1957年に誕生し、第4世代が月へ行ったことで、「ムーンウォッチ」としての地位を確立した「スピードマスター」。そして、マスター クロノメーター規格に準拠したムーブメント、キャリバー3861を搭載した最強モデルが2021年に登場した。その注目度から、登場以来さまざまな切り口でクロノス本誌、またwebChronosでも紹介されてきたモデルである。今回は初心者にもわかりやすく、最新スピードマスターをレビューする。
2023年4月11日掲載記事
WBCとともにやってきたスピードマスター
スピードマスター、正式名称「オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル コーアクシャル マスター クロノメーター クロノグラフ 42mm」が我が家に届いたのはWBC、正式名称「ワールド・ベースボール・クラシック」の準決勝の前日、2023年3月20日のことだった。
そのため、スピードマスターはWBCの準決勝と決勝、そして優勝の歓喜をともに味わい、のちに各局が放送しまくった振り返り番組をともに見ることになった。そして日を置いて出版されたWBC特集号をめくるときもスピードマスターがあったとなれば、私のなかでこのふたつは分かつことのできない関係になったと言っても過言ではない。
多くの人がWBCに熱狂し、その後も興奮冷めやらぬ日々を過ごしたろうし、改めて「野球って面白い」と感じた人も多かったことだろうと思う。私もそのひとりである。
何をもって面白いと評価するのかは人それぞれだが、私が面白いと感じたのは「自分が野球のルールや単語を理解していて、上手いプレーが上手いとわかる」という事実に対してだった。
1970~1990年代に子ども時代を過ごした人にとって野球中継は“日常”。とくに巨人戦はほぼ全試合が放送されており、家長にチャンネルの権利があった家では晩御飯を食べながらのテレビ観戦は当たり前だった。地上波での野球中継が激減した今、その過去に驚く人も多いけれど、日本人にとって野球こそ長くスポーツの中心だったのである。
つまり、(私を含め、当時の多くの子どもたち)は、子どものころに「見るとはなしに野球を見ていた」ため、勝手に目がプレーを覚え、用語を認知し、「門前の小僧習わぬ経を読む」状態になっていたことを再確認させてくれたのがWBCの中継だったというわけだ。
ただし、当時のようにぼんやり見ていたころとは野球はスピーディかつスマートになっていて、まったくの別物に進化していたのだが。いまやスポーツニュースでしか野球を目にすることがなくなった“門前世代”にとって、生活のすみっこにいた野球という存在がクローズアップされた。
「日本には世界に引けを取らない、これほどすごい選手がいるのか!」と、日本を「再発見」し、野球が日本のスポーツの核のひとつであることを「再認識」したこともまた、熱狂を呼んだ理由だったのではないかと思うのだ。
そして翻って、本題のスピードマスターである。今回のインプレッションで、同じような「再発見」と「再認識」があった。
正式名称を見れば、スピードマスターの歴史がわかる
再びの正式名称は「オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル コーアクシャル マスター クロノメーター クロノグラフ」だ。長い。しかし、この名前をひとつずつひも解いていくとスピードマスターの歴史を理解することができる。
注)以下はスピードマスター初心者に向けたものです。愛好家にはいまさらな情報も多く含みますので読まずに飛ばしてください。
オメガ……1848年、スイスのラ・ショー・ド・フォンで誕生したウオッチメーカー。
スピードマスター……1957年に誕生したモデルの名前。誕生以来、アップデートが繰り返され、現在はオメガの中核を担う人気のコレクションとなっている。
ムーンウォッチ……1969年にアポロ11号に搭乗した宇宙飛行士が着用したことから、スピードマスターに対して使われるようになった名称。月へ行ったのはスピードマスター第4世代からで、6度にわたる月面着陸プロジェクトのすべてで携帯されている。今作はこの第4世代にインスパイアされ、デザインされた。ちなみに62年に実施された初めての有人宇宙飛行、マーキュリー計画では第2世代モデルが使用されていた。
プロフェッショナル……1964年、第3世代と第4世代が同じ時期に市場に出ていたことを受けて、その差別化のために第4世代の文字盤に加えられた単語。第4世代はリュウズガードを備えた最初のモデルである。以降、ダイアルには“PROFESSINAL”の文字が入る。
コーアクシャル……1999年にオメガが開発したコーアクシャル(Co-Axial)脱進機のこと。通常の脱進機に比べてパーツの摩耗が少なく、壊れにくい特徴がある。使用される素材は改良が加えられ、非磁性のシリコン製ヒゲゼンマイを採用。このシリコン製ヒゲゼンマイが、耐磁性ムーブメントの基礎となっている。
マスター クロノメーター……2015年、オメガとスイス連邦計量・認定局(METAS)とともに制定。とくに高い耐磁性能を備えていることが特徴で、1万5000ガウスという強力な磁場においても精度を保持する。これは医療機関で使用されるMRI(磁気共鳴画像)のなかでも精度が保てるスペックとなる。
クロノグラフ……時間の計測機構。3時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計を備える。
42mm……ケースの直径。
ぎゅっと凝縮すると、人類史上初めて宇宙に渡った腕時計「スピードマスター」が、改良を重ねながら、いまなお時計史にその名を刻み続け、2023年現在、67年目を迎えているということになり、今作が第4世代のデザインを踏襲していることを思えばほとんどデザインを変えることなく続く、稀有なモデルということもできる。
搭載されるムーブメント、キャリバー3861は正式名称にある「マスター クロノメーター」に準拠したもので、先に述べたように1万5000ガウスという高い耐磁性能を誇る。
およそ4年の歳月を要して開発された「オメガ コーアクシャル マスター クロノメーター キャリバー3861」。スモールセコンドサブダイアル、30分計、12時間計、センタークロノグラフ針を備える。1万5000ガウスという耐磁性能を誇る最強のムーブメントだ。50時間パワーリザーブ。
ムーブメントについて、またコーアクシャルについて、マスター クロノメーターについては、Chronos日本版、またWebChronosでも多くの記事が掲載されているので、もっと知りたいという方は、以下をご確認ください。
●「オメガとチューダーの取得で知られるMRTASの認定制度「マスタークロノメーター」とは」https://www.webchronos.net/features/87198/
●「現代的なアップデートを果たしたオメガ「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」をテストする」https://www.webchronos.net/features/76205/
●「コーアクシャル機構やマスタークロノメーターを知る。仕組みを解説」
https://www.webchronos.net/features/42265/