1940年代のジラール・ペルゴ製レクタンギュラーウォッチをベースに誕生した、「ヴィンテージ 1945」。同社の歴史の一端を垣間見ることのできる同コレクションの魅力を、日本限定200本の稀少モデル、「ヴィンテージ 1945 グレー 日本限定モデル」とともに解き明かしていく。
日本のみで200本が展開される限定モデル。イギリスのことわざである“Every cloud has a silver lining.(どんな雲も裏側は銀色に輝いている)”をモチーフとした、グレーのインデックスにブルーの針が映える1本だ。自動巻き(Cal.GP03300)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(縦33.3×横32.46mm、厚さ9.66mm)。30m防水。日本限定200本。172万7000円(税込み)。
野島翼:文 Text by Tsubasa Nojima
2023年6月15日公開記事
ヴィンテージ 1945 コレクションの誕生
時計職人であるジャン=フランソワ・ボットが、1791年にジュネーブで設立した時計工房を始まりとするジラール・ぺルゴ。時計を自社で一貫生産できるマニュファクチュールとして、現在も多くの時計愛好家が憧れるブランドのひとつだ。現在では大きく5つのコレクションを擁しており、それぞれに同社が歩んできた豊かな歴史を象徴するストーリーが込められている。
その中でも恐らく、最も認知度の高いコレクションは、ラグジュアリースポーツウォッチ人気の加熱とともに、さらに注目を集めた「ロレアート」だろう。1975年に誕生したファーストモデルのデザインをベースに、幾度ものアップデートを加えて進化したロレアートは、優れた外装と実用性によって好評を博し、同社を代表するコレクションへと成長した。
しかし、その人気ぶりの陰に隠れてしまったコレクションがあることも否めない。今回は、ジラール・ぺルゴの“隠れた名作”、「ヴィンテージ 1945」にスポットを当てる。
ヴィンテージ 1945が誕生したのは95年のことだ。デザインしたのは、92年に同社CEOに就任したルイジ・マカルーソ。優れた経営者であると同時に、プロダクトマネージャーとしての才覚も持ち合わせていた彼は、CEO就任以前から、同社のアーカイブピースに着想を得た時計をいくつも世に送り出していた。
ヴィンテージ 1945にも、ベースとなったモデルが存在する。40年代に同社が発表したレクタンギュラーウォッチだ。ジラール・ぺルゴは、30年代初頭にアメリカに組み立て工場を設立し、以降、同国市場での展開を本格化させた。当時、現地で主流となっていたのは、アールデコ様式を取り入れた金張りのレクタンギュラーウォッチだ。同社もその流れに乗り、やがてそのうちのひとつが50年の時を超えて復活することとなる。
95年の初代モデルは、プゾー製の薄型手巻き式ムーブメントであるキャリバー7001を搭載していたが、翌年には自社製自動巻きムーブメントのキャリバーGP3000を採用した。以降、ヴィンテージ1945とキャリバーGP3000/GP3100の系譜は互いに熟成を重ね、玄人好みの名作のひとつとして定番化していく。
曲線をまとう日本限定モデルの造形美
ヴィンテージ 1945には、スモールセコンド式のシンプルなモデルから、トゥールビヨンやクロノグラフ、ムーンフェイズ表示といった複雑機構や付加機構を搭載したモデルまで、数多くのバリエーションが存在する。
これは、同社がマニュファクチュールとして卓抜した開発力を有していることが背景にあるが、今回はその中でもオリジナルのデザインを色濃く残す、スモールセコンドを備えた最新モデルに注目したい。それも日本限定200本の希少品、「ヴィンテージ 1945 グレー 日本限定モデル」だ。
ヴィンテージ 1945の最大の特徴は、全体を大きく湾曲させたケースラインだろう。手首に沿ったエルゴノミックなケースは、装着感の向上に寄与するだけでなく、コレクションを特徴付けるアイコンとしても機能している。
1945年のオリジナルモデルは、ミドルケースこそ湾曲していたものの、ケースバックは平坦であった。オリジナルの特徴を生かしつつ、現代的に使いやすいプロダクトへと進化させたことに、マカルーソの手腕が光っている。
その様子は、ケースサイドから確認するとよく分かる。一方のラグから反対のラグまでがアーチを描き、ベゼルやサファイアクリスタルまでも同様にカーブを描いている。
驚くべきは、ダイアルまでもが湾曲している点だ。本作のケース厚は9.66mm。ここまで徹底的に湾曲させつつケースを薄く仕立てるには、ムーブメントも含めたトータルでのパッケージングに気を配る必要がある。これまで数多の時計を開発してきた、老舗ブランドならではの知見があったからこそ成し得たことだろう。
アールデコ様式のデザインにも注目したい。正面から見たレクタンギュラー型のケースやベゼルは、幾何学的なフォルムで構成されている。特にオリジナルモデルを強く想起させるのは、ラグの付け根に与えられた一段盛り上がったディテールだ。これによって、直線的なケースラインを強調するとともに、他のレクタンギュラーウォッチとの明確な差別化に成功している。
本作がテーマとしているのは、“Every cloud has a silver lining.(どんな雲も裏側は銀色に輝いている)”というイギリスのことわざだ。そのことを最も体現しているのが、ダイアルである。伸びやかなローマンインデックスは雲を表すグレーカラー。ブルーの針は、その切れ間にのぞく青空を表現している。一見してオーソドックスなデザインに見えるが、そこに込められたメッセージは、オーナーを密やかに鼓舞してくれるに違いない。
ダイアル自体にも、凝ったディテールが与えられている。ミニッツマーカーはダイアルの中心寄りに配され、それを境として内側にはギヨシェ装飾が施されている。外側はわずかにザラついた質感を持ち、メリハリを利かせている。
9時位置のスモールセコンドには、ダイアル中心部と同様にギヨシェ装飾が施されている。その繊細な仕上がりに目を奪われてしまうが、サークルの外周にも注目したい。ダイアルは先述の通り湾曲しているが、スモールセコンドは水平にデザインされている。そのため、中心寄りでは縁が厚く、外端寄りでは逆に薄くなっているのだ。これによって生み出された陰影が、ダイアルの立体感を強調している。
同様の効果を生んでいるのが、デイト窓だ。縁が斜めに処理されているため、こちらの方がより高低差を感じやすいだろう。本作のデイト窓は、他の時計ではあまり見られない1時半位置に配されている。日付表示は、3時または6時位置がポピュラーだが、その場合はインデックスに被ってしまうことが多い。そのことを嫌った結果として、4時半位置に配したものは珍しくないが、本作が1時半位置を採用したのはなぜだろうか?
これはあくまでも筆者の想像だが、左手首に時計を装着して日付を確認する際に、4時半よりも1時半の方が自然に読み取りやすい角度であるからではないだろうか。ドレッシーな時計に日付表示は野暮だという意見もあるが、ダイアルに立体的な表情を与え、インデックスのバランスを損ねることなく実用性を高めている本作に関しては、むしろ歓迎すべきポイントではないだろうか。
シルバーダイアルにグレーのインデックスという、比較的コントラストの低いカラーリングの中でアクセントとなっているのが、ブルーの針だ。ドーフィン型の時分針はしっかりとした太さを持ちつつ、ダイアルに合わせて先端を曲げており、視認性と判読性を高めている。スモールセコンドの秒針は、中腹をわずかに膨らませたリーフ型を採用し、丸型のカウンターウェイトとともに、小さいながらも確かな存在感を放っている。
シースルー仕様の裏蓋からは、自社製薄型自動巻きムーブメントのキャリバーGP03300を鑑賞することが可能だ。受けに施されたコート・ド・ジュネーブと面取りや、地板のペルラージュ装飾は、見る者の目を喜ばせてくれる。このムーブメントの厚さは、わずか3.2mm。この薄さこそ、本作の大きく湾曲したケースを実現させるための要であるのだ。
ケースにかっちりと嚙み合ったアリゲーターストラップも、特徴的なケースラインに統一感を与えている。その色味はインデックスと同じグレーを採用し、これによって醸し出される柔らかな雰囲気が、ドレッシーなヴィンテージ 1945に適度なカジュアルさをもたらしている。
名門ジラール・ペルゴの歴史の一端をバックグラウンドに持ち、1995年の誕生以来、アイコニックなデザインを守りつつも着実に進化を遂げてきたヴィンテージ 1945。その妙味に加え、稀少な限定モデルとしての特別感と、そこに秘められたメッセージがオーナーを勇気づける本作は、伝統に敬意を払いながらも常にチャレンジし続ける人にこそふさわしい1本だ。
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