ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023現地リポート【カルティエ編】大人を魅了する「粋な遊び心」に脱帽!

「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023」の新作オススメモデルを、総覧的ではなく、独自の写真と私的な視線で紹介するこの現地リポート記事。第2弾はこのフェアの中でもトップ中のトップメゾン、カルティエを取り上げる。レディースも含めて、新作はどれも素晴らしいが、やはり「刺さった」のは「サントス デュモン スケルトンウォッチ」だ。

渋谷ヤスヒト:写真・文 Photographs & Text by Yasuhito Shibuya
(2023年4月18日掲載記事)


「タンク ノルマル」のPtバージョンと「タンク アメリカン」は絶品!

 カルティエほど数多くの「不動のアイコン」を持つウォッチ&ジュエリーメゾンは他にない。その極め付きが1917年に初代モデルが誕生した「タンク」だ。そして「タンク」ほど豊富なデザインバリエーションを持つ腕時計もないし、ある意味でドラマチックな歴史を持つモデルもない。

 筆者が「タンク」を絶対的な魅力を持つ腕時計として意識したのは、スイス時計フェア取材を始めて2年目の1996年に登場した「タンク フランセーズ」から。翌1997年と1999年に登場した「タンク バスキュラント」とそれに続くコレクション展開から、当時の「タンク」はウォッチメゾンとしてのカルティエの「本気」と「正統性」を象徴する存在だった。そして、「タンク」は“時代を超越した絶対定番モデル”として君臨するようになる。だが2012年発表の「タンク アングレーズ」以降、コレクション展開は“控えめ”になる。

カルティエ プリヴェ「タンク ノルマル」

カルティエ「タンク ノルマル」
手巻き(Cal.070)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約38時間。Ptケース(縦32.6×横25.7mm)。3気圧防水。世界限定100本。予価778万8000円(税込み)。

 それだけに、完全リニューアルされて登場した2021年の「タンク マスト」以降のモデル展開は素晴らしい。今年2023年の新作では、プラチナケースにプラチナブレスレットの「タンク ノルマル」と、新機械式ムーブメントを搭載した「タンク アメリカン」が個人的にオススメだし、今年のカルティエを象徴する傑作だと思う。特に痺れるのがコレクター向けの「ノルマル」だ。何と、素材がケースに加え、ブレスレットまでメゾンを象徴するプラチナ製。そのうえ、風防まで1917年のオリジナルに近いカーブのものをサファイアクリスタル製で実現している。過去の名作を復活させるコレクター向けの「カルティエ プリヴェ」らしい逸品だ。また好みは分かれるだろうが、新型ムーブメントを搭載した新しい「タンク アメリカン」も見逃せない。


オリジナルを超越した“粋な大人の遊び心”に脱帽!

 とはいえ、2023年のカルティエで個人的なNo.1はやはり「サントス」のあのモデル。そう、アルベルト・サントス=デュモンの最初期の愛機「ラ ドゥモワゼル号」をモチーフにしたマイクロローターを持つ自動巻きモデル「サントス デュモン スケルトンウォッチ」だ。

カルティエ「サントス デュモン スケルトンウォッチ」

Antoine Pividori © Cartier
カルティエ「サントス デュモン スケルトンウォッチ」
自動巻き(Cal.9629 MC)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約44時間。ケースサイズ縦43.5×横31.4mm、厚さ8mm。日常生活防水。左から、18KPGケース、予価587万4000円(税込み)。18KYGケース、世界限定150本、予価605万8800円(税込み)。SSケース、予価451万4400円(税込み)。今秋発売予定。

 シンプルモデルからコンプリケーションモデルにまで及ぶスケルトンモデルに対するカルティエの“情熱と美学”は本当に素晴らしい。2022年の複雑時計「マス ミステリユーズ」や「タンク シノワーズ スケルトン」はまだ記憶に新しいが、カルティエのスケルトンモデルが独自の展開を始めたのは2009年、自社開発製造ムーブメントの積極展開を始めたこの年の「サントス 100 スケルトン スケルトンウォッチ キャリバー9611MC」からだ。文字盤と地板が一体化したこのスケルトンモデルは「既存のムーブメントを加工する」というスケルトンウォッチの概念を革新した画期的な1本だった。

Antoine Pividori © Cartier
このモデルは「ラ ドゥモアゼル号」をかたどったマイクロローターを前提に設計されているに違いない。

 それから14年を経て誕生したこの新作には、その先を行く魅力がある。2年をかけて開発されたというこのモデル用のスペシャルムーブメントCal.9629 MC。クルクル回る「ラ ドゥモワゼル号」を眺めていて感じたのは、これまでなかった「大人の粋な遊び心」。時計愛好家ではない人々にもぜひこの世界を楽しんでほしい。18Kイエローゴールドケースのモデルは150本の限定モデルだが、あとの18Kピンクゴールドケースとステンレススティールケースの2モデルはレギュラーモデルである。こんな時計が存在することだけでもうれしい限りだ。


2023年 カルティエの新作時計まとめ

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カルティエの2023年新作で最注目!「タンク ノルマル」、これはある意味チートです!!!

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