リシャール・ミルは一種の“現象”といえるだろう。創業からわずか20年で、このブランドは時計業界の頂点へと上り詰めた。価値評価においては、長い歴史を誇るパテック フィリップやオーデマ ピゲ、高い知名度を持つロレックスと肩を並べている。価格と機構の複雑さにおいては、さらに一歩抜きんでるほどだ。今回は、リシャール・ミルらしさが光る3本の腕時計を紹介する。
独自の世界観を表す「RM 88 オートマティック トゥールビヨン スマイリー」
自動巻き(Cal.CRMT7)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。ホワイトセラミックス×18KRGケース(縦48.15×横39.74mm、厚さ13.3mm)。50m防水。世界限定50本。1億6940万円(税込み)。
数多くのブランドが歴史に根ざしたロングセラーモデルの更新で評判を得ている一方、リシャール・ミルは、ストリートアートやアーバンカルチャーを取り入れた、複雑で革新的なラグジュアリーウォッチを開発している。
その最たる例が「RM 88 オートマティック トゥールビヨン スマイリー」だろう。トノー型の湾曲したサンドイッチケース、ベゼル上の独自デザインのネジ、見えないラグなど、ブランドらしい要素が多い。ハイテク素材の採用もリシャール・ミルらしさを演出する。本作ではベゼルとケースバックに、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムから作られたATZセラミックスが採用されている。これは、衝撃やキズ、摩耗に対する耐性に優れている素材だ。
正面からムーブメントを見ることも可能であり、ここではスマイリーが微笑むという遊び心が感じられる。ポップカルチャーを代表するデジタルシンボルは、手仕上げのエングレービングと彩色により、最高級のミニチュアアートとなっている。
このスマイリーには、虹やカクテル、フラミンゴなど、スマートフォンでおなじみのハッピーな絵文字が添えられている。もちろんクラフツマンシップや技術もおろそかにされてはいない。片方に太陽のモチーフ、もう片方に稲妻のモチーフをあしらった雲型のスモールセコンドの下には、トゥールビヨンが隠されているのだ。
しかし、この時計の価格にも微笑みかけられるだろうか? 世界限定50本のRM 88、価格は税込み1億6940万円だ。
複雑機構を搭載した「RM 032 オートマティック フライバッククロノグラフ セントバーツ」
手巻き(Cal.RMAC2)。62石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。クオーツTPT®ケース(直径50.0mm、厚さ17.86mm)。300m防水。世界限定120本。3388万円(税込み)。
カリブ海の島で開催されるセントバーツ国際ヨットレースに捧げるダイバーズウォッチ「RM 032 オートマティック フライバッククロノグラフ セントバーツ」は、革新的なテクノロジーを搭載した極めて複雑なタイムピースの一例だ。
この時計は、フライバッククロノグラフと年次カレンダーを搭載している。ストップウォッチ機構は、秒と分を表示する2本のセンター針と、6時位置のスモールアワーカウンターを駆動する。カレンダーは、12時位置に大きな日付表示、4時半位置に小さな月表示窓がある。
3時位置のプロペラは、自動巻きムーブメントが作動しているかを確認できる機能を持つ。プロペラは、スーパールミノバの塗布面と黒く塗られた部分で構成されており、高いコントラストで視認性を確保している。また、サファイアクリスタルの文字盤からは、複雑なムーブメントを鑑賞することができる。
RM 032で最もリシャール・ミルらしい点、それは最先端素材の採用である。例えば、ベゼルはライトブルーとホワイトのハイテク素材、クオーツTPTで作られている。回転ベゼルは非常に効果的な安全機構を備えており、ゼロと30分の位置にある大きなボタンを同時に押すことでしか調整することができない。
ケースのデザインは特に革新的だ。大きなプッシャーは下部のリュウズリングを回すことでロックされ、密閉性が保たれる。これにより300mという高い防水性を維持することができる。ケースのミドルパーツとプッシャーがチタン製であるのに対し、ラグとケースバックはカーボンTPT製である。防水性と耐久性が高い素材ではあるが、ダイビングする時は慎重に。このモデルは世界限定120本、価格は税込みで3388万円である。
世界最薄の機械式腕時計「RM UP-01 フェラーリ」
手巻き(Cal.RMUP-01)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。Tiケース(縦39×横51mm、厚さ1.75mm)。10m防水。世界限定150本。2億6180万円(税込み)。
厚さ1.75mmという、世界最薄の機械式時計が「RM UP-01 フェラーリ」である。横幅51mmのケースはグレード5のチタン製で、搭載されている手巻きムーブメントCal.RMUP-01は、リシャール・ミルがAPルノー・エ・パピの開発部門と共同で開発したものだ。厚さはわずか1.18mmだが、日常使いに適した約45時間のパワーリザーブを備えている。
ムーブメントの厚さを抑えるため、リシャール・ミルは通常の時分針を廃し、2枚の歯車を時分針に見立てた。また、超薄型の脱進機が採用されている。ガンギ車は剣先と小ツバを廃し、6つの錘を備えたフリースプラングテンプはチタン製だ。
薄いケースを実現するため、RM UP-01 フェラーリからは一般的なスタイルのリュウズも取り除かれている。リュウズの役割を果たすのは、ムーブメントの空白部分に収納されているファンクションセレクターと巻き上げおよび時間合わせ機構だ。
非常に独創的なフラットデザインでありながら、トノーシェイプやリシャール・ミルの様式にのっとったネジなど、ブランド独自の特徴を備えている。また、パートナーシップもリシャール・ミルにとって重要な要素だ。RM UP-01はリシャール・ミルとフェラーリがコラボレーションした初めての時計であり、その証にフェラーリのロゴである“跳ね馬”があしらわれている。
世界限定150本のRM UP-01は、税込みで2億6180万円。これは中古のフェラーリ・テスタロッサ約13台と同等の金額である。
https://www.webchronos.net/features/94730/
https://www.webchronos.net/features/91808/
https://www.webchronos.net/features/91832/