ジュネーブで開催されたウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023では、40以上の時計ブランドが新作を発表した。この取材に参加したWatchTime編集部は、主要9ブランドの「見るべき1本」を選出した。それぞれの最も重要な新作時計はどれなのか?
Originally published on watchtime.com
Text by Martina Richter, Alexander Krupp, Nadja Ehrlich
A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス・クロノグラフ」
自動巻き(Cal.L156.1 ダトマティック)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.5mm)。12気圧防水。世界限定100本。価格要問合せ。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
A.ランゲ&ゾーネは、「オデュッセウス」コレクションに、クロノグラフ機能を搭載した「オデュッセウス・クロノグラフ」を100本限定で発表した。本モデルはブランド初の自動巻きクロノグラフモデルでもある。
独自のリセット機構を搭載したランゲ初の自動巻きクロノグラフ
オデュッセウスは、A.ランゲ&ゾーネの6番目のコレクションとして2019年に登場したスポーツラインだ。防水性や耐衝撃性などを備え、A.ランゲ&ゾーネの技術力を示す旗艦モデルのひとつとなっている。
オデュッセウス・クロノグラフでは、6年の歳月をかけて開発された、ブランド初の自動巻きクロノグラフムーブメントキャリバーL156.1 ダトマティックが搭載されている。これはA.ランゲ&ゾーネの71番目のマニュファクチュールムーブメントであり、13番目のクロノグラフムーブメントである。
キャリバーL156.1 ダトマティックは毎時2万8800回の振動数で、約50時間のパワーリザーブを保持する。特徴的な曜日表示とアウトサイズデイトを踏襲するため、菱形の先端を持つ60分積算計と赤色のクロノグラフ秒針はセンターに配置されている。センター配置により計測範囲は30分から60分に広がり、視認性も向上した。
オデュッセウス・クロノグラフにおける最も特筆すべき特徴は、クロノグラフ針の「ダイナミックリセット機能」だ。計測後に4時位置のリセットボタンを操作すると、針はゼロ位置にただ帰針するだけでなく、両針ともに30分以上計測している場合は時計回り、30分以内の場合は逆時計回りにリセットされる。60分積算計は比較的ゆっくりとゼロ位置に移動する間に、ストップセコンド秒針はその上を何度も回転する。
これは帰零が分計測と連動しており、1分計測するごとに1回転し、分計測が30分を超えていた場合は、前進して残りの分を経てゼロ位置に戻る。例えば、計測時間が20分15秒だったとしよう。クロノグラフ秒針は、反時計回りに20周して帰零する。この動きを司るのは左右対称のハートカムで、クロノグラフ秒針と60分積算計の針の停止位置により、どのようにゼロ位置に帰針するかを決定する。
クロノグラフを駆動させるには、2時と4時位置に配された「デュアル機能ボタン」を使用する。このボタンはねじ込み式リュウズの位置によって機能を変える。通常位置ではクロノグラフのスタートとリセット、1段階引き出した状態では日付と曜日表示の調整が行えるようになっている。これらはクロノグラフが駆動中であっても干渉はしない。2段引き出した状態でムーブメントを停止させることができ、秒単位での時刻合わせに使用する。
オデュッセウス・クロノグラフのケースは3ピース構造であり、大きさは直径42.5mm、厚さ14.2mmで、12気圧防水を保持する。繊細なグレイン仕上げのブラックダイアルには、蓄光塗料の塗布されたバータイプのアプライドインデックスと槍型の時分針が配されている。外周にはパラジウムカラーのフランジリングにふたつのミニッツスケールがプリントされており、外周に秒の目盛り、内側に分・秒の目盛りが配されてる。
サファイアクリスタル製ケースバックからは、一部がブラックロジウムコーティングされたシースルー仕様の巻き上げローターや、A.ランゲ&ゾーネの伝統的な装飾技法が盛り込まれたムーブメントを鑑賞することができる。テンプ受けには、時計の防水性とスポーティーなシーンをイメージした、スタイリッシュな波模様が手彫りで施されている。ツヤ消し仕上げのステンレススティールケースのエッジには面取りが施され、スポーティーさと高級感が両立されている。
IWC「インヂュニア・オートマティック 40」
自動巻き(Cal.32111)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm)。ブティック限定。156万7500円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
IWCはジェラルド・ジェンタのアイコニックな歴史的デザインに回帰し、現代的な技術を融合させて「インヂュニア・オートマティック 40」を完成させた。
“ジェンタ”デザインで復活を遂げた新生インヂュニア
1976年にジェラルド・ジェンタが手掛けたアイコニックなインヂュニア SLに、現代的な技術を融合させた「インヂュニア・オートマティック 40」が発表された。オリジナルモデルに近い外観を持ち、IWCの伝統をまとっているが、ただのコピーからは程遠いものである。ケースサイズは手首になじみやすい直径40mmだ。そこにはジェラルド・ジェンタのスタイルスティックな要素が盛り込まれており、インヂュニア SLに見られた5個のネジ止めのあるベゼルや、「グリッド」構造を採用した文字盤、H型リンクの一体型ブレスレットといった特徴が見られる。
インヂュニアの歴史は1955年に発表された初代「インヂュニア」にさかのぼる。このオリジナルモデルは、3針とデイト表示を備えたラウンド型ウォッチであった。シンプルな外観に対し、搭載するムーブメントCal.8521は軟鉄製の耐磁ケースとダイアルで覆われることで、8万A/mという高い耐磁性能を備えていた。IWCは英国王立空軍のために1948年に製作した「マーク11」で、すでに軟鉄製インナーケースの技術を確立していた。IWCはこの技術を民間対象に転用し、後にインヂュニアが誕生したのだ。
1969年には、新しいインヂュニア計画が着手され、ここで当時のマーケティングディレクター、アレクサンドル・オットが活躍することとなる。1972年、オットは、堅牢でありながらエレガントであり、かつ前衛的デザインを兼ね備えたスポーツウォッチを求め、外部デザイナーのリサーチを開始した。そして、新しいインヂュニアのデザインをジェラルド・ジェンタに依頼したのである。後の1976年に誕生した「インヂュニア SL」は当時、直径40mmのケースサイズから「ジャンボ」と呼ばれた。
2023年に発表された「インヂュニア・オートマティック 40」は、歴史に忠実に軟鉄製インナーケースを採用し、約4万4000A/mの高い耐磁性能を保持している。ケースの直径もオリジナルモデルに同じ40mmだが、厚さは10.8mmに抑えられた。搭載される自動巻きキャリバー32111は、ヴァルフルリエ製のエボーシュを採用し、すべてシャフハウゼンのIWCの工房内で組み立てが行われているということだ。なお、約120時間のパワーリザーブを備えるこのムーブメントは、IWCの「パイロット・ウォッチ・マーク XX」にも搭載されている。
ブレスレットは両開きのフォールディングクラスプを備えており、交換はクイックチェンジシステムではない。IWCのブティックでのみ購入が可能だ。
パテック フィリップ「カラトラバ・24時間表示・トラベルタイム5224R」
自動巻き(Cal.31-260 PS FUS 24H)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ最小48時間。18KRGケース(直径42mm)。3気圧防水。771万1000円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
パテック フィリップといえば、第2タイムゾーンを表示するトラベルタイム機構が有名だが、新しいカラトラバは異彩を放っている。なぜなら、第2タイムゾーンだけでなく、ホームタイムも24時間表示となっているからだ。
第2タイムゾーンを表示するトラベルタイム機構を搭載した24時間時計
パテック フィリップが発表した「カラトラバ・24時間表示・トラベルタイム5224R」は、第2タイムゾーンを表示するだけでなく、24時間表示も搭載したトラベルウォッチだ。これらふたつのタイムゾーンとスモールセコンドを司るのは自社製自動巻きキャリバー31-260 PS FUS 24Hであり、プラチナ製マイクロローターと、最小48時間のパワーリザーブを保持している。キャリバー31-260 PS FUS 24Hの直径は3.7mmと薄型であり、その駆動はサファイアクリスタル製ケースバックより鑑賞が可能だ。
ムーブメントを搭載する18Kローズゴールド製ケースは直径42mmと大ぶりであるが、厚さはわずか9.85mmに抑えられている。防水性能は3気圧防水だ。薄型で滑らかなケースを採用するために、従来のトラベルウォッチではケースの左側側面に配されていた現地時刻調整ボタンは廃止された。本モデルでは新たに、リュウズによる特許取得のシステムが採用されている。リュウズを中間位置に引き出すことで、1時間単位で前進・後退の調整ができるものだ。
ロレックス「パーペチュアル 1908」
自動巻き(Cal.7140)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。18KWG(直径39.0mm)。50m防水。276万8700円(税込み)。
ロレックスは、ロレックスの新しいドレスラインとなる「パーペチュアル 1908」を発表した。
ロレックスに加わった全く新しいドレスライン
ロレックスは「パーペチュアル 1908」で、2015年のオイスター パーペチュアル 39以来となる新しいモデルラインを投入した。モデル名に冠された1908とは、ロレックスの創業者ハンス・ウイルスドルフがブランド名"ROLEX"を正式に申請した115年前の年を表す。スモールセコンドとフルーテッドベゼルを採用するパーペチュアル 1908は、ロレックスのクラシカルな要素を含む、エレガントな外観だ。
ケース素材は18Kイエローゴールドと18Kホワイトゴールドの2種類があり、文字盤はホワイトまたはブラックの2色展開だ。文字盤には円形の先端を備えた時針や剣のような形の分針が取り付けられ、外周にはレイルウェイ・ミニッツトラックの目盛りが配された。
搭載されるのは、新しい自動巻きムーブメントであるキャリバー7140だ。パワーリザーブは約66時間であり、現在のロレックスにおいて主流となりつつある約70時間に比べるとやや短い。防水性は50mである。価格は18Kホワイトゴールドモデルで税込み276万8700円、18Kイエローゴールドモデルで税込み261万9100円だ。アリゲーターレザーストラップを組み合わせ、それぞれのゴールドと素材を揃えた2重折り畳み式のデュアルクラスプを採用している。手首側にはグリーンカーフスキンの裏打ちがある。