グランドセイコーにおける現行のラインナップにおいて、最も小径のケースを持つモデルのひとつが今回紹介する「STGF371」だ。レディスモデル向けのクォーツムーブメントを搭載し、華やかな装飾性を備えた腕時計である。しかし第一に伝えたいのは、視認性をはじめとした機能面だ。小ぶりだからこそ「セイコースタイル」が巧みに凝縮されており、使うほどに良さを実感させる力を秘めた1本である。
Text & Photographs by Tomoyo Takai
2023年4月16日掲載記事
優美さと機能性を両立させた“実用時計の最高峰”
国産高級時計の雄として名高いグランドセイコー。今回、着用レビューにあたって実機をお借りしたのは、4J系のクォーツムーブメントを搭載し、現在の同社におけるラインナップで最も小径な直径26.0mmのケースサイズを備える、「エレガンスコレクション」STGF371だ。グランドセイコーのエレガンスコレクションに属し、白蝶貝やダイヤモンドで装飾を施した女性向けモデルである。
クォーツ(Cal.4J52)。年差±10秒。SSケース(縦32.5×横26.0mm、厚さ9.2mm)。10気圧防水。36万3000円(税込み)。
小さなジュエリーウォッチ、と侮ることなかれ。シンプルにまとめ上げられているからこそ、本モデルにはグランドセイコーが連綿と紡いできた「セイコースタイル」が冴えわたっている。それゆえに、光と陰を巧みに取り込んだ、唯一無二の輝きがあるのだ。
特筆すべきは「視認性」、実現するのは小ぶりながらパワフルな4J系クォーツムーブメント
薄桜色の白蝶貝ダイアルに、ステンレススティールの目盛りや針、そしてダイヤモンドのインデックス。文字盤のこの組み合わせは、決してコントラストが強いわけではない。しかしSTGF371を着用して真っ先に驚いたのが、高い視認性だ。
時分針や6、9、12時のインデックスといった真鍮製の表示部は、光の反射が比類ない。ダイヤモンドカットを施すことによって、わずかな光すら拾って映すのだ。日付表示の窓も立体的で、磨きが行き届いている。
さらにステンレススティールの表示部に施された多面カットにも目を向けたい。時分針は山型の折り目の中心線がくっきりと表われる2面を備え、インデックスは非常に高さのある6面のアプライドインデックスだ。この多面カットにより、光に負けることなく陰影も濃く表れる。それゆえ直射日光下など、どれだけまぶしい環境下にいても、どの角度からも表示を見失うことがない。
風防は内面無反射コーティングが施されたデュアルカーブサファイアクリスタルで、情報をクリアに伝えてくれる。
光を巧みに取り込む構造、これこそがセイコースタイルの神髄である。セイコースタイルにおけるデザイン方針の主幹は、主に平面を用いて、光と陰の多様な表情を生み出すことだ。
グランドセイコーの腕時計といえば質実剛健というイメージを持つ人が多いだろう、それはこの直線的な平面を多用する造形によるところも大きい。ともすれば無骨になりがちなロジックであるが、本モデルでは時分針をシャープなドフィーヌ針とし、6、9、12時のインデックスは宝石のように輝く4面カットを組み合わせることで、優美に昇華させている。
さらに針の太さ、長さもぜひ見ていただきたい。時分針は2面カットを明瞭に見分けさせる十分な幅があり、分針と秒針は外縁のインデックスまでしっかり届く長さがある。これは機械式にも引けを取らない、重い針を動かすトルクがムーブメントから生み出されている証左だ。
現在グランドセイコーのレディスモデルに使われているムーブメントは、主にキャリバー4J51と4J52の2種類である。本モデルに搭載されているのは日付表示付きの後者だ。
いずれも9Fクォーツに比べて小型であるが、しっかりとしたパワーを備えており、また電池寿命も約3年と同じである。年差±10秒という高い精度も、9Fクォーツとまったく遜色がない。多くのクォーツモデルが月差表示を採用するなか、グランドセイコーはいずれのモデルも年差表示がスタンダードなのだ。
オンオフ問わず“程よい華やぎ”を添えてくれる装飾性
ステンレススティール製のケースもまた、セイコースタイルに則り、歪みのない平滑な鏡面仕上げに磨き上げられている。グランドセイコーが得意とするザラツ研磨により、平面と斜面のつなぎ目のエッジはしっかりと際立ち、シャープな印象だ。またケース側面やラグの一部には筋目が入れられ、造形に立体感が与えられている。
こうした独自性あるディテールが重なり、グランドセイコーの個性と優美さは、伝統的なスタイルから逸脱することなく両立されている。
先ほども述べた通り、STGF371の白蝶貝は薄桜色に着色されている。非常にほのかな色調で、光の反射によっては青みを帯びることもあるほどだ。白蝶貝の光沢のなかで、真鍮製の表示部はさらに強く金属の輝きを放つ。
これらの光の対比を柔和にまとめつつ、程よく華やげているのが、8カ所に2粒ずつ配されたダイヤモンドのインデックスだ。ダイヤモンドの輝きは繊細でさりげなく、ぎらつき感は皆無である。着用モデルは仕上げにベージュ色のクロコダイルストラップを組み合わせ、落ち着いた印象に収まっている。
ポイントごとに見所が多い時計であるが、全体としては控えめな色合いにまとめられており、オフィスワークやスーツスタイルでも重宝する。色味が抑えられているため、幅広い服の色に合わせやすいのだ。装飾性も兼ね備えているため、そのまま食事会などオフの時間にも突入しやすい。
指輪などアクセサリー類を合わせると、さらに手元が華やぎ、気分も上がる。同系色を取り込み、セイコースタイルと共通する直線的な鏡面を持ったアイテムがおすすめだ。
なおストラップは別売りの色違いに変更することもできる。印象を引き締めるパールブラック、可愛らしさが強まるグレージングレッド、スポーティーなパールホワイトの3色だ。いずれもクロコダイル製で、税込み2万3100円である。付け替えには工具のバネ棒外しが必要だが、ストラップ次第でがらりと変わる様相を味わえるのもユーザーの醍醐味である。
使うほどに良さを実感する秀麗ウォッチ
今回の着用レビュー実施にあたり、TGF371を初めて手元に巻いた際、私はまずふたつの所感を抱いた。
まずは冒頭から述べた通り、視認性に驚いたということ。色彩的に強い主張がないため、第一印象こそ「控えめで落ち着いたデザイン」であった。だからこそ、実際に着用した際に感じたギャップは大きなものだった。瞬時に時刻情報を認識できるのはやはり気持ちが良い。
視力が弱まってくると、直径26.0mmの小さなサイズ感に不安を感じる方も多いはずだ。しかし、やはり小ぶりな腕時計が好みだという方は、ぜひ実機を試着して、確認してみていただきたい。
もう1点は、クォーツである安心感だ。これの理由は時刻の正確性以上に、耐磁性においてである。
自分ごとで恐縮だが、私は普段はアンティークの機械式時計ユーザーだ。毎朝の巻き上げや、チクタク音を楽しんでいるのだが、やはり常に磁気帯びは気に掛けている。日常的にスマートフォンとパソコンを手にしているし、外出時に持つバッグの多くはマグネット入りだ。その不安から解放される安堵感を改めて感じたのだ。
もちろんクォーツ式であっても着磁には注意を払うべきだが、STGF371は4800A/mの耐磁性能を有している。他にも日常生活用強化防水(10気圧に相当)の仕様も心強い。着用中の心の軽さが相まって、いつでも正しい時刻が手元で刻まれるという、腕時計本来の価値観や楽しみ方を再認識する思いだった。
細部まで高級機としての技術力が潜んでいるからこそ、グランドセイコーの腕時計はまじまじと眺めるほど、使いこむほどに魅力を実感することができる。
最後に付け加えたいのが、良心的な価格だ。これほどディテールまで行き届いた時計が、36万3000円(税込み)で購入できるのだ。女性の皆さん、「自分へのご褒美ウォッチ」のリストに加えてみてはいかがだろうか。あるいは男性の皆さん、パートナーへの贈り物にもいかがだろう。
使いやすく、そして見るべき、語るべき所が多い時計だ。この着用を機に、時計を語り合える楽しみが広がる、かも? しれない。
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