2019年のデビュー以来、スポーティー&シックの新たなアイコンを演じる「アルパイン イーグル」。最新の日本限定モデルは、ブラックダイアルが印象的な、その名も「SHIKKOKU」。日本の伝統的な漆工芸に通じる深い黒と、白い輝きが美しいルーセントスティール™によるモノトーンの意匠に表現されているのは力強さ、威厳、そして禅の美学だ。
100本の日本限定モデルは、スポーティーでエレガントなケースとブレスレットに独自のルーセントスティール™を用い、イーグルの虹彩に想を得たサンバーストモチーフの型打ちダイアルをガルバニック処理で漆黒に彩った特別仕様。自動巻き(Cal.Chopard 01.15-C)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm、厚さ9.7mm)。100m防水。215万6000円(税込み)。
菅原茂:取材・文 Text by Shigeru Sugawara
Edited by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]
アルパイン イーグル × 稲垣啓太
デビューから約4年、「アルパイン イーグル」に初めて日本限定モデルが誕生した。最大の特徴は「SHIKKOKU」と命名されたユニークなブラックダイアルである。これまでのモデルに採用されているアレッチブルー、ベルニナグレー、ピッチブラックなど、アルプスの自然に通じる象徴的なカラーとは異なり、イーグルの虹彩に想を得たサンバーストモチーフの型打ちダイアルは漆黒に彩られ、そこに日本的な伝統美が見て取れる。
発表に合わせて来日したショパール共同社長カール-フリードリッヒ・ショイフレは「アルパイン イーグルの人気が最も高い国は日本。その感謝を表したく、日本限定エディションの『SHIKKOKU』を発表することになりました」と語り、「ダイアルはその名のように真っ黒で、もちろん針は時刻を知らせてはくれますが、そこに主題を置いているわけではありません」と続ける。黒はまさに自然、神秘、静寂を象徴する色。そして禅の美学に通じる素朴さと端正の粋を極める色でもあり、控えめなスタイリングによる個性の表現を好む日本人の感性にもなじみやすい。ただ、ブラックダイアルによる時刻表示そのものが主題ではないというのはどういうことか?
答えは「非常に大胆かつ力強いデザインで、実際に手首に着けてみるとその特別感が感じられる」という言葉から察することができる。「アルパイン イーグル」には、スポーティーでシックなテイストのみならず、イーグルに象徴される力強さと威厳が同時に備わる腕時計なのである。それを漆黒の演出によって一段と引き立てたということだ。
ショパールが新たなアンバサダーとしてラグビー選手の稲垣啓太を迎えたのもそれと無縁ではないはず。発表会でカール-フリードリッヒ・ショイフレは「本日ようやくお目にかかれ、恐らく彼以上にこの時計が似合う人はこの世に存在しないと実感した」と絶賛。一方、今回のアンバサダー選出に感謝する稲垣啓太も「実は黒が一番好きな色。黒よりもさらに深く黒にこだわったということで、その職人の魂に感銘を受けました」と述べた。漆黒の腕時計と日本を代表し、グローバルに活躍するこの人物とが、力強さや威厳のイメージで見事に符合した。
国立競技場で行われた新作・アンバサダー就任発表会
2019年11月に竣工し、さまざまなスポーツの会場となった国立競技場は、建築家・隈研吾が手掛け、木材を生かした構造が森を思わせるユニークなスタジアム。アルプスの大自然からインスピレーションを得たアルパイン イーグルの日本限定モデルのお披露目はもちろん、日本を代表するアスリートをアンバサダーに迎える舞台としても絶好のロケーションだ。
来日したショパール共同社長カール-フリードリッヒ・ショイフレと、アンバサダーに就任したラグビー日本代表の稲垣啓太は、この特別な空間をしばし楽しんだようだ。
サステナブル・ラグジュアリーへの情熱
リサイクルスティールを推し進めるショパール
持続可能な素材の調達によってラグジュアリーの新たな未来の構築に取り組み始めてから10年。ショパールがエシカルゴールドに続いて目標に掲げたのは、2025年までにリサイクル率90%以上のルーセントスティール™をケースなどの外装に使用すること。環境に配慮した循環型の時計製造が求められる今、自ら範を示すのがショパールである。
スイス高級時計の名だたるキープレイヤーの中でも、最近のSDGsにつながる時計づくりを早くから実践してきたのがショパールだ。「サプライチェーン全体を通して、より責任ある調達を実現するための複数年にわたる取り組み」として「サステナブル・ラグジュアリーへの旅」と題したプログラムを発表したのは、10年前の2013年だった。
18年には同年7月までに自社のすべての時計と宝飾品に100%エシカルゴールドを使用することを発表。続く19年には、リサイクルスティールを70%含有する独自素材のルーセントスティール™を使用した初のコレクション「アルパイン イーグル」を発表して世界から注目を浴びた。
自社製ムーブメントを搭載して1997年にデビューを飾った初代から想を得て、小ぶりなケースにルーセントスティール™を用い、サーモンダイアルを組み合わせる。C.O.S.C.およびジュネーブ・シール認証取得のCal.L.U.C 96.40-Lは、初代Cal.L.U.C 1.96(現L.U.C 96.01-L)からの進化版だ。自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径36.5mm、厚さ8.2mm)。30m防水。予価326万7000円(税込み)。年内発売予定。
そして今年、ジュネーブで開催されたウォッチズ&ワンダーズで、共同社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレとキャロライン・ショイフレからルーセントスティール™のさらなる進展についての発表があった。それは、ショパールのスティール製腕時計について、23年末までにリサイクル率80%のルーセントスティール™をすべてのSS製ウォッチに採用、そして25年までにそのリサイクル率を90%以上へと引き上げるという新たな目標を揚げた。比率の向上はまた、CO2排出量の削減にもつながるという。
「L.U.C 1860」同様、ルーセントスティール™をケースとブレスレットに用い、C.O.S.C.およびジュネーブ・シール取得のムーブメントを搭載して薄型を実現。アルプスの名峰モンテローザにちなむピンクダイアルをセット。自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径41mm、厚さ8mm)。100m防水。予価316万8000円(税込み)。年内発売予定。
つまり、あと数年でショパールのスティール製腕時計がすべて高純度リサイクルスティールで製造され、理想的な循環型製造体制が確立することになる。優秀な自社製ムーブメントはもとより、今度は用途が多いステンレススティールも自社オリジナルという、特別なマニュファクチュールへと発展するわけだ。
ところで、高品質な廃棄スティールを原材料とし、独自の再精錬で新たなリサイクルスティールに生まれ変わったルーセントスティール™は、再生素材といっても通常のスティールを上回る3つの特性が備わっているところが画期的だ。すなわち、単なるリサイクルではなく、付加価値も生み出しているのである。
まず、サージカルスティール並みの高い皮膚適合性があり、皮膚に優しく、金属アレルギーを起こしにくいこと。次に従来のスティールに比べて50%以上も高い摩耗耐性だ。そして、優れた均質性を持つ結晶微細構造により、従来のスティールにはない高度な光反射性があり、ホワイトゴールドのような美しい輝きを放つ点である。2010年代半ばから着手した開発には、十分な量の原材料の収集も含め、約4年の歳月を要した。
ダイアルにムービングダイヤモンドをあしらう「ハッピースポーツ」に加わった25mmのミニサイズ。ルーセントスティール™や、エシカルゴールドとのコンビなど7モデルを展開し、小ぶりな腕時計をダブルループストラップが引き立てる。クォーツ。SSケース(直径25mm、厚さ8.74mm)。30m防水。予価63万2500円(税込み)。今夏発売予定。
ルーセントスティール™は、すでに述べたように19年のアルパイン イーグルコレクションで初めて使われ、スポーティーなスタイリングのキーポイントになってきたが、23年の新作では、この新素材がアルパイン イーグル以外のさまざまなモデルにも波及していることは注目に値する。具体的には、最もクラシカルな「L.U.C. 1860」、カーレースにちなむクロノグラフの「ミッレ ミリア」、ムービングダイヤモンドが目にも楽しいレディースウォッチの「ハッピースポーツ」などだ。今後はますます多用され、ブランドとプロダクトの価値向上に貢献するのは間違いない。
「ミッレ ミリア」の公式タイムキーパーを務めるショパールの代表的スポーツウォッチにもルーセントスティール™を採用。ダイアルカラーやボックス型サファイアクリスタルがヴィンテージの味わいを演出する。自動巻き。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ12.88mm)。50m防水。127万6000円(税込み)。
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