近年のダイアルメイキングは進歩が著しい。その最先端を走る代表格がカルティエだろう。2023年の新作として発表された「タンク ルイ カルティエ」のトリニティゴールドダイアルは、コーティング技術と人の手を融合させた快作だ。
Photographs by Yu Mitamura
鈴木裕之:文
Text by Hiroyuki Suzuki
2023年4月20日掲載記事
「タンク ルイ カルティエ」の突出した文字盤表現
手巻き(Cal.1917 MC)。18KPGケース(縦33.7×横25.5mm、厚さ6.6mm)。日常生活防水。予価194万400円(税込み)。
近年、ダイアルメイキングの技術革新はまた一段階進もうとしている。そこに使われる技術は古くからのラッカーペイントに加え、湿式メッキに分類されるガルバニック加工、乾式メッキのPVDやCVDなどさまざまだ。
下地によって変わるそれぞれの発色や、表面のクリアコーティングに至るまで、それぞれの組み合わせで作られる表情はまさに多種多彩である。
2023年にウォッチズ&ワンダーズでもダイアルにこだわった多くの新作が登場したが、中でも突出した出来映えだったのはカルティエだろう。コレクションごとに作り方を変えるのみならず、同一モデルであってもカラーバリエーションによって製法や仕上げがまったく異なる。
これは普通のようでいて、実際にはここまで徹底しているブランドはほとんどない。特に今年は、メッキ工程の中でも少し古い手法であるガルバニック加工のダイアルに良作が多く見られた。
筆者が特に興味を持ったのは「タンク ルイ カルティエ」に盛り込まれたトリニティゴールドダイアルだ。電解メッキとも呼ばれるガルバニック加工とマスキングを繰り返すことで、ピンク、イエロー、ホワイトの3カラーゴールドを表現。
スクエアのパターンをタイル状に敷き詰めたトライゴールドモデル(18KYGケース)では、3カラーゴールドとマット/ポリッシュの使い分けによって生まれる計6色の色調が織りなすグラデーションが極めて美しい。
一方、マイヨンブレスレットのような長方形のパターンで構成されるスリーゴールドモデル(18KPGケース)は、より規則性を強めたデザインがベースとなっており、100周年を迎えるトリニティコレクションのキャラクター性をストレートに表現している。
どちらのモデルも下地にはサンレイパターンが刻まれており、下地への光の入射角で、3カラーゴールド自体も複雑に表情を変えてゆく。また3カラーゴールド各色の境目は、ややボリューム感のあるクリアのストライプで区切られているのだが、これがデカルク仕上げではなく、すべて手描きだというから驚かされる。
極めて丁寧な下地処理と、3色3段階のガルバニック加工、そして決して目立たない部分に加えられたハンドペイントによる微妙な揺らぎ感……。シンプルに見えるダイアルが得も言われぬ存在感を放っていたとしたら、そのバックボーンにはかなり複雑な作業工程が隠されていると見て間違いない。トリニティカラーの「タンク ルイ カルティエ」は、そのお手本のようなモデルだ。
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