腕時計にはさまざまな色や素材が用いられるが、その中でもケースからダイアルまですべてを黒で統一した「オールブラック」は人気が高いデザインのひとつだ。地味な印象を与えるモノトーンではあるが、特有の艶と華やかさがあり、独創的な存在感を放つ。オールブラック時計を代表する魅力的なモデルを紹介する。
オールブラック時計が持つ魅力とは?
オールブラック時計を手にする人は年々増えている。時計としての視認性はお世辞にも高いとはいえない黒一色の時計が、なぜこれほどまでに愛されるようになったのか。まずはその理由について解説する。
オールブラック時計の概要
オールブラック時計はケースだけでなく、文字盤まですべて黒で統一された時計を指す。以前はなじみの薄い時計であったが、2000年代に入ってからはウブロやタグ・ホイヤーを筆頭に、オールブラック時計を展開するブランドが増えている。
プラスチックを用いたカジュアル時計などは、さまざまなカラーリングのモデルがラインナップされているが、高級時計においては高度な技術力を持つブランドのみがオールブラック時計を製造できる。
クロノグラフやムーンフェイズといった時計の機構と同じく、ブラックに統一されたモデルであることそのものにステータスがあるのだ。
洗練された印象を与える
黒で統一されたデザインは視認性こそ劣るが、代わりに格式高く洗練された魅力がある。スーツスタイルからカジュアルな服装まで、幅広いスタイルに対応できることが魅力だ。
オールブラック時計は好感度にも優れる。ブラックカラーに悪いイメージを抱く人は少なく、性別を問わずクールな印象を与えられるだろう。ステンレススティールともゴールドとも違うその独特の雰囲気は、一度体感してしまうとやめられない魅力がある。
キズが目立ちにくい
全面黒で仕上げられたオールブラック時計は、明るい色の時計に比べて傷が目立ちにくいメリットがあるため、アクティブに活動する男性に向いているだろう。日々の生活において手元を必要以上に気にしなくて済むため、気軽に身に着けられるのが魅力だ。
特に傷が付きにくい独自素材を採用したモデルなら、幅広いシーンでタフに活躍してくれるはずだ。オールブラック時計にタフネスを求めるなら、素材にも注目しよう。
オールブラック時計に使用される素材
高級時計におけるブラックケースは、ただ色が黒いだけのケースではない。一般的なステンレススティールとはひと味もふた味も異なる魅力を秘めている。素材にはどのような種類があるのだろうか。
色鮮やかな「PVDコーティング」
薄膜の材料となる物質をイオン化して付着させる技術を、「PVDコーティング」という。物理気相成長・物理蒸着を意味する「Physical Vapor Deposition」の頭文字を取って、PVDと呼ぶようになった。
オールブラック時計においては、ステンレススティールにブラックチタンをはじめとした素材をイオン化させ、薄膜を形成する方法で加工している。
PVDコーティングを施したステンレススティールは、一般的なステンレススティールに比べてアレルギーが出にくく、しかも上品な光沢を放つため、黒の色味もぼやけない。
耐久性に優れる「ブラックセラミックス」
セラミックスは艶のある表情と高い耐久性を兼ね備える、ハイテク素材のひとつだ。
高硬度の耐傷性を持ち、ステンレススティールのビッカース硬さが「200前後」だとすると、セラミックスは「1200前後」と約6倍にも及ぶ硬度を誇る。主成分としては酸化ジルコニウムが主に採用されており、傷が付きにくいだけでなく靭性も備えている。
シックな魅力にあふれるブラックセラミックスは、時計の素材として高い人気を誇る。傷の付きにくさを重視してオールブラック時計を選ぶなら、ブラックセラミックを採用したモデルに注目しよう。
実用性の高いオールブラック時計
オールブラック時計はトレンドに左右されない普遍性を持つ。ビジネスにおいてもプライベートにおいても、その魅力を存分に発揮してくれるだろう。数あるオールブラック時計の中から、実用性に優れたモデルを紹介する。
ブライトリング アベンジャー シーウルフ ナイト ミッション V17319101B1X1
自動巻き(Cal.17)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。Tiケース(直径45mm、厚さ18.3mm)。3000m防水。67万1000円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
空の雄たるブライトリングの新鋭モデルとしてデビューした「アベンジャー」は、コルトシリーズとアベンジャーⅡを統合することによって生まれた次世代コレクションだ。手頃な価格と高い耐久性を持つ実用時計として需要が高まっている。
「シーウルフ ナイト ミッション V17319101B1X1は」ブラックのダイアルと、DLCコーティングを施した45mmのチタンケースを備えるモデルだ。
水深3000mでのダイビングにも耐えうる高機能パイロットウォッチとして人気がある。ケースは18.39mmと厚めで無骨な印象を与えるが、時計としての製品重量は127gとさほど重くはない。
IWC パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41・トップガン・セラタニウム IW388106
自動巻き(Cal.69385)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。セラタニウムケース(直径41mm、厚さ14.5mm)。10気圧防水。196万3500円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
IWCの「パイロット・ウォッチ」にラインナップされる「トップガン」は、アメリカ海軍の戦闘機搭乗員養成機関であるトップガンとのパートナーシップによって展開されているコレクション。過酷な訓練を受けるパイロットをサポートするべく、ケースにはセラミックやチタンを採用して耐久性を高めている。
中でも2022年にリリースされた「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41・トップガン・セラタニウム」は、ケース素材にIWCが開発した素材セラタニウムを用いたモデル。チタニウムに匹敵する軽さと堅牢性を持ちつつ、セラミックと同様の硬度と耐傷性も兼ね備え、さらには特殊な製造プロセスを経ることで、精悍なマットブラックの表情を生み出している。
ファブリックのインレイが付いたラバーストラップはブラックで統一され、さらに独自のEasX-CHANGEシステムによって交換が簡単に行えるのも魅力だ。
チューダー ブラックベイ セラミック M79210CNU-0001
自動巻き(Cal.MT5602-1U)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。セラミックケース(直径41mm、厚さ14.4mm)。200m防水。71万8300円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570
チューダーは近年急速に人気を高めている注目ブランドだ。優れたデザインと機能性を有しながらも抜群のコストパフォーマンスを誇る。
特に「ブラックベイ セラミック M79210CNU-0001」は、チューダーの時計製造技術を体現したモデルとして時計ファンからの支持が厚い。
ムーブメントにはC.O.S.C.認定クロノメーターを取得した自社製ムーブメント「Cal.MT5602-1U」を搭載。艶やかなブラックセラミックが時計としての完成度をより高めている。
リュウズにはブランドを象徴するロゴ「チューダーローズ」のエングレービングが施されており、クールな雰囲気と同時にヴィンテージライクな意匠も楽しめる。
シャネル J12 キャリバー12.1 ブラックセラミック H5697
自動巻き(Cal.12.1)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。高耐性セラミック×SSケース(直径38mm)。200m防水。123万7500円(税込み)。(問)シャネル(カスタマーケア)Tel.0120-525-519
シャネルといえばファッションブランドというイメージが強いだろう。しかし、2000年に「J12」を発表し、さらに2019年にスイスの名門ムーブメント製造会社「ケニッシ」の株式を取得してからは、時計ブランドとしての評価がますます上がっている。
近年の新作はどれも素晴らしい仕上がりだが、特に「H5697」はJ12らしい上品なデザインとC.O.S.C.認定の高精度クロノメーターを備える万能機として人気だ。ムーブメントには自社製の「Cal.12.1」を備え、約70時間のロングパワーリザーブを有する。
内部機構を楽しめるオールブラック時計
オールブラック時計を製造するブランドの多くは、革新的なデザインを得意とする。ブラックケースの強い存在感を生かしたスケルトンやオープンワーク仕様のモデルは、特に需要が高い。中でも斬新なデザインが魅力のモデルを3本、紹介しよう。
ゼニス デファイ スカイライン ブラックセラミック スケルトン 49.9300.3620/78.1001
自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3620)。26石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。セラミックケース(直径41mm)。10気圧防水。231万円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
1969年に製作された「デファイ」を現代的にアップデートして、2022年に誕生したのが「デファイ スカイライン」だ。新たなバリエーションとなる「デファイ スカイライン ブラックセラミック」は、ケースとブレスレットに一体感を持たせたデザインを、サテンとポリッシュ仕上げを組み合わせたブラックセラミックで表現しており、発売直後からそのクールなルックスが支持を集めている。
中でも「49.9300.3620/78.1001」は、オープンワークダイアルを採用。ブランドのアイコンである、4つの点を結んだ星の意匠を取り入れ、デファイ スカイラインのモダンな印象をより一層強めている。搭載するムーブメントは高振動のエル・プリメロ 3620で、ダイアルの6時位置には高精度を実感できる1/10秒のインジケーターも備わっている。
ウブロ ビッグバン メカ-10 ブラックマジック 414.CI.1123.RX
手巻き(Cal.HUB1201)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約10日間。セラミックケース(直径45mm)。10気圧防水。345万4000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
ビッグバンのハイエンドモデルとして人気を博す「メカ-10」は、最先端の技術と異素材を融合させたウブロのブランドコンセプトを体現するシリーズだ。
従来のビッグバンよりも「魅せる」ことを追求しており、機械式ムーブメントが絶え間なく繊細に動く様子を眺められるよう設計されている。
ケース素材にはマイクロブラスト加工&ポリッシュ仕上げのブラックセラミックが採用され、パワーリザーブは脅威の約10日間設計となっている。
ウブロ アエロ・フュージョン ムーンフェイズ ブラックマジック547.CX.0170.LR
自動巻き(Cal.HUB1131)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。セラミックケース(直径42mm)。5気圧防水。259万6000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
「アエロ・フュージョン」はクラシック・フュージョンのダイアルをスケルトナイズした、華やかなモデルだ。クラシカルなデザインコードを残しつつも、アグレッシブな仕上がりとなっている。
「547.CX.0170.LR」はアエロ・フュージョンの中でも、ブラックケースの美しさをうまく引き立てているモデルとして人気が高い。ダイアルの6時位置に浮かぶムーンフェイズが、幻想的な世界観を演出する。
コンプリケーションを搭載したオールブラック時計
オールブラック時計には複雑機構を備えるハイスペックモデルもある。漆黒にきらめくブラックケースとコンプリケーション機能の組み合わせは、時計ファンであれば一度は手にしたいと思うだろう。
ウブロ ビッグ・バン トゥールビヨン オートマティック ブラックマジック 419.CI.0170.RX
自動巻き(Cal.HUB6035)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックケース(直径45mm)。3気圧防水。1432万2000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
「419.CI.0170.RX」はオールブラック時計としては珍しい、トゥールビヨン搭載モデルだ。ケース素材はマイクロブラスト加工&ポリッシュ仕上げの45mmブラックセラミック、ストラップにはシックなブラックストラクチャードラバーを採用している。
スケルトンダイアルとトランスパレントバックの組み合わせとなっているため、自社製ムーブメントCal.HUB6035のメカニカルな意匠を存分に味わえるだろう。
なお、419.CI.0170.RXは小型のマイクロローターを備える稀有なトゥールビヨン搭載モデルだ。ムーブメント背面ではなく、ダイアル正面の12時位置にローターが備えられていることにも注目してほしい。
カール F. ブヘラ マネロ トゥールビヨン ダブルペリフェラル ブラック 00.10920.16.33.01
自動巻き(Cal.CFB T3000)。33石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約65時間。フォージドカーボンケース(直径43.1mm、厚さ12.3mm)。3気圧防水。世界限定30本。1001万円(税込み)。(問)スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650
カール F. ブヘラの創業135周年を記念して、2023年1月に発表されたのがCFBカプセルコレクションだ。これは、ブランドのベストセラーモデルに新解釈を加えた5種類の時計をラインナップしており、ブラックのフォージドカーボンまたはPVDを施したステンレススティールケースを取り入れて、ベースモデルとはひと味違う、スタイリッシュな雰囲気にまとめているのが特徴だ。
その頂点に位置するのが「マネロ トゥールビヨン ダブルペリフェラル ブラック」。チタン製コンテナーを組み合わせた漆黒のフォージドカーボンケースの中で、特許取得のフローティングトゥールビヨンが駆動する様子を眺められる。
ラバーストラップの表面にはカーボン素材に着想を得た有機的な表情が施されており、トゥールビヨンやケース素材と組み合わせることで、この時計の先進性を見事に表現している。
モダンな美しさを堪能しよう
オールブラック時計の魅力は、どのようなシーンでも活躍できる汎用性の高さと、手元を引き締めてくれるモダンな雰囲気にあふれている。年齢を重ねても使い続けられため、一生モノにふさわしい時計といえる。
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