ネジの仕上げ工程
幸いキャリバーETA7750のネジはパーツを単体で注文することができるが、ネジの仕上げはオリジナルとシャウアー氏の仕上げでは異なる。オリジナルから磨き上げる様子を写真に記録しておいたのでご覧いただきたい。
このブラックポリッシュはきれいな亜鉛(もしくはスズ)にダイヤモンドペースト1μ、0.5μ(ものにより0.25μ)を付けて、対象のネジをピンセットでつまみ、頭を擦る。これでよし。ようやく次へ。
メンテナンスで一番時間がかかる作業
定期メンテナンスで不具合のない状態でお持ち込みいただいたとしても、将来的に不具合につながる要素が見つかることがある。
これはアンクルといい、脱進機を構成するパーツのひとつ。アンクルは歯車の回転運動をテンプの往復運動に変える、極めて重要な役目を持っている。
写真にあるのは、アンクルがテンプに駆動力を与えるために“蹴り飛ばす”部分になるが、少し曇り傷があるのが分かる。これは洗浄しても除去できなかったので、磨いて対処した。この傷が残っていると、このまま傷が進行したり、傷が発生した際の鉄粉で調子が悪くなったりと、どんな影響が出るかわからない。コの字の部分は0.3mmほどの大きさで、見逃しがちかもしれない。
このようにメンテナンスというのは、現状起きている不具合の対処だけでなく、将来不具合につながる“かもしれない”ものを徹底排除することも求められるのである。そのため、分解時の観察の徹底は怠ることができない。実は組み立てよりも分解の方が時間がかかるのである。
「見る」だけじゃない、感触も観察せよ
リュウズの操作感はケースに入れた状態(普段の姿)とムーブメント状態で異なる。また分解中のいろんな場面で確認する必要がある。今回はパーツをすべて外したタイミングで、ようやく手に伝わる違和感に気づいた。
写真の巻真というパーツは、ゼンマイの巻き上げや時刻合わせなどの時計の操作に重要な役割を持つものである。よく見ると一部大きな傷があり、カエリ(バリ)と呼ばれるような、金属のささくれのようなものが発生していた。
さらにそのカエリが操作のたびにメインプレートをえぐっている状況であった。違和感の正体はこれだった。幸い、不具合が出るほど進行しておらず、メインプレートの交換には至らなかったが、もしもメンテナンスをせずに使い続けていたら、高額な修理料金が発生していたかもしれない。
このわずかな違和感は、ケースにムーブメントを納めてしまうとリュウズに使われるパッキンによって埋もれてしまい、気づくことができなかったのだろう。とんでもないものが潜んでいた。
上の写真ではいくつか線状に傷があるが、それぞれ巻き上げ、カレンダー早送り、時刻合わせのリュウズの操作段階で傷がついていることが分かる。
この巻真はカエリの除去、メインプレートの傷は均して、これ以上病魔が進行しないように対応した。
分解しないと分からないこともある
今回は大事には至らなかったが、将来不具合につながり得る、分解しないと分からないものが潜んでいることがある。この記事を読んで、しばらくメンテナンスをしていない大事な時計が頭に浮かんだら、信頼のできるかかりつけの時計屋で(もちろんクロノセオリーでも)定期メンテナンスや簡易点検をご検討いただきたい。
著者のプロフィール
飯塚雄太郎
クロノセオリー在職の時計師。ヒコ・みづのジュエリーカレッジ在学中、2018年の「ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレンス・アワード」に参加。バイメタルを使用した温度計がトリガーとなるアコースティックインディケーションで入賞を果たした。卒業後、修理会社を経て現職。Twitterアカウントは「@khronos_」。
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