「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023」の新作オススメモデルを、実際にジュネーブをフィジカルに現地取材した知見を基に、私的な視線で紹介するこの連載記事。第4弾は独立系ジュエラー&ウォッチメーカーのショパール。
お世辞抜きで新作はどれも素晴らしいが、個人的に「刺さった」のは「L.U.C 1963 ヘリテージ クロノグラフ」だ。
(2023年5月21日掲載記事)
独立系で“最も成長した”個人的に「ご縁」も感じるブランド
1995年から現在まで四半世紀以上もスイス時計の取材を続けていると、偶然なのだけれど、勝手ながら個人的に「特別なご縁」を感じる時計ブランドがいくつかある。ショパールはそのひとつだ。
その始まりはスイス取材2年目の1996年のバーゼル・フェア会場。私は、このwebChronosにも時計機構の解説記事など素晴らしい記事を数多く寄稿されている、私の“時計の師匠”である菅原茂さんと一緒に、当時勤めていた徳間書店のモノ情報誌『GoodsPress』の担当編集者として、ショパールのブースに足を踏み入れた。取材アポイントもなく。今は受付がしっかりしているので、そんなことは不可能だけれど。
しかも、やはり今では考えられないことだが、ブースの中にはただひとり、現共同社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏が座っていた。1958年2月生まれのショイフレ氏は当時、共同副社長で38歳だったはず。そこで私たちは、壁のディスプレイにマイクロローター式の薄型ムーブメント、つまり「L.U.C 1.96」のプロトタイプを見つけたのだ。
初対面だが興味津々の私たちに、ショイフレ氏は快くそのプロトタイプを見せてくれた。私たちはその秋、この「L.U.C 1.96」のことを『GoodsPress』の時計増刊号で記事にすることができた。実は、その後もこのショパールのマニュファクチュールムーブメント「L.U.C」とのご縁話はさらにいくつもあるのだが、今回は割愛する。今年のモデルでは、本当は「ミッレ ミリア」についても、現地取材の話を含めて語りたいことがあるのだけれど……。
さて、そんなわけでショパールとL.U.Cには個人的に特別な「想い入れ」がある。父親にマニュファクチュール化を反対されながらもL.U.Cの開発を決断したショイフレ氏の、若い頃からの機械式時計への真摯な情熱から生まれたL.U.Cムーブメントとそのコレクションは本当に素晴らしい。お世辞抜きで「あっぱれ」だし、ショパールは1990年代以降の世界的な機械式時計ブームの中で“マニュファクチュール化をどこよりも成功させた”時計ブランドのひとつだと思う。
やっぱり気になる手巻きクロノ
そんな私が、ショパールの今年の新作の中で、1997年発表のL.U.C搭載ファーストモデル「L.U.C 1.96」へのオマージュである「L.U.C 1860」にまず心惹かれたのは当然のこと。個人的にもぜひ手に入れたいし、これぞ現代のシンプルウォッチの究極の1本だと思う。
でも個人的に見逃せないモデルが、L.U.Cコレクションの新作でもう1本ある。わずか25本限定のグリーンダイアルの手巻きクロノグラフ「L.U.C 1963 ヘリテージ クロノグラフ」だ。
自動巻き(Cal.L.U.C 03.07-L)。38石。パワーリザーブ約60時間。2万8800振動/時。ルーセントスティールケース(直径42.0mm、厚さ14.55mm)。50m防水。世界限定25本。455万4000円(税込み)。
このモデルにはルーツとなるモデルがひとつ、さらに直接の「先代」と呼べるモデルがふたつある。ルーツとは、2006年に登場した自動巻きクロノグラフ「L.U.C クロノ ワン」だ。そして先代が、2014年のバーゼルワールドで発表されたローズゴールドケースで50本限定の「L.U.C 1963クロノグラフ」と、やはりコレクターズグループのために50本限定で製造されたそのSSケースバージョンだ。「1963」という西暦がモデル名に含まれ、50本限定が前提なのは、ショイフレ・ファミリーがショパール家からブランドを譲り受けてから50周年を記念して企画されたものだからである。
この「先代」に搭載されているムーブメント「L.U.C 03.07-L」は、2006年のクロノ ワンに搭載されたクロノグラフムーブメント「L.U.C 11CF」、すなわち後の「L.U.C 03.03-L」(L.U.C 11CFの2012年以降のキャリバー名)を手巻き化したものだ。ショイフレ氏はコラムホイール式で垂直クラッチ、フライバック機能を搭載した、今も最先端のこの機械式クロノグラフムーブメントから自動巻きローターを外し、ジュネーブ・シールに基づいた装飾を加えた。「クロノ ワン」発表後にそのコレクターズグループと親交を結んだショイフレ氏は、そのグループから手巻きのクロノグラフのリクエストを聞いたようだし、時計好きだから自身が作りたかったのだろう。
そして2014年に世界50本限定で登場したのが、同年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)でも最終選考まで残った「L.U.C 1963 クロノグラフ」であった。今年2013年に発表された新作「L.U.C 1963 ヘリテージ クロノグラフ」は9年ぶりに登場した、「L.U.C 03.07-L」を搭載したコレクター向けの手巻きクロノグラフなのだ。
この新作のクロノグラフは、トレンドでもある上品なグリーン文字盤を備え、トランスパレントバック仕様のルーセントスティールケースの裏側からは、L.U.Cの妥協なき装飾と磨きが施されたクロノグラフ機構一体型手巻きムーブメントの「L.U.C 03.07-L」を見て楽しむことができる。L.U.C 03.07-Lは、コラムホイール式で垂直クラッチ採用したクロノグラフムーブメントで、フライバック機構を搭載する。さらに、ジュネーブ・シールも取得している。世界25本限定とはいえ、手巻きモデルをこのようにちゃんと継続して、しかもトレンドを反映させて出していくのは、高級時計のマニュファクチュールブランドとして「どんな製品を出していくのか」、ショイフレ氏がしっかり考えているからできることだろう。
ショイフレ氏は「クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥー」という、L.U.Cよりさらにマニアックで、ショパール マニュファクチュールのあるヴァル・ド・トラヴェール地方の伝説的な時計師の偉業を未来に継承するためのブランドを立ち上げたり、カリテ フルリエを創設したりと、他にも語りたいことはたくさんあるのだけれど、とにかく今回はこの手巻きクロノグラフが「L.U.C 1860」と同様に、個人的に気になった理由を説明させていただいた。かなりマニアックで申し訳ない。
https://www.webchronos.net/features/95643/
https://www.webchronos.net/features/95057/
https://www.webchronos.net/features/77969/