ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブでも、バーゼルワールド同様の強い存在感を見せつけるウブロ。驚くほどの多作でありながらも、質を高め、また面白い試みを盛り込むところに同社の勢いがある。2023年は、原点である“The Art of Fusion” に回帰。しかし、同社が打ち出したのは、サファイアクリスタルやカーボンの全く新しい見せ方である。
2軸のトゥールビヨンにバイレトログラードを合わせた超大作。6時方向に大きく風防を伸ばしたのは、サファイアクリスタルの扱いに長けたウブロならでは。破損を防ぐため、あえてレトログラードは逆戻しができないようになっている。手巻き(Cal.HUB6200)。44石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約96時間。Tiケース(直径44mm、厚さ16.7mm)。3気圧防水。世界限定50本。2021万8000円(税込み)。
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Chronos Japan Edition (Yukiya Suzuki, Yuto Hosoda)
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]
サファイアクリスタルやカーボンの新しい見せ方
LVHMウォッチウィークで新作を発表したウブロは、続く3月のW&WGでもさらにお披露目した。新作数が多いため、ウブロの方向性はなかなか見いだしにくいが、今年も全面的に素材を打ち出した。
もっとも、同社がベクトルを明快にできたのは、各コレクションの在り方が定まってきたからではないか。「クラシック・フュージョン」はユニークなドレスウォッチとしての立ち位置を強め、その一方で、一体型のブレスレットを完成させた「ビッグ・バン」は、スポーティーさをいっそう強調するようになった。既存のビッグ・バンとは異なる新たな層には「スクエア・バン」をリリースし、また、複雑時計の優れたプラットフォームとして、マイクロローターを備えたスケルトントゥールビヨンも完成させた。2023年の新作を俯瞰すると、同社はこういったベースの上に、さまざまな素材を展開したのである。
カーボンにテキサリウムを一体化させることで、軽さと堅牢さを強調したモデル。他のモデルにはすでに採用されているが、2023年はブレスレットにもあしらった。自動巻き(Cal.HUB6035)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。カーボンファイバー×テキサリウムケース(直径43mm、厚さ14.15mm)。3気圧防水。世界限定50本。1618万1000円(税込み)。
その表れのひとつが、カーボン素材だ。他社がこの素材に距離を置くなか、ウブロは「ビッグ・バン ウニコ」「ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン」、そして「ウニコ ゴルフ」等にカーボンモデルを追加した。しかも、独特な模様とテキサリウムをレイヤードしたカーボンと、パターンを使い分けている。ゴルフカウンターを設けたモデルにカーボンを採用するのは、ビッグ・バンのスポーティーさを強調するためか。
2022年の日本限定版である「ビッグ・バン ウニコ カーボン ホワイト」が好評を博したためか、今年の日本限定には、スカイブルーのコンポジットを加えた、マットスカイブルーカーボンが採用された。ブルーとブラックの混在にもかかわらず、発色は良好だ。自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。カーボンケース(直径44mm)。10気圧防水。日本限定100本。344万3000円(税込み)。
また「クリスタルウォッチの第一人者」を自任する同社は、例年以上にサファイアクリスタルケースを投入した。今年のハイライトは、ブルーサファイアクリスタルを全面にあしらった「ビッグ・バン インテグレーテッド トゥールビヨン フルブルーサファイア」である。あえてブレスレットにも採用したのは、加工技術に自信があるためか。ブレスレットの連結部にチタン製のスリーブを打ち込み、そこにリンクをつなぐピンを押し込んでいる。もっとも、加工が極めて難しいためか、限定数はわずか10本のみ。
長年サファイアクリスタルの研究開発に取り組んでいるウブロ。今年は、鮮やかなブルーサファイアをブレスレットにも採用した。加工が難しいことを考えれば、限定10本は当然か。ブレスのリンク部に、ノウハウが見て取れる。自動巻き(Cal.HUB6035)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブルーサファイアクリスタルケース(直径43mm、厚さ15.25mm)。3気圧防水。世界限定10本。6739万7000円(税込み)。
また新しいスクエア・バンにも、早速サファイア素材が投入された。複数のサファイアクリスタルをサンドウィッチ状に重ねたにもかかわらず、ケースに内蔵された防水パッキンを感じさせないのは、同素材の扱いに慣れたウブロらしい。
ヒット作、スクエア・バンに加わったフルサファイアクリスタルモデル。小ぶりなスクエア・バンに、軽いサファイアケースはうってつけだ。一見シチュエーションを選びそうだが、熟成したウニコと合わせて、実用性は高いだろう。自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。サファイアクリスタルケース(直径42mm、厚さ15.4mm)。5気圧防水。世界限定250本。1213万3000円(税込み)。
個人的に感心させられたのは、「スクエア・バン」のブラックマジックである。外装全面にブラックセラミックスをあしらっているが、全長が短く、時計が軽いため、実用性は高そうだ。素材で遊んではいるものの、スクエア・バンのキャラクターを壊さない程度に抑えた手腕は冴えている。
これは「クラシック・フュージョン クロノグラフ オーリンスキー フルチタニウム」も同様だ。ブラックのポリッシュラッカーダイアルがもたらすドレスウォッチ感を邪魔しないよう、多角形のケースは磨かれただけでなく、リュウズやプッシュボタンなども丸められている。立体的なビッグ・バンならさておき、薄くて軽いクラシック・フュージョンならば、これぐらい抑えた表現は正解だろう。
個人的に引かれたのが本作。軽いセラミック素材と、小さくて相対的に薄いスクエア・バンケースの組み合わせは、実用に向くだろう。ビジネスユースでも使える時計だが、鏡面仕上げのエッジを目立たせることで、ラグジュアリー感を添える。自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブラックセラミックケース(直径42mm、厚さ14.7mm)。10気圧防水。336万6000円(税込み)。
オーリンスキーに新しく加わったのが、チタンケースのクロノグラフ版である。デザイン自体は既存の3針に同じだが、文字盤が平たくなり、プッシュボタンに丸みが付けられた結果、デザインウォッチの枠を超えた汎用性を持つに至った。自動巻き(Cal.HUB1153)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Tiケース(直径41mm、厚さ12mm)。10気圧防水。世界限定250本。233万2000円(税込み)。
新作で改めて感じたのは、マイクロロータートゥールビヨンキャリバーHUB6035の素性の良さだ。スケルトンを前提としたコンプリケーションにもかかわらず、どんな素材や色にも合う汎用性の高さは、ちょっと類を見ない。そこまで考えて設計するところに、今のウブロの実力がある。
ゴルフカウンターを備えたビッグ・バン ウニコ ゴルフは、発表以来、カーボンケースのみを採用してきた。カウンターのためかなり大きいが、重量は約98gに留まる。カウンターの操作感は成熟された。自動巻き(Cal.HUB1580)。43石。パワーリザーブ約72時間。カーボンファイバー×テキサリウムケース(直径45mm、厚さ18.1mm)。10気圧防水。世界限定100本。416万9000円(税込み)。
ケース全面にバゲットカットされた貴石と半貴石を合計324個もあしらった新作。基本的な構成はこれまでのレインボーに準じるが、石を目立たせるためか、スモールセコンドがスケルトン化されたほか、文字盤もグレーとなった。自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kキングゴールドケース(直径44mm)。10気圧防水。5122万7000円(税込み)。
女性ユーザーの拡大を図るウブロ。その表れのひとつが、コンパクトなスピリット オブ ビッグ・バンだ。搭載するのは汎用ムーブメントだが、さすがにウブロだけあって、高級機らしい緻密な感触に仕立て直されている。ダイヤモンドのセッティングも自社。自動巻き(Cal.HUB1120)。18石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径32mm)。10気圧防水。201万3000円(税込み)。
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