリッジや地板だけでなく、主ゼンマイやヒゲゼンマイも内製している。優れた性質を持つ高いブランド独自の合金も作り上げてきた。さまざまな工夫は、ムーブメントの内部だけでなくシースルーバックからも見て取れる。自動巻きのローターは半円型ではなく、透かし彫りが施された円形であり、グランドセイコーの獅子のプレートが配されている。

 ローターのカラーについてもグランドセイコー独自のものだ。これは、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2014で「小さな針」賞を受賞したモデルをベースに、ゴールドカラーを採用した特別仕様となっている。自社内で電気を使ってチタン製ローターに酸化被膜を施し、このゴールドカラーを実現した。丸いローターが手首上でいかに十分な慣性モーメントを引き出すことができるのだろうと疑問に思う人もいるだろう。この答えは簡単で、アーチ型をしたリベット留めの錘が、パーツの半周に付いている。

 ヘリテージコレクション メカニカルハイビートGMT 44GS 55周年記念限定モデルの特性を伝えるためには、エレガントで機能的なだけでなく、独特な文字盤から独自のチタン合金、そして自社製パーツを使用した高振動ムーブメントまで、あらゆるポイントに言及する必要がある。限定数1200本のこの時計を手に入れた者のみが、日本の時計作りの味わいを享受することができるのである。



Contact info: グランドセイコー専用ダイヤル Tel.0120-302-617


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