1本の時計に独立したふたつのクロノグラフ。複雑なムーブメントを搭載しながらも、その操作系は驚くほどに洗練されている。サイラスの独創性と、クロノードの技術力が光る意欲作だ。
モデル名に入った「DICE」は、“Double Independent Chronograph Evolution”の頭文字を取ったもの。複数の仕上げを使い分けられた立体的なクッションケースには、同社の独創性が垣間見える。自動巻き(Cal.CYR718)。パワーリザーブ約60時間。Ti(直径42mm、厚さ16.5mm)。10気圧防水。世界限定50本。594万円。
Text by Tsubasa Nojima
Edited by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]
ふたつのクロノグラフ機構を備えた「クレプシス DICE」
独創的な複雑機構を得意とするサイラスが、本格上陸を果たした。同社を牽引するディレクターは、2010年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリで「最高の独立した時計職人」と評されたジャン=フランソワ・モジョンだ。傘下には彼が設立したムーブメントメーカー、クロノードを擁する。
そんな同社を代表するコレクションが「クレプシス」だ。特徴はケースの左右に配されたふたつのリュウズ。それぞれに異なる機能が割り当てられており、搭載した複雑機構の直感的かつ安全な操作を可能としている。「クレプシス DICE」は、ひとつの時計にふたつのクロノグラフ機構を搭載する。センターにはクロノグラフ秒針、3時位置には30分積算計が配され、どちらも12時側を起点とした赤い針と、6時側を起点とした青い針が取り付けられている。3時側の赤いリュウズを押すと、赤い針が計測を開始し、9時側の青いリュウズを押すと、青い針が計測を開始するという仕組みだ。
本作のムーブメントは、ダイアル側にクロノグラフ機構を配している。これによって、レイアウトに余裕を持たせているだけではなく、オープンワークされたダイアルとの組み合わせによって、計測しながらコラムホイールやレバーの動きを鑑賞することができるのだ。ミドルケースとベゼルには、軽量なグレード5チタンを用いている。ボリューム感のあるケースながら、サイドの一部に梨地を取り入れることで、立体感のある造形に仕上げられている。
同社の時計作りは、時計を単なるタイムキーパーではなく、芸術品として昇華させることに主眼を置いている。本作を見れば、人々の叡智と独創性に懸ける情熱を感じずにはいられないだろう。
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