F.P.ジュルヌが2015年から開催している「ヤング・タレント・コンペティション」は、才能ある若き時計師の発掘と育成に貢献してきた。2023年は、若きフランス人時計師、アレクサンドル・アズマンの「AH.02 シグネチャー」が受賞した。
[2023年7月12日公開記事]
F.P.ジュルヌとアワーグラスが開催する「ヤング・タレント・コンペティション」
2015年より、ラグジュアリーウォッチのリテーラー、アワーグラスの協力のもとF.P.ジュルヌが開催している「ヤング・タレント・コンペティション」。フランソワ-ポール・ジュルヌとアワーグラスのマイケル・テイは、高級時計製造の技術を伝え、職人の技を広めるという同じ目標を有している。
ヤング・タレント・コンペティションの審査は、技術面、製作の複雑性、デザインセンス、美的感覚、そして職人技の質を基準として行われる。
参加者は自分自身で時計の設計・製作を行わなければならない。そして、受賞者には賞状と、道具の入手や時計製作プロジェクトに使うことができる2万スイスフランの小切手が贈られる。
審査員を務めるのは、フィリップ・デュフォー、アンドレアス・ストレラー、ジュリオ・パピ、マーク・ジェニ、マイケル・テイ、エリザベス・ドーア、フランソワ-ポール・ジュルヌといった、時計業界の大物たちだ。
2023年に受賞したのは、アレクサンドル・アズマン「AH.02 シグネチャー」
2023年の受賞作品には、アレクサンドル・アズマンによる「AH.02 シグネチャー」が選ばれた。アレクサンドル・アズマンは、フランス・ポンタルリエ出身の23歳。2022年7月に、モルトーのリセ・エドガー・フォーレ高等学校(Lycée Edgar Faure de Morteau)を修了した。
同校での時計師課程の7年目に、生徒たちは卒業製作を行う。課題は、ジャンピングアワーとソヌリ機能を搭載した時計を作ることだった。製作の起点には「幸福になるために欠けているものとは?」という哲学的な問いも設けられた。
「私は情熱というテーマに向きあうことにし、このプロジェクトの全体的デザインを、いくつもの軸をベースに組み立てました。バランス、軽さ、時計師にとってのアートなどです。AH.02 シグネチャーは、豊かであふれんばかりの考えを生む、深い真摯な反応に着想を得たものとなっています」と、アレクサンドル・アズマンは語っている。
AH.02 シグネチャーは、彼の長年の友人であるヴィクトール・モンナンとの共作だ。「何年もふたりで一緒に勉強するうちに、チームワークの重要性が理解できました。私たちは兄弟のように、お互い哲学と志を共有しています」。
「さらに、それぞれの得意分野はお互いを補えるものでした。ヴィクトールはプロジェクト管理と進行、パーツ製作を担いました。私は時計の組み立て、計算が得意で、プロトタイプ製作を行いました」
ふたりによる時計の製作は、2021年10月4日から2022年6月10日まで続いた。まず、2021年の10月から11月にかけて、時計のデザインを含むスケッチを描くことから始めた。そして12月から2022年1月にかけて、コンピューターでのデザイン検証と数値計算に取り掛かった。
次に、2月から3月末までの約2カ月で、すべての部品を製作している。「風防、ブレスレット、ベースムーブメント以外はすべて自作したことを強調しておきます」とアレクサンドルは付け加える。
「部品はCNC旋盤だけでなく、フライス盤やポインティングのような伝統的な機械も使って製作しました。ベースムーブメントのLJP6900は、簡単な仕上げのみがされている状態でした。そのため、ふたりでブリッジや地板の切り出しを行う必要がありました」
4月は、プロトタイプ製作と精度の安定化に費やされた。「この工程は私にとって、最も複雑なものでした」と、アレクサンドルは語る。
「完璧な精度で機能し、計時を行う時計を生み出すために、問題をひとつずつ洗い出し、それを解決することが目的でした。その後、伝統的な機械を使用して、ふたつのコンプリケーションを備えたムーブメントを納めるためのステンレススティール製ケースを製作しました」
5月は仕上げに充てられた。「ブリッジの表面、文字盤、地板のサンドブラストなどの仕上げをやっと行いました。ガルバニック加工を行う業者を見つける必要もありました。そして最終的な組み立てを行い、6月初旬に完成を目指しました」。
時計全体を完成させるのに、合計でほぼ8カ月、1200時間以上もの作業時間を要した。ペースは非常に速く(1日約15時間)、休日なしに進められたという。
搭載されるソヌリにより、時計は1時間ごとに1回打刻する。アレクサンドルたちはジャンピングアワーとハンマーの動きを組み合わせることを選択し、1サイクルで3つの動作を行うレバーを採用した。最初の動作は、ムーブメント中心にあるアワーのカムに対し常に接しているというものだ。
ふたつめの動作は、ジャンピングアワーのためにレバーがカムに落ちた時に遊星歯車へと作用するもの。最後の3つめの動作は、レバーがハンマーを可動域のアーチにそって動かし、カムがジャンプした時に開放することにより、慣性をゴングに放ち打刻させるものだ。
「私たちはさらに、カムが片方にしか回転せず、壊れにくい一方向の時刻調整システムも開発しました。またタイマーと時刻合わせ歯車の間には、可倒式のピニオンが取り付けられています。もし間違った方向に時間を修正した場合、ピニオンは引っ込み、空回りします」
アレクサンドルは次のように締めくくっている。「この製作は私たちにとって大きな意味があります。7年間の勉強を最高の形で終わらせたかったのです。この冒険を通して、卒業製作を実際の仕事のプロジェクトへとつなげ、自らのキャリアを押し上げるトランポリンのようなものとしたいと思いました」。
「友人のヴィクトール・モンナンと一緒に、いつか自分たちの独立した工房を立ち上げ、このふたつの印象的な時計を製作しようと決めました。前途は険しく、長い道のりであることは承知しています」
ヤング・タレント・コンペティションを受賞し、大きな一歩を踏み出したアレクサンドル・アズマン。若き時計師の今後に期待したい。
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