ウォッチズ&ワンダーズに先駆けて開催された新作展示会のために来日したシャネル時計・宝飾部門社長のフレデリック・グランジェに、まず「ムッシュー ドゥ シャネル」に始まる既存の自社製ムーブメント搭載コレクションの成功について尋ねた。
Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]
クリエイション第一だからたどり着いた最高の時計作り
シャネル時計・宝飾部門社長。1969年、フランス生まれ。1992年にパリのスプ ドゥ リュクスを卒業後、21年間、LVMHグループに勤務。2010~2016年にはルイ・ヴィトン・ジャパンCEOを務める。2016年7月よりシャネル時計・宝飾部門の社長に就任し、現在に至る。アメリカ、ヨーロッパ、日本で積んだ豊富なキャリアを基に、世界各国の顧客のニーズを的確に捉え、緻密なビジョンを描くと同時に、共通の価値観を持つパートナーとのウィンウィンの関係を構築することで、時計・宝飾部門のさらなる発展を企図する。
「メゾンの歴史を振り返れば、クリエイション第一なのは、創業者のガブリエル・シャネルの時代から変わりません。シャネルにはファッション、香水・化粧品、時計・宝飾の3つの部門がありますが、前者ふたつには1世紀を超える歴史があります。時計は、1987年に発表した『プルミエール』がメゾン初の時計です。つまり、時計部門はまだまだ若いのですが、他の2部門と同様に、決して妥協しない最高峰を追求した結果、たどり着いたのがムッシュー ドゥシャネルをはじめとした自社製ムーブメントであり、それは自然な成り行きだと思っています」
マドモアゼルが自由な発想でクリエイションを開花させたように、時計においてもクリエイション第一で最高の時計作りを実現する。ムッシュー ドゥ シャネルはその成果であり、それをかなえたスイスの自社工房とムーブメントパーツ製造を担ったローマン・ゴティエは、メゾンのクリエイションを源泉として連携する〝エコシステム〞のようなものだとグランジェは説明する。
「メゾンの歴史をデザインに取り入れた時計のクリエイションを率いるのはパリにいるウォッチメイキング クリエイション スタジオ ディレクターのアルノー・シャスタンです。彼のクリエイションは毎年発展しており、その発想には限界がありません。ムッシュー ドゥ シャネルに搭載するキャリバー 1を開発する際も、美観と独創性を機械で表現するという技術的な難しさをクリアしなければなりませんでした。そうしたメカニカルムーブメント製造に熟練したローマン・ゴティエと手を組み、垂直統合化した自社工房のG&Fシャトランがあったからこそ、実現できたと思っています」
ローマン・ゴティエにしろ、J12専用ムーブメントを手掛けるケニッシにしろ、注目の最新作「マドモアゼル プリヴェ ピンクッション」の精緻かつ表現力豊かな文字盤を手掛けたカドラニエ・ジュネーブを持つF.P. ジュルヌにしろ、シャネルが出資するパートナーは超一流ばかりだ。
「幸いにもシャネルにはいろんな人との出会いがふんだんにあります。最終的にどこと手を組むかを決断するのは、クリエイションの価値観を共有できるかどうかです。私の役割は、パリでアルノーがデザインしたクリエイションを実現するために、社長として同じ価値観を持つパートナーとの関係を築き、発展させることなのです」
ガブリエル・シャネルがパリのアトリエで過ごした時、常に身に着けていたピンクッション(針刺し)。この道具に着想を得て創り出されたメゾンを象徴するモチーフを、シャネルのメティエダールを駆使して表現した5点のうちのツイード ジャケットを表現したモデル。現代の天才時計師、フランソワ-ポール・ジュルヌがそのデッサンを見て、傘下のカドラニエ・ジュネーブで手掛けたいと申し出たという、作り手をも刺激してやまないクリエイションと技術力の結晶。クォーツ。18KYG×ブラックコーティングを施したチタンケース×ダイヤモンドケース(直径55mm)。30m防水。世界限定20本。3465万円(税込み)。
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