Jfree(神楽坂)/この世ならぬ美味のクリエイター

2023.05.05

今年1月、神楽坂という地に相応しい一軒のフランス料理店「Jfree」が開業した。錚々たる名店で研鑽を積んだ陣内翼氏が、心和む料理の数々で食べ手を魅了する。

宮崎産 霧島黒豚 赤ワイン

宮崎産 霧島黒豚 赤ワイン
霧島黒豚のスペアリブを軽めの赤ワインに1日漬け込み、骨付きのままオーブンで数回に分けて火入れ。提供直前にフライパンで表面をカリッと焼き上げる。赤ワイン、グアンチャーレと粒マスタード、梶並農園のほうれん草と焦がしバターの3種のソースでいただく。スモーキーな香りをまとったピノノワールと共にぜひ。趣ある器は、岡崎慧佑氏の作品。
外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]


自由な創造力で愉悦へと導く

陣内 翼

陣内 翼(Tsubasa Jinnai)
1989年、宮崎県生まれ。辻調理師専門学校のフランス校を卒業後、2つ星「フロリレージュ」、3つ星「カンテサンス」にて3年半ずつ研鑽を積み、会員制の料亭「赤坂しょう山」で料理長を務める。昼は「L'EAU」、夜は「Hiroya」という1年間を経て、「Jfree」を独立開業。

 凛とした存在感を放つ料理。陣内翼氏がカウンター越しに差し出す皿は、どれも優美で潔い。煌びやかさや華やかさなどはないが、静かな高揚感に包まれる。

 そんな感性豊かな盛り付けの技術は「フロリレージュ」の厨房で得たと語る。「器の色合いと食材やソースのバランスが大切。それと同時に、料理で自分らしさをどう表現するかも学びました」。続いての修業先である「カンテサンス」では、素材の扱い方を習得した。「Jfree」では、妻地鶏、宮崎牛、霧島黒豚、西米良サーモン、梶並農園の野菜など、熟知し、信頼関係を築いた故郷である宮崎県産の食材を主軸としており、「素材を消さない」という信条のもとメニューが生まれる。

 料理を口へと運べば、しっかりと食材を手に取るように感じられ、じんわりと身体に染み込み、深い安堵感を覚える。それは、「赤坂しょう山」で料理長として腕を振るうほどじっくりと日本料理にも向き合った陣内氏だからこそ。ベースはフランス料理の技法でありながら、随所に潜む日本料理の要素が食べ手に優しく響く。開業前の1年間は「L'EAU」で小さな店の営み方を、「Hiroya」でカウンターでの接客を学んだ。

 輝かしい経歴で、料理人一筋といった印象を受けるが「実は、料理することは好きではありません。料理人になりたいと思っていたわけでもなく……」と聞き、一瞬戸惑う。しかし、それに続く「ただ人に喜んでもらえることがうれしいんです」という言葉に納得する。料理に向き合う真摯さと原動力は、その想いから生まれるのだ。

 ひとりですべてを料理するスタイルかつ、人見知りだという性格ゆえに、饒舌にゲストをもてなすというわけではないが、皿の上の料理が存分に代弁してくれる。だが、コース終盤あたりになったら、ぜひ陣内氏との会話をお楽しみいただきたい。ゆっくり丁寧に紡ぎ出される言葉もまた料理同様に人を惹きつけ、より一層「Jfree」に愛着を感じるに違いない。


Jfree

Jfree

一枚板が圧巻のカウンター席に座ると、厨房をやや上から見渡せる設計になっており、グランメゾンにはないライブ感を味わうことができる。他に4名まで利用可能な寛げる個室を完備。

東京都新宿区神楽坂2-11-7 AY2ビル2-S
Tel.03-6457-5547
日曜・月曜定休
18:00~22:30(L.O.20:00)
コース1万7500円(サービス料10%別)


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