1996年、ケースと一体化したメタルブレスレットを初めて導入して誕生した「タンク フランセーズ」が今年、デザインを大幅にアップデートして、新たな姿に生まれ変わった。刷新された一体型デザインとともに注目すべきは、格段に進化を遂げた外装である。そこには21世紀初めに竣工されたカルティエ マニュファクチュールの最新技術が見事に発揮されている。
菅原茂:取材・文 Text by Shigeru Sugawara
Edited by Tomoshige Kase
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]
目指したのはケースとブレスレットの完全な融合
[マニュファクチュールの要諦]
1. 滑らかな動きを実現するコマの連結構造
2. サテン×ポリッシュの絶妙なバランス
3. ローマンインデックスのメタリックな質感
素材はSSと18KYG、サイズはラージ(SSのみ)、ミディアム、スモールの3種類。(右)SSラージモデル(縦36.7×横30.5mm、厚さ10.1mm)。日常生活防水。自動巻き(Cal.1853)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約37時間。リュウズの装飾にシンセティック カボションシェイプ スピネルを採用。77万5500円(税込み)。(左)18KYGミディアムモデル(縦32×横27mm、厚さ7.1mm)。日常生活防水。クォーツ。リュウズの装飾にサファイアカボションを採用。347万1600円(税込み)。
1917年に誕生したオリジナルの「タンク」からおよそ80年後に発表された「タンク フランセーズ」は、歴代モデルでは初めてケース一体型ブレスレットを装備する斬新なモデルだった。ブレスレットウォッチとして考案されたモダンで洗練されたデザインが世界中で人気の的になり、著名人たちがこぞって愛用したことでも知られる。
今年発表された「タンク フランセーズ」は、一見しただけでは以前と同様のデザインに見えるが、実は似て非なるものとも言ってよいほど進化しているのだ。決め手は外装にある。カルティエが目指したのは、ケースとブレスレットとの一体性の強化で、ケース自体がブレスレットのコマのひとつになって連続する新しいトータルデザインである。
従来と決定的に違うのは、3連ブレスレットの両サイドを成すコマの形状だ。以前のコマは、ケース四隅の斜めのラインと相関する台形状で、コマとコマの間に隙間が存在していた。新しいブレスレットでは、斜めのラインを反映しながらもコマとコマが隙間なく連続しているのである。しかし、このように接合するのは言葉で言うほど簡単ではない。そこでカルティエの開発者は、コマの形状を一から見直し、相接する箇所を、丸みを帯びた凸と凹のフォルムにし、これらが組み合わさって動くようにした。
一般的にはスムーズな可動を実現するために、凸面と凸面が接する形状にコマをデザインするのだが、カルティエはより困難な形状に挑んだ。「カルティエ マニュファクチュールがこれまでに作った最も複雑なブレスレット」と同社が説明するように、実際に約460時間ものデジタルシミュレーションを行ってブレスレットの完成度を高めたという。その結果、シームレスな美観、耐久性、快適な装着感に欠かせないしなやかさなどが実現したのだ。
新しい3連ブレスレットは、100以上のコマから成る。コマの連結に棒状のピンが用いられているが、ピンを埋め込んだ痕跡を完全に消し去る加工は、高級ブレスレットの定石通りだ。そして美観をさらに高めるのは、ポリッシュとサテンの絶妙な仕上げ分けである。3連ブレスレットの中央列のコマにポリッシュ仕上げとサテン仕上げを交互に繰り返し、落ち着いた気品を基調としながら、光線の加減でキラリと輝く、さりげない「華」を演出している。
また、メタリックな一体感はダイアルにも表現されている。「タンク」のアイコニックなローマ数字をメタルで立体的に造形し、数字の上面にポリッシュ仕上げを施して、フェイスの印象を新たにしているのである。
新しい「タンク フランセーズ」は、21世紀のカルティエ マニュファクチュールが外装に注いだクリエイティビティとテクニックの、まさに集大成なのだ。
https://www.webchronos.net/features/92831/
https://www.webchronos.net/features/94048/
https://www.webchronos.net/features/89504/