多くの有名ブランドが新作を発表したウォッチズ&ワンダーズ2023から、ベスト5を選出する企画。今回は日本を代表する時計愛好家、くろのぴーすが現地で見てきた時計からチョイス。パテック フィリップやA.ランゲ&ゾーネといった“大メーカー”から、グローネフェルトのようなマイクロメゾンまで、本当に触ってみて、良いと思った5本が挙げられた。
1位:グローネフェルト「1941 グローノグラーフ タンタル」
長年改良が重ねられてきたクロノグラフにおいて、リセット時の動きによる故障リスクにおそらく初めて取り組んだであろう、グローネフェルト。解消策としてミニッツリピーターなどに使用されるガバナーを採用し、クロノグラフ針のソフトランディングを実現。
全ての時計が3年以上待ちという同ブランドであるからこそ、400パーツ超え、2000万円超えのこの作品もが一瞬に売り切れてしまうという快挙を成し得たのだろう。制作されるのはグレー文字盤のみながら、その魅力にやられた私も3年待ちの前提で、ブルー文字盤中心にしか買わないというルールの例外を適用してでもオーダーしてしまった。
手巻き(Cal.G-04)。45石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約53時間。タンタル(直径40.0mm、厚さ11.3mm)。3気圧防水。完売。
2位:パテック フィリップ「カラトラバ・トラベルタイム 5224」
先日パテック フィリップの関係者から、このモデルは生産量を限定しているのではなく、24ものインデックスを擁する文字盤の製作難易度から、少数ずつしか製作できないという事情を聞いた。
個人的にも24時間腕時計をいくつか集めているが、12時(正午)が上に配置されるものを初めて見た。その理由が、着用者が時計で時刻確認を実際に多くする時間帯(6時-18時)を文字盤の12時位置(文字盤上部)に持ってくることで、視認性を高めるためだと聞いて、さすがパテック フィリップは特殊な時計にも実用性を常に模索しているのだなと感嘆した。
リュウズも3ポジションでセカンドタイムゾーンを操作できる特許技術を採用し、何よりも金無垢アクアノートのデュアルタイムより安い(笑)。
自動巻き(Cal.31-260 PS FUS 24H)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRGケース(直径42mm、厚さ9.85mm)。3気圧防水。771万1000円(税込み)。
3位:A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス・クロノグラフ」
フィリップ・デュフォーも絶賛するダトグラフが入手困難を極める中、A.ランゲ&ゾーネが発表した「オデュッセウス・クロノグラフ」は、やはり単なるクロノグラフには終わっていなかった。会場で散々触らせていただいた感想として、ランゲが培ってきた実用のための技術がきっちりと適用されていると感じる作品に仕上がっている。
クロノグラフのふたつのプッシャーは、リュウズを引くことによって日付と曜日を設定するプッシャーに早変わり。クロノグラフをリセットすると、カウントされた分数と同じ回数だけクロノグラフ針が回転するという仕様。カウントが30分以内であれば、積算計針とクロノグラフ針は反時計回りに、30分を超えれば共に時計回りに回るという演出付きだ。
自動巻き(Cal.L156.1 DATOMATIC)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.5mm、厚さ14.2mm)。12気圧防水。世界限定100本。価格要問合せ。
4位:クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー「FB 2T.2」
クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーは日本ではほとんど知られていないブランドだろうが、時計好きであれば一度リュウズを巻いた瞬間に、その緻密な調整に魅せられてしまうだろう。
裏に隠された大きなトゥールビヨンなど、ピラーで立体的に支えるという特殊な構造をしており、それが直接稼働する秒針は同社の特許技術。フュゼチェーンを経由する駆動で日差-1〜+2秒/日の超高精度を実現するだけではなく、トルク管理やセーフティに拘りつつも、軽い巻き心地は今までにもない味わい。
そして複雑機構のイメージに反して故障率が極めて低いという。ショパール傘下にいることにより、実用時計を複雑機構をもって妥協なしに実現している。
手巻き(Cal.FB-T.FC-2)。45石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約53時間。18KRGケース(直径44mm、厚さ14.3mm)。30m防水。世界限定38本(FB-T.FC-2とFB 2T.2とFB 2T.2-1を合わせた合計数)。価格要問合せ。
5位:モンブラン「モンブラン 1858 アンヴェールド タイムキーパー ミネルバ リミテッドエディション」
ずっと「クロノグラフの父、ニコラ・リューセック」を十八番にしていたモンブランは、より古いクロノグラフが近年に発見され、ルイ・モネブランドの復活によってそのタイトル奪われてしまったという印象だ。
しかし今回ミネルバベースで発表されたこのクロノグラフは、ベゼル自体を回転させることによってスタート、ストップ、リセットが行えるモノプッシャーという、実用性の高い片手操作としては、最適解ではないかとも思われる意欲作であり、また同ブランドにとっての象徴的なクロノグラフになり得ると感じた。スイスで見られてよかった時計のひとつだ。
手巻き(Cal.MB M13.21)。22石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS×18KWGケース(直径42.5mm、厚さ13.85mm)。3気圧防水。世界限定100本。585万8600円(税込み)。
選者のプロフィール
1000円のチープカシオ、1970年代のデジタルウォッチ、1億円を超えるパテック フィリップのミニッツリピーターまで、700本以上の時計を収集する腕時計愛好家。独立系腕時計ブランドを取り扱うクロノセオリーをプロデュースし、ニューヨークタイムズにも2度取り上げられた。日本を代表する時計コレクターのひとり。
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