60周年の新型カレラが注目を集めたタグ・ホイヤー。しかし、普通の人にとっては、ベーシックな3針モデルのほうが引かれるかもしれない。ブレスレット付きの3針時計という地味な構成ながら、このモデルは実にいいのだ。
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2023年4月10日掲載記事
実は3針カレラが注目モデル!
タグ・ホイヤーの「カレラ」といえば、文字盤外周の見返し部分を広げたクロノグラフ、というイメージが強い。しかし1996年に復活して以降、カレラを下支えしてきたのは、ベーシックな3針の自動巻きモデルだった。見返しを広げ、ベゼルを細くしたカレラのデザインは、スポーツウォッチというよりも、ビジネスウォッチにこそ向いていたのである。
2023年に発表された「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー7 デイト」は、そういって差し支えなければ、ベーシックな3針カレラの完成形だろう。筆者はこういうモデルを待ち望んでいたのであり、これは多くのリテーラーも同様ではないか。
直径を36mmに縮小しただけでなく、ムーブメントも一新したカレラのベーシックモデル。優れた外装はそのままに、実用性は大幅に向上した。自動巻き(Cal.7/SW300-1ベース)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径36mm、厚さ10mm)。5気圧防水。39万6000円(税込み)。
原型となったのは、21年の「カレラ キャリバー5」。このムーブメントをキャリバー7に改め、36mmサイズのケースに収めたのが「カレラ キャリバー7 デイト」となる。
カレラ キャリバー5は、スポーティーに振っていたカレラを、ドレッシーに回帰させる試みだった。細身のベゼルや、内側をえぐったラグは従来に同じ。しかし、インデックスの高さを増し、角の面取りを強調することで、時間の読み取りやすさと、それ以上に高級感が増した。
日付を表示する窓も良くなった。前作も別部品を固定していたが、21年のキャリバー 5は枠の内側の面取りがより角張り、枠の上面と文字盤が完全にフラットになったのである。この部分の処理だけ見れば、非常によくできたフォーマルウォッチだ。
また、文字盤と針の間隔も、ドレスウォッチ並に狭くされた。強いショックを受けると針がたわむため、多くのスポーツウォッチは針と文字盤のクリアランスを大きく取りたがる。しかし、ドレッシーさを盛り込んだカレラの3針モデルは例外的に狭い。
太い針を使うことで、たわみにくくしているためだ。文字盤を底上げして、クリアランスを詰めるというウブロのような手法を、まさかタグ・ホイヤーで見るとは思わなかった。
ブレスレットの仕上がりも良好だ。スポーツウォッチらしい2コマのブレスレットは、左右の遊びが適切なため、長時間装着しても疲れにくいはずだ。
普通はコマを増やして左右の遊びを調整するが、あえて少ないコマ数で実現したのは、タグ・ホイヤーの手腕だ。また、時計部分とブレスレットの重さのバランスも優れているため、時計を強く振っても、一方向に引っ張られる印象はない。