今年、オーデマ ピゲを代表するふたつのコレクションが、それぞれ節目を迎えた。ひとつは誕生5年目の「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」。そしてもうひとつが、誕生30周年となる「ロイヤル オーク オフショア」だ。記念すべき2023年に送り出された新作は、どれもオーデマ ピゲのアイコンを祝うにふさわしい完成度を誇る。
シグネチャーカラーの「ナイトブルー、クラウド50」モデル。3つあるインダイアルのうち、6時位置のスモールセコンドのみグレーとすることで、クロノグラフ用の積算計とひと目で見分けられるようにしている。自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.6mm)。3気圧防水。434万5000円(税込み)。
(右)CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック
SSモデルでは唯一のグラデーション文字盤を持つのが、セラミックスとのコンビネーションモデルだ。ミドルケースのほかに、リュウズにもブラックセラミックスが使用される。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS×セラミックケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。346万5000円(税込み)。
細田雄人(本誌):取材・文 Edited and Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ
2019年のSIHHで話題を集めた「CODE 11.59 バイ オーデマピゲ」(以下、CODE 11.59)も、ついに登場から5年目の節目を迎えた。発表当初は賛否の飛び交った同シリーズだったが、実際に愛好家の手に触れる機会が多くなるに連れ、市場に受け入れられていったのも記憶に新しい。過去のオーデマ ピゲのプロダクトを総括した、しかし全く新しいデザインを持つ腕時計。発表当時、一風変わった扱いを受けていたCODE 11.59も、今やブランドを代表するコレクションのひとつとなった。
そんなCODE 11.59の5年目は、これまでで最も革新的な年かもしれない。というのも、ケース素材は18Kゴールドもしくはセラミックスというこれまでの慣例を破り、初めてステンレススティールを使用したのである。これまでCODE 11.59 がスティールをケースに用いてこなかった理由は、マーケティング的な意味合いだけではなく、凝った形状のケースデザインが大きかったと考えていた。ゴールドより硬いステンレススティールで、8角形のミドルケースやラグと一体化したベゼルを切削によって成形することは技術的に難しい、と。
しかし、実際はそうではなかったようだ。掲載カットを見ても明らかなように、ケース構造を変えることなく、オーデマ ピゲは見事にCODE 11.59のケースをステンレススティールで再現してみせたのである。ミドルケースの面と面が重なり合う8つの角が見事に切り立っているなど、仕上げの質は18Kゴールドと遜色ない。
ケース素材の変更に合わせて、既存モデルとの差別化を図ったのが文字盤だ。CODE 11.59といえば磨き上げられたラッカー文字盤も特徴のひとつだったが、ステンレススティールモデルでは、プレスによってパターンを型打ちし、その上からPVD(ベージュ文字盤のみガルバニック)で色を載せている。塗装にしなかったのは深く打ちつけた型の立体感を損なわないためだろう。ラッカーと比べ、薄い皮膜を作るこれらの手法は、パターンのエッジをスポイルすることなく、文字盤の着色を可能にした。光の当たり方で表情を変える平滑なラッカー文字盤も魅力的だが、かつてSSケースを持つロイヤル オーク オフショアが、エンボスによるパターン文字盤をブランドの象徴にまで育て上げたことを考えれば、CODE 11.59のSSモデルには、このエンボス文字盤の方がしっくりくる。
既存のモデルとは素材もキャラクターも異なる、新バリエーションの誕生。これはCODE 11.59が、今後数十年にわたりアイコンとしてブランドを引っ張っていくために必要不可欠な挑戦である。
こちらはグリーン文字盤モデル。色味はカーキに近く、テキスタイル調の同色ストラップと組み合わせることによって、落ち着きのある仕上がりを得た。なお、SSモデルではインデックスと時分針に蓄光塗料を塗布する。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。313万5000円(税込み)。
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30周年を迎えた〝ビースト〟
30周年を記念して現行モデルに加わった新色。直径43mmと大ぶりだが、手首に沿うケース構造と軽量なセラミックスのため、装着感は良好だ。接触面が大きく取られたプッシュボタンのおかげで、クロノグラフの操作感にも優れる。自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックセラミックス×18KYGケース(直径43mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。748万円(税込み)。
(右)ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ
初代オフショアを復刻したRef. 26238CE。オフショアとしては初のフルセラミックモデルでもある。ケース素材とムーブメント以外はケースのエッジの立ち方まで含めて、忠実に再現されている。外装のクォリティを見れば、価格も納得だ。自動巻き(Cal.4404)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブラックセラミックケース(直径42mm、厚さ15.3mm)。10気圧防水。1045万円(税込み)。
「ロイヤル オーク オフショア」のアニバーサリーイヤーを祝うのは、オリジナルモデルである“ビースト”の復刻モデルと、オリジナルの正常進化モデルという、ふたつの「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ」だ。ここではオフショアの歴史を簡単に振り返ったうえで、今年の新作であるこの2モデルの特徴を見ていきたい。
1999年発売のアーノルド・シュワルツェネッガーとのコラボレーションモデル「エンド オブ デイズ」をモチーフにした限定品。オフショアの人気を決定的にした名作を彷彿させる。ムーブメントスペックはレギュラーモデルに同じ。ブラックセラミックス×Tiケース(直径43mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。世界限定500本。748万円(税込み)。
昨年の「ロイヤル オーク」50周年に続いて、誕生30周年を迎えた「ロイヤル オーク オフショア」。そもそもロイヤル オーク オフショアは、ジェラルド・ジェンタによってデザインされたロイヤル オークを若者向けに仕立て直したい、という当時のCEOステファン・ウルクハートの命によって、開発がスタートしたモデルだった。リデザインに当たったのは当時、社内デザイナーだったエマニュエル・ギュエ。今でこそ名デザイナーと評される彼だが、計画がスタートした1989年時点ではまだ22歳と若く、これが事実上の初作品であった。
今でこそ信じ難いが、ギュエによって生まれ変わったロイヤル オーク オフショアは、かつてのロイヤル オークや後年の「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」同様にデビュー当初、否定的な声が多かった。直径42mmのケースが当時としては異例な大きさだったことに加え、価格も並行して販売されていたロイヤル オーク Ref.14790の約2倍だったというから、同作の成功を疑問視する声が多かったことも無理はないだろう。しかし、結果は周知の通り。ロイヤル オーク同様にイタリア市場を起点に売り上げを伸ばしていった“ビースト”は、オーデマ ピゲが若年層の新しい顧客を獲得することに貢献したのだ。
そんなロイヤル オーク オフショアのアニバーサリーイヤーを祝うにふさわしい新作が、3つの「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ」だ。ひとつは初代ビーストをオフショア初のフルセラミックスで復刻したRef.26238CEである。同作ではプチタペストリーの文字盤や通称“ジェンタ針”といった、初代ならではの意匠が忠実に再現されている。同作を手に取れば、ギュエがどんな意図を持ってロイヤル オークを拡大し、厚みを持たせ、マッシブなオフショアを生み出したのかが伝わってくる。
対して2型がラインナップされるRef.26420CEは、ビーストの正常進化モデルとも言うべき存在だ。太くなった「AP」ロゴやメガタペストリー文字盤など、オフショアのマッシブさをより強調したデザインは、次世代型オフショアの在るべき姿を反映したと言える。
なお、初代復刻デザインの26238CEと、新デザインを持つ26420CEは同じセラミックケースながら、明確に設計思想が異なっている。前者はケースの角が切り立っており、非常にシャープに仕上げられているのに対して、後者の角は適度に落とされているのだ。26238CEのケースの立ち方は、間違いなく1990年代の価値観を踏襲した、まさに復刻と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。しかし、半面、装着感は肌あたりの良い26420CEに分がある。ケースデザインに人間工学を取り入れ、秀でたインターチェンジャブルストラップ機構を採用する現行オフショアのレギュラーモデルとしてはこちらの方が正統だ。
今やブランドを代表するアイコンにまで成長したロイヤル オーク オフショア。ロイヤル オークを仕立て直すというアイデアからスタートしたオフショアが、ひとつのコレクションとしてこれほどまでに発信力を持てたのは、プロダクトのコンセプトが明確に設定されていたからだ。それを何よりも物語っているのが、前述した26238CEと26420CEの、異なるケース仕上げなのである。
ロイヤル オーク オフショア 30年間の歩み
1993年 | ロイヤル オーク オフショア デビュー① |
1996年 | 6モデルが追加で発表 |
2003年 | 10周年の年に、スイスのヨットチーム、アリンギとのコラボ レーションモデルRef.25995IPが登場② |
2005年 | ミュージシャンのジェイ・Zとのコラボレーションモデル Ref.26005を発表。ミュージシャンとの協業はこれが初 |
2013年 | 20周年の年に、NBL選手のレブロン・ジェームス限定モ デル、Ref.26210が登場③ |
2023年 | デビュー30周年を記念したRef.26420が発表される |
【ロイヤル オーク オフショア 30周年オリジナルコンテンツ】
オフィシャルウェブサイト内では、今年30周年を迎えたロイヤル オーク オフショアの歴史をまとめたオリジナルコンテンツを公開中。
【特別展示「ロイヤル オーク オフショア 30年の歩み」】
銀座ブティックでは30周年を記念した特別展示「ロイヤル オーク オフショア 30年の歩み」を開催中だ。
Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000
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