レーシングカーの計器をデザインコンセプトとしたレゼルボワール「GTツアー レーシング」を着用レビューする。レゼルボワールは読み間違えが許されない計測器のデザインに着目したブランドで、本作ではジャンピングアワー表示とレトログラード機構によってRPMカウンターの表示形式を取り込んでいる。今回、実際に着用してみて、時間が読み取りやすく、使い勝手に問題がないことが分かった。また、操作性を始めとした実用機としての完成度も良好であった。よって、本作の世界観に共感できるモータースポーツファンにとって、手に取ってみる価値のある1本と言えるだろう。
Text and Photographs by Shin-ichi Sato
[2023年7月11日公開記事]
レゼルボワール「GTツアー レーシング」について
時計ブランドは数多あり、それぞれに特徴がある。多くのブランドではベーシックなモデルとブランドの特色が色濃く出たモデルをラインナップすることが多い中で、あるテーマで統一したラインナップを持つブランドも存在する。そのひとつがレゼルボワールだ。
レゼルボワールの特徴は、多くのモデルが計測器の表示形式を取り込んだデザインを持つ点である。このデザインで特徴的なのは、ダイアル1周を12時間もしくは60分とする従来の表示形態を見直したことだ。
レゼルボワールが考える最適な表示形式は何か? 同社が注目したのは過酷な環境で読み間違いが許されない計測器である。そこでレゼルボワールは、計測器の機能的なスタイルを取り入れ、240°のレトログラード分針とジャンピングアワーの組み合わせを主軸に置き、自動車のRPMカウンター(タコメーターとも呼ばれる)や潜水艦やダイビングでの圧力計、水深計のデザインを取り入れている。
自動巻き(Cal.RSV-240)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径43mm)。5気圧防水。77万7700円(税込み)。
それらのモデルの中で、今回インプレッションするのは、レーシングカーのRPMカウンターをデザインベースとした「GTツアー レーシング」だ。240°のレトログラード表示による分表示を備え、0から6のインデックスが与えられている。ダイアル中央部には「MINUTES ×10」とあり、これもRPMカウンターを思わせるディティールだ。
いくつかあるGTツアーのバリエーションの中で、本作はカーボンダイアルを備える点が特徴で、赤く、細長い針との組み合わせによって、現代的なレーシングカーの計器をデザインイメージとしている。6時位置には大きなジャンピングアワー表示を備え、その下部には燃料計を模したパワーリザーブ表示を備える。
特徴的な表示形式に身構える必要はない
レトログラード表示の時計は特別に珍しいものではないが、所有したことがない人も多いであろう。心配されるのは視認性(見えやすいか?)と可読性(時刻を認知できるか?)だろうか。まず、GTツアー レーシングの視認性については問題ない。針がどこを指しているかは明白であるし、時針がないため一般の二針あるいは三針モデルと見間違えて困惑することもなかった。
では次に可読性はどうか? 業務経験から色々な計器を見慣れている筆者にとっては問題なかった。たしかに、着用1週間程度では瞬時の正確な測時は難しいかもしれない。しかし、数日も着用していれば、パッと見た際に針が真上を指していれば1時間の半分、すなわち30分程度といったように、おおよそのアタリが付くようになった。そこから必要に応じて5分あるいは1分単位を細かく読み取れば良い。
時間表示については、何時間も作業に没頭して時間が分からなくなるようなシチュエーションでもなければ迷うこともなかったし、大きなジャンピングアワー表示によって可読性も高い。
ダイアルには編み込まれたカーボンシートが用いられている。見る角度で変化が生じつつダークな色調で視認性が良い。また、斜めから見ると編み込みの立体感が強調されて表情が生まれる点も、本作を選ぶ際のポイントになるだろう。
良好な操作感と巻き上げ効率
リュウズはねじ込み式で、やや鋭い刻みが施されていて操作感が良い。レトログラード式の時刻表示ということで当初は怖々と時刻調整していたが、分針が”6”まで到達すると直ちに帰零しつつジャンピングアワーが明確に、そして安定して切り替わる。ゆっくりと丁寧に操作する当たり前の所作に気を付ければ問題なさそうだ。
リュウズを用いて手巻きすれば1/2程度まですぐに巻き上がるし、歩行の少ない筆者のライフスタイルでも、1日の収支はわずかにマイナスといった程度で推移し、巻き上げ効率が良好である印象を持った。
ムーブメントのCal.RSV-240はラ・ジュー・ペレのG100ベースであり、一部の基本設計は評価の高いミヨタの9000系である。なるほど、良いはずだ。なお、燃料計を模したパワーリザーブ表示によってパワーリザーブの管理も容易だ。
着用時には、1時間に一度、デイトが切り替わるような「チャキッ」という小気味の良い音と共に分針が帰零する様子を(運さえ良ければ)楽しめる。調整の甘いデイト切り替えのような誤差もなかった。
大型ながら悪くない着用感と快適なストラップ
ケース径43mm、厚さ13.3mm(筆者実測)と大型の部類になるが、手首が周長約18cmの筆者にとって着用感は悪くなかった。ラグ形状が手首に沿うように曲げてある効果だろう。
ストラップは厚手でパンチングメッシュが施されたレザーストラップである。大きく穴が開いたラリータイプなどと呼ばれるもので、本作のテーマであるモータースポーツとマッチしている。インプレッションは6月末と蒸し暑い日も増えた頃だが、思ったより蒸れが抑えられていて快適であった。大きな穴の効果は確かにあるようだ。
ストラップやや厚手だがしなやかな革が用いられており、なじみが早くてインプレッション後半にはフィット感が良くなっていた。また、厚手ゆえに剛性感もあり、大型のヘッドをしっかりと支えることで着用感の良さにつながっている。
個性的故に贅沢な注文をつけたくなる
しばらく着用してみると、当初の「手強そうだな」というイメージとは裏腹に使い心地が良かった。一方、個性的なモデル故に、贅沢と分かりつつもマニアックな注文をつけたくなる部分もあった。
ひとつ目は、暗所での視認性である。本作には蓄光が備わっておらず、ダイアルが黒系統で針は赤と、周囲が少し暗いと針がダイアルに溶け込んで視認性が悪化しやすい。インデックスの一部と、実際のメーター風に針裏に蓄光を忍ばせるなどして改善して欲しいポイントだ。
もうひとつは極めて個人的かつわがままな希望だが、ジャンピングアワーによる時間表示は12時間表記ではなくて24時間表記にして欲しかった。本作はカーボンダイアルで現代的なレーシングカーをモチーフとしており、イメージ画像でもWECのLMPクラスを想わせるマシンが登場している。
LMPクラスのマシンとはすわなち、ル・マン24時間レースで用いられるクラスであるので、24時間表記が欲しいと感じたわけだ。本作やレゼルボワールの世界観に共感して本作を選ぶほどの熱心なモータースポーツファンに訴求するならば、そこまで追い込んでも良かったのではないだろうか?
自動車好きにとって語れるポイントがある
GTツアー レーシングは、特徴的なデザインと表示形式により万人にオススメできるようなモデルではないし、レゼルボワールもそれを狙っていないだろう。一方、レゼルボワールや本作の世界観に共感できる人にとっては魅力的である。
GTツアーシリーズはダイアルデザインを自動車からサンプリングしただけでなく、RPMカウンターの表示形式を取り込むために、一般的ではないレトログラード機構をわざわざ採用している。言い換えるとダイアルデザインと機構に合理性がある。
この点は、ユーザーにとって「語れるポイント」となり、カーガイや自動車を生業としている人にとって本作を選択する動機になる。また、クラシカルな雰囲気のあるデザインにまとめられており、最新のスーパースポーツカーだけでなく、クラシックカーファンにも受け入れられやすいだろう。
視認性(可読性)も良好であり、機構面も安定していることが確認できたので、実用機としての完成度も上々であると評価できる。これらから、本作の世界観に共感し、約78万円のプライスタグを受け入れられる方にとって、店頭まで足を運んで手に取る価値が十分にある。
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