狙うなら今!? 海外オークショニアが注目するダニエル・ロートの時計

2023.06.05

時計オークションで注目を浴びているのは、今やラグジュアリースポーツウォッチだけではない。今回は、老舗オークションハウス「ボナムズ香港」時計部門のディレクターを務めるシャロン・チャンが、今注目すべきブランド、ダニエル・ロートについて紹介する。

ボナムズ香港

シャロン・チャン(ボナムズ香港):文
Text by Sharon Chan(Bonhams Hong Kong)
(2023年6月5日掲載記事)


今、ダニエル・ロートの時計に注目する理由

 2023年3月27日から4月2日まで開催されたウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2023とは別に、コレクターの間で最も話題となったのが、ダニエル・ロート ブランドの再生であった。

 2000年にブルガリに買収されて以来、ダニエル・ロートは流行り廃りを繰り返し、ブルガリはその特徴であるアイコニックなダブルオーバル型ケース、通称「ダブルエリプスケース」を使ったコンプリケーションウォッチをいくつか発表したが、ブランドの知名度を高めることはできなかった。

ダニエル・ロート

ダニエル・ロートの作品で最もアイコニックなトゥールビヨン搭載モデル。ダブルオーバル型のダブルエリプスケースは、今もブランドのシグネチャーである。

 幸い、近年は独立系マイクロメゾンの時計が人気を集めている。ダニエル・ロートのような著名な時計が復活を遂げたことで、多くのコレクターがブランドへの回帰を目指すようになったのだ。

 新生ダニエル・ロートから発表された新しいモデルは、ダニエル・ロート初のトゥールビヨン搭載モデル「C187」に非常によく似ている。今やトゥールビヨンは多くの時計に採用されているが、本作はこの象徴的な機能を最初のモデルに採用した。

ダニエル・ロート

2023年、LVMHグループのラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンに所属する時計師、ミシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニの支援を受けて復活したダニエル・ロート。限定20本の「トゥールビヨン・スースクリプション」はオリジナルを再現しながら細部がアレンジされている。

 重力による影響をなくすために、回転するキャリッジに脱進機を収めたトゥールビヨンは、言うまでもなく複雑機構であり、技術的に卓越したもののひとつだ。

 新作「トゥールビヨン・スースクリプション」は、わずか20本の限定生産で、注文確定時にデポジットを支払い、2024年の納品時に残金を支払うというスースクリプション方式で提供される。 本作はオーダー制で20本のみの限定販売であった。

 一瞬にして完売したのは、市場がすでにダニエル・ロートの台頭を感じ取っていた証しであり、トゥールビヨンの高い品質が、経験豊富なコレクターにとって依然として魅力的であることを示しているだろう。

 実際、“マスター”の手仕事をもう一度見たいと思う人にとっては、新しい時計だけが選択肢ではない。ブルガリがダニエル・ロート名義で発表したグランドコンプリケーションにも、新作に勝るとも劣らないトゥールビヨンを搭載しているのである。

パピヨン トゥールビヨン セントラル

ブルガリ「パピヨン トゥールビヨン セントラル」
ジャンピングアワーとセンタートゥールビヨンを併載した稀少な1本が、2023年5月30日に行われたボナムズ香港時計オークションに出品。このプラチナモデルは10本、18Kピンクゴールドモデルは20本のみが製作された。手巻き(Cal.BVL 266)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ptケース(直径45mm、厚さ11.9mm)。世界限定30本。落札予想価格20万~40万香港ドル。落札価格51万2000香港ドル(バイヤーズプレミアムを含む)。

 5月に開催されたボナムズ香港のオークションに出品されたのは、2015年に登場した「パピヨン トゥールビヨン セントラル」。稀少なセンタートゥールビヨン、ジャンピングアワー表示、特徴的な分針など、ダニエル・ロートらしい要素を備えている。

パピヨン トゥールビヨン セントラル

 発表当初は140万香港ドル近い価格だったパピヨン トゥールビヨン セントラルは、ボナムズの落札予想価格が20万香港ドルから40万香港ドルの間で見積もられており、機能、稀少性、そして価格の面で有用な選択肢となるだろう。


目を向けるべきは“ラグスポ”よりも独立系

 近年、F.P.ジュルヌやジョージ・ダニエルズ、フィリップ・デュフォーなど、著名な時計師の作品がオークションに出品され、その価格が上がっていることが多く見られる。

 これらと同じ世代のクラシックとして、ダニエル・ロートの過去の作品は他と比べるとまだ値上がりしていないため、手に入れるなら今が絶好の機会だろう。特に、ブランドが復活し、初の新作時計が注目を集め始めたこのタイミングである。

ジョージ・ダニエルズ

フィリップス主催の「ジュネーブ・ウォッチ・オークションXVI」に出品されたジョージ・ダニエルズ作の腕時計。それぞれが1億円を超える価格で落札された。

 ステンレススティール製のスポーツウォッチは、依然として市場で最も人気のジャンルだが、現在は高価なコンプリケーションモデルが上昇傾向にある。

 スポーツウォッチの価格は、2022年の不況後、まだ以前のような高値に戻っていない。今は“ラグスポ”の価格変動を追い求めるよりも、同価格帯のダニエル・ロートのような、愛好家からの支持が熱い有望なモデルを探求する方が望ましいだろう。


著者「シャロン・チャン」プロフィール

 シャロン・チャンは、アジアにおけるボナムズ時計部門のディレクターである。香港を拠点に、アジア太平洋地域の事務所と密接に連携し、同部門が年に10回開催するオークションの監督を務めている。

シャロン・チャン

シャロン・チャン/ボナムズ香港 時計部門ディレクター
2017から18年、オークション事業に復帰し、ボナムズに入社する前にはプロフェッショナルとしてのキャリアを広げ、プライベートウォッチビジネスとクライアントコンサルティングを運営した。その豊富な経験から、世界中のコレクターとの強いコネクションを持ち、アジアにおける時計市場の拡大に重要な役割を担っている。

 これまで多くの国際的なオークションハウスでのジュエリーと時計のオークションビジネスにおいて、17年以上の経験を積み、2011年から2016年にかけては、香港で時計オークションを指揮。売り上げを年々強化し、2013年にはアジアでの時計販売で最高額を達成した。また、世界最大級のプライベートウォッチコレクションの監督責任者を務め、2015年のオークションで600万USドルという新記録を打ち立てた。


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