2023年の新作、ボール ウォッチ「エンジニア Ⅲ アウトライアー」を実機レビューする。本作は、最大で3カ所のタイムゾーンを同時に表示することが可能なGMTウォッチである。マイクロ・ガスライトやミューメタル製インナーケース、自社製ムーブメントによる高い実用性が魅力だ。
異端児の名を持つエンジニア Ⅲ アウトライアー。最大3カ所のタイムゾーンを同時に表示することができるGMTウォッチだ。マイクロ・ガスライトによる暗所での優れた視認性や、ミューメタル製インナーケースによる高い耐磁性を備えている。自動巻き(Cal.RRM7337-C)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm、厚さ13.8mm)。200m防水。40万7000円(税込み)。
2023年5月9日掲載記事
“異端児”と名付けられた、オーソドックスなGMTウォッチ
2023年も半ばに差し掛かり、今年も各社から続々と新作が発表された。今回はその中のひとつ、日本国内での発売を6月に控えた、ボール ウォッチ「エンジニア Ⅲ アウトライアー」の実機インプレッションをお届けしたい。
モデル名のアウトライアーが意味するものは“異端児”である。同社の説明によると、“既存の価値観から脱却して新たな世界にチャレンジするコンセプトのもと開発された”、“ボール ウォッチのラインナップになかった異色のスタイルのスポーツウォッチ”とのことだ。
本作は、ブラックダイアルとオレンジのGMT針、直径40mmのケースに24時間表記の双方向回転ベゼルを備えたGMTウォッチだ。一見して、異端児というネーミングからは想像できないオーソドックスな外観を持つ。
創業以来、過酷な環境でも高い視認性と精度を保つ、信頼性の高い時計を作り続けてきたボール ウォッチ。同社のコレクションには、プロ仕様と呼ぶにふさわしい、見た目からもタフさの滲み出るモデルが多くそろっている。優れた信頼性を踏襲しつつも、コンパクトなサイズ感に加え、随所にエレガントな空気感を漂わせる本作は、そんな同社のラインナップの中にあってこそ、異端児としての意味を持つのだろう。
具体的なレビューに入る前に、簡単に本作のスペックをお伝えしたい。ケースの直径は先述の通り40mmであり、厚さは13.8mmだ。外装には、耐食性に優れたステンレススティール、SUS904Lを採用している。ミューメタル製インナーケースによる8万A/mの耐磁性と、200mの防水性、5000Gsの耐衝撃性を備えたタフなモデルだ。
高い機能性とシンプルな表示系を両立
先端をオレンジに彩った4本目の針や、フランジとベゼルに配された24時間表記から推測できる通り、本作は最大で3カ所のタイムゾーンを同時に表示することができるGMTウォッチだ。多機能でありながらも色使いは最小限に抑えられた、潔いデザインを持つ。
ストイックな仕様だが、それぞれのディティールをつぶさに見ていくと、実用一辺倒には終始しない、密やかな上品さが盛り込まれていることが分かる。
ブラックカラーのダイアルは、マットに仕上げられている。光の反射を抑えることで、直射日光のような強い光源下であっても、難なく時刻を読み取ることができるよう配慮された結果だろう。ブラックダイアルとコントラストを成しているのが、12個のインデックスと時分針、GMT針に取り付けられたマイクロ・ガスライトだ。
ボール ウォッチは、実用性を飛躍的に向上させる、いくつかのユニークな技術を採用している。マイクロ・ガスライトはそのひとつであり、内部に蛍光塗料を塗布したガラス管にトリチウムを封入したものだ。このシステムは、明るい場所で光を蓄え、暗所で一定時間発光する蓄光塗料とは異なり、10年以上に亘って自発光を続けるため、暗所で長時間活動する場合であっても、しっかりと時刻を読み取り続けることが可能だ。
ダイアル6時位置には、“T SWISS MADE T”の文字がプリントされ(※)、本作にトリチウムが使用されていることを明示している。
※編集注:今回の着用モデルはスイス仕様のサンプルだったため、“T SWISS MADE T”がプリントされていたが、本来国内モデルの文字盤には、“T25”のプリントがされる。
時分針はペンシル型だ。その先端は三角形に切り抜かれ、インデックスやミニッツマーカーを覆い隠さないようにする工夫が凝らされている。秒針にはブランドロゴを模ったカウンターウェイトが与えられ、先端はダイアルの端までしっかりと届いている。
GMT針は、先端のみオレンジ、その他をブラックとすることで、他の針と混同されることなくダイアルの中で際立った存在感を放っている。その先端は少し上向いており、これによってフランジ部の24時間表記との高低差を無くし、判読性を高めている。
ダイアルを覆っているのが、日付拡大用レンズが取り付けられた、ボックス型のサファイアクリスタルだ。実用性を問うならば、サファイアクリスタルはフラットで十分だろう。本作の立体的な風防は、時計全体にクラシカルな魅力を与えるとともに、見た目上の重要な要素にもなっている。
4本の針は、ダイアル中央に配されている。かつ、本作はある程度ハードな環境での使用も想定されたスポーツウォッチである。従って、衝撃によって針がたわんでも運針に支障がないように、それぞれの針の取り付け位置にはクリアランスの確保が求められる。間延びしたような印象を与えてしまいかねないこのクリアランスを、いかにして目立たなくさせるのかは、スポーツウォッチ全般に共通する悩みどころだろう。
本作では、サファイアクリスタルに厚みを分散させることでダイアルを引き締め、さらに歪みを持った縁が、斜めから見た際のクリアランスを隠している。
双方向回転式のベゼルはステンレススティール製だ。同社が好んで使うきらびやかなセラミックスとは違い、ソリッドな質感が落ち着いた印象をもたらしている。
彫り込まれた24時間表記のスケールに流し込まれているのは、スーパールミノバだ。その色味は、日中をホワイト、夜間をブラックに使い分けられており、見た目の煩雑さを抑えつつ、設定したタイムゾーンの昼夜をひと目で判別することが可能である。赤と青などのツートンカラーのベゼルが一般的となって久しいが、例えばビジネスシーンで着用するならば、モノトーンの落ち着いたカラーリングの方が使いやすいだろう。
ベゼルには1分単位のスケールも刻まれているが、これをどのようにして使うのかは想像がつかなかった。ベゼルを1分単位で回転することができるのであれば、分針と合わせて時間計測に使用することができるが、本作のベゼルは1周24クリックであるため、そのような用法はできない。
ドレッシーな要素を忍ばせた、ミドルケースとブレスレット
ベゼルやミドルケース、裏蓋、ブレスレット等の外装には、一般的な高級時計に使われるSUS316Lよりも耐食性に優れたSUS904Lが採用されている。加工が難しくコストの嵩むこのステンレススティールは、ロレックスやジン、ジラール・ペルゴ等の一部のブランドが採用するにとどまっている。
ミドルケースは、ラグ先端に向かって細く絞った形状を持ち、ラグ上面をポリッシュ仕上げとすることで、繊細なイメージを与えている。反してケースサイドには、縦方向のサテン仕上げが与えられており、力強さが感じられる。
全体の厚みは13.8mmあるが、サファイアクリスタルやベゼル、裏蓋に厚みを分散させているため、見た目にはさほどボリュームを感じさせない。何よりも、このミドルケースには8万A/mの耐磁性を発揮するためのミューメタル製インナーケースと、GMT機能を搭載した自動巻きムーブメントが格納されている。このことを考慮すれば、本作は比較的薄型と言っても差し支えないだろう。
直径約7mmのリュウズは、スポーティさと上品さを両立させる控えめなリュウズガードによって守られている。裏蓋はソリッドバックであり、地球を模したレリーフと、主要都市のタイムゾーンが刻まれている。
ブレスレットは、中央をポリッシュ、両サイドをサテン仕上げとしている。ポリッシュの部分の方が大きく、きらびやかな印象だ。バックルは両開きタイプであり、閉じた状態ではバックルの存在が目立たないようになっている。プッシュボタンの無い勘合式であるため、バックル自体が薄く仕上がっている点は、取り回しの良さに繋がるだろう。ポリッシュ主体で両開きタイプの勘合式であるというこれらの特徴を鑑みると、ドレッシーに寄せた仕様であることが分かる。
調整用のコマはネジで連結されている。割ピンやCリングに比べて脱落の危険性が少なく、長年安心して使用できるだろう。コマ同士だけではなく、ミドルケースへの取り付けにもネジが採用されている。