チューダー「ブラックベイ GMT」オパラインダイアルは、伝説の激レアピースの転生機!?

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2023.04.30

まるで異世界から現実世界へ転生してきたかのうようだ。チューダーが今年の「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023」で発表した「ブラックベイ GMT」のオパラインダイアルモデル。文字通り「ブラックベイ祭り」だった数ある新作の中では、比較的地味めだったかもしれない。だが、このモデルをひと目見た時から、姉妹ブランドのあの伝説モデルが浮かんできて、もうワクワクが止まらない。「ブラックベイ GMT」のオパラインダイアルモデルのアナザーストーリーを考察する。

ブラックベイ GMT

「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023」のチューダーブースで展示されていた「ブラックベイ GMT」の新作。オパラインダイアルを備えたコスメティックチェンジモデルだが、文字盤の出来栄えはもちろん、視認性も高く、既存のブラックダイアルとはまったく異なる印象を与えることから、こちらも人気が出そうだ。
三田村優:写真(展示モデル)
Photographs by Yu Mitamura
鈴木幸也(クロノス日本版):取材・文
Text by Yukiya Suzuki (Chronos Japan Edition)
2023年4月30日掲載記事


クォリティ・スペック・プライス3拍子揃った無敵のチューダーから出た思わぬ伏兵

 2023年の「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」を振り返ると、身の回りでは、「地味だった」という意見がある一方で、「充実していた」という意見も聞かれる。人によって相反する印象を持ったわけだが、その違いはそれぞれの立ち位置から来ているようだ。実際に「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」の会場へ足を運んだ人と、オンラインだけで参加した人がまったく違う印象を持つのは想像に難くない。

 この点に関して、2022年も2023年も現地でリアルに「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」を取材した立場から言えば、昨年よりも今年は断然に人が多く、会場は大いに盛り上がっていた。

 特に、大きく異なっていたのは、昨年は「ゼロコロナ」対策でまったくいなかった中国本土からの来場者が、今年は昨年末にその規制が解除されたため、多くの中国人ジャーナリストやリテーラーを会場で見かけたという点だ。もちろん、それは日本人も例外ではなく、昨年は会場を実際に取材したジャーナリストや編集者などの日本人プレス関係者はわずか10人程度だったのだが、今年は少なく見積もっても40人はいた。おそらく、最大で50人くらいだろうか?

 また、昨年は最終日だけだった一般客の入場(有料)が今年は最終2日間と1日増え、その2日間でチケットが1万枚完売したというニュースも会場では聞こえてきていた。実際、最終2日間はそうした一般客も会場へ大挙して入場してきたため、ブースによっては入場制限が行われ、ブースの前に入場待ちの行列ができたブランドもいくつか見受けられた。

 特にロレックスのブース前には、バーゼルワールドでは考えられなかった長蛇の列がうねっていた。こうした一般客による盛況ぶりは、2019年の開催を最後に事実上消滅してしまった在りし日のバーゼルワールドを彷彿とさせて、少し心が痛んだ。

 さて、チューダーはそんなロレックスの姉妹ブランドであり、やはりその人気も高い。一般客でも見られる展示コーナーは多くの人でごった返していたし、上の階(旧SIHHブランドのブースは1階のみだが、バーゼルワールドから移ってきたブランドの中には、ブースを転用していることもあって、上に複数階を持つブランドもある)で体験できるイベントのために、やはり行列ができていた。

 今年のチューダーの新作は、webChronosで2023年3月30日に公開した記事「2023年 チューダーの新作時計まとめ」においてすでに紹介したように、「ブラックベイ祭り」と言っていいだろう。4月7日に公開した記事「チューダーの新作『ブラックベイ 54』実機拝見! オタクにも普通の人にも“刺さる”ダイバーズ」でも、広田雅将クロノス日本版編集長がすでに書いたように、ハイライトは「“小さな”ダイバーズウォッチ」の「ブラックベイ 54」である。

 また、ブラックセラミックモデルではない、「マスター クロノメーター」を取得したステンレススティールモデルもブラックベイに加わり、こちらも注目を集めた。さらに、直径31mm、36mm、39mm、41mmの4サイズで展開されるブラックベイのステンレススティールモデルのムーブメントがマニュファクチュールキャリバーに変更され、スペック面においても進化を遂げ、よりた充実したラインナップとなった。

 今年は、こうした定番モデルや人気モデル、売れ筋モデルを拡充したブランドが目立ったため、見方によっては「手堅い」=「地味」に映った人もいたのだろう。ましてやコロナ禍がやっと落ち着きを見せ、スイス国内外の往来がいよいよ本格的に自由になってからのフェアだけに、昨年を凌駕する会場の盛り上がりとその熱気を直に体験できないデジタルのみの参加ではなおさらだろう。


“伝説”を想起させる「ブラックベイ GMT」オパラインダイアルモデル

ブラックベイ GMT

チューダー「ブラックベイ GMT」
C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.MT5652)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm)。200m防水。SSブレスレットモデル:55万1100円(税込み)。ファブリックストラップモデル:51万400円(税込み)。

 そうしたチューダーの新作の中で、個人的に最も心引かれたのはオパラインダイアルが新たに追加された「ブラックベイ GMT」である。分かりやすく言えば、ブラックベイ GMTに白系の文字盤が加わったのだ。

 この新作をひと目見て、すぐに姉妹ブランドの、あの伝説の「アルビノモデル」を思い出した。きっとほかにも、同じ感想を持った方がいらっしゃるだろう。そう、“パンナム”こと今はなきパンアメリカン航空のグランドスタッフ(地上職、航空旅客係)へ支給されたとされるロレックス GMTマスターのファーストモデル Ref.6542のホワイトダイアルモデルだ(何でもブラックダイアルが支給されたパイロットと区別するため、より事務職に向いたホワイトダイアルが支給されたとか)。

 もはや“伝説”とも“神話”とも言えるこの「アルビノモデル」。『ワールド・ムック503 ロレックス スポーツウオッチ』(ワールドフォトプレス刊)の52ページには、「パンナムのオフィシャルウオッチGMTマスターの地上用員(ママ引用)モデルは、パイロット用と区別するため、特注の白文字盤だった」とあり、時計の写真(この写真ではベゼルはオールブラック)とともに掲載されている。実際、2000年代初頭、筆者も別の個体ではあるが、青赤ベゼルを備えたホワイトダイアルの初期型GMTマスターの実機をあるコレクターに見せてもらったことがある。真偽のほどは定かではないが……。

 言うまでもなく、GMTマスターにも、その後継機であるGMTマスター Ⅱにも、その歴代モデル、そして現行モデルにもホワイトダイアルモデルは存在したことがないし、現に存在しない。ブラックダイアル以外では、ブラウンダイアルやグリーンダイアルがかつて存在したが、現行モデルではGMTマスター Ⅱのホワイトゴールドケースモデルに、ミッドナイトブルーダイアル(Ref.126719BLRO)とメテオライトダイアル(Ref.126719BLRO)のモデルが存在するのみだ。ある意味、メテオライトダイアルモデルが、最もホワイトダイアルに印象が近いと言える。

 そんな実体験を持つがゆえに、ウォッチズ&ワンダーズのチューダーのブースで、このオパラインダイアルの「ブラックベイ GMT」を目にした時には、驚きと喜びがないまぜになって、一瞬でテンションが上がってしまった。

ブラックベイ GMT

「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023」のチューダー個別取材時には、「ブラックベイ GMT」オパラインダイアルのファブリックストラップモデルを試着した。SSブレスレットモデルに比べて、ファブリックストラップモデルの場合、ストラップに比べてどうして時計本体が重くなる。だが、ファブリックストラップで時計本体を手首へしっかりと巻き付ければ、時計本体の重さに手首が振られることはない。この角度から見ると、ツヤを消したオパライン文字盤のシルバー味を帯びたマットな質感も、ベゼル上に配されたバーガンディとディープブルー2色のアルマイト加工ディスクの同じくマットな仕上げもよく分かる。

 もちろん新作であるが、オパラインダイアルモデルは既存の「ブラックベイ GMT」の新色文字盤モデルという位置付けだ。単に、ホワイトダイアルや白文字盤ではなく、「オパライン」と明言しているように、このニューダイアルは、完全な白ではなく、かすかにシルバー味を帯びている。

 このホワイトグレーのマットな質感は、ダイアルを荒らした後にガルバニック処理をすることで、生み出されている。既存のブラックダイアルが精悍な印象を与えるのに対して、このオパラインダイアルモデルは人気のバーガンディ&ディープブルーベゼルとのコントラストも清々しく、より軽快な印象を与える。

 文字盤はマット仕上げのため、反射によって視認性が阻害されることもなく、加えて、アワーマーカーと時・分針をダークカラーで縁取り、秒針自体もダークカラーとすることで、同じ白系のオパラインダイアル上で、明確な判読性を得ている。さらに、秒と分を読み取るための文字盤外周のセコンド&ミニッツトラックもブラックカラーで明瞭に文字盤にプリントされているため、こちらの視認性もまったく問題ない。